楊令伝 三 盤紆の章 (集英社文庫) [Kindle]

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  • 宋の北方では金が遼を攻め込み、南では喫菜事魔を掲げる方臘が江南攻めを初めほぼ手中に収める。宋の延臣らは足の引っ張りあいをに執心するが、倒れる気配のない宋。
    梁山泊ではついに楊令が頭領として立つのであった。

  • あんなに心優しくて感受性の豊かだった楊令が、冷徹な戦を指揮するようになった。
    それは結局、梁山泊は冷徹になりきれないから宋軍に負けたのだ、ということと、長引く戦が庶民を疲弊させるから、ということなのだとは思う。
    それにしても楊令、変わってしまった。

    もう一人。
    青蓮寺から方臘の下に送られた許定。
    チャンスが来るまで一人敵の中で息を潜め、失敗すればそのまま切り捨てられる。
    それをわかっていたはずなのに、方臘に重用されるにつれ変わっていく。
    宋軍に対して、軍人として、存分に戦う。苛烈なまでに。
    それが許定を変えたのか。
    それとも、方臘に取り込まれてしまったのか。

    方臘の下で呉用も変わる。
    「方針は私が決める。方法はお前が考えろ」
    絶対の信頼。
    梁山泊ではとことん嫌われている呉用が、ここでは100%受け入れられる。
    今ここにいる自分は、梁山泊の呉用なのか、方臘の軍師である趙仁なのか。
    揺れる呉用。

    人は変わっていく。
    そう思って読んでいた。
    楊令が、鄭天寿〈ていてんじゅ〉の遺した薬草をまだ持っていることを王母に告げた時、楊令の本質は変わっていないことを知った。

    だとしたら楊令はつらいね。
    人の感情をなくしてしまったかのようにふるまう、頭領としての楊令。
    ひたすらに楊令を仰ぐ梁山泊の面々。

    「無理するな。お前は頭領だが、人間としてはまだ青二才だ」と言ってくれる人がそばにいない。
    しかし、そんな人がそばにいたら、きっと楊令はもっと辛い。
    幸せになれない子、楊令。

    “「きちんと生きるとは、どういうことでしょうか?」
    「自分に、恥じないことだ。人を裏切らない。卑怯なことをしない。うまくお前に説明できるほど、俺は多くの言葉を持っていないが」”

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著者プロフィール

北方謙三

一九四七年、佐賀県唐津市に生まれる。七三年、中央大学法学部を卒業。八一年、ハードボイルド小説『弔鐘はるかなり』で注目を集め、八三年『眠りなき夜』で吉川英治文学新人賞、八五年『渇きの街』で日本推理作家協会賞を受賞。八九年『武王の門』で歴史小説にも進出、九一年に『破軍の星』で柴田錬三郎賞、二〇〇四年に『楊家将』で吉川英治文学賞など数々の受賞を誇る。一三年に紫綬褒章受章、一六年に「大水滸伝」シリーズ(全五十一巻)で菊池寛賞を受賞した。二〇年、旭日小綬章受章。『悪党の裔』『道誉なり』『絶海にあらず』『魂の沃野』など著書多数。

「2022年 『楠木正成(下) 新装版』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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