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感想・レビュー・書評
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あんなに心優しくて感受性の豊かだった楊令が、冷徹な戦を指揮するようになった。
それは結局、梁山泊は冷徹になりきれないから宋軍に負けたのだ、ということと、長引く戦が庶民を疲弊させるから、ということなのだとは思う。
それにしても楊令、変わってしまった。
もう一人。
青蓮寺から方臘の下に送られた許定。
チャンスが来るまで一人敵の中で息を潜め、失敗すればそのまま切り捨てられる。
それをわかっていたはずなのに、方臘に重用されるにつれ変わっていく。
宋軍に対して、軍人として、存分に戦う。苛烈なまでに。
それが許定を変えたのか。
それとも、方臘に取り込まれてしまったのか。
方臘の下で呉用も変わる。
「方針は私が決める。方法はお前が考えろ」
絶対の信頼。
梁山泊ではとことん嫌われている呉用が、ここでは100%受け入れられる。
今ここにいる自分は、梁山泊の呉用なのか、方臘の軍師である趙仁なのか。
揺れる呉用。
人は変わっていく。
そう思って読んでいた。
楊令が、鄭天寿〈ていてんじゅ〉の遺した薬草をまだ持っていることを王母に告げた時、楊令の本質は変わっていないことを知った。
だとしたら楊令はつらいね。
人の感情をなくしてしまったかのようにふるまう、頭領としての楊令。
ひたすらに楊令を仰ぐ梁山泊の面々。
「無理するな。お前は頭領だが、人間としてはまだ青二才だ」と言ってくれる人がそばにいない。
しかし、そんな人がそばにいたら、きっと楊令はもっと辛い。
幸せになれない子、楊令。
“「きちんと生きるとは、どういうことでしょうか?」
「自分に、恥じないことだ。人を裏切らない。卑怯なことをしない。うまくお前に説明できるほど、俺は多くの言葉を持っていないが」”