- Amazon.co.jp ・電子書籍 (388ページ)
感想・レビュー・書評
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この小説が著者の他の小説と異なるのは、異常な精神状態にあった戦時中の日本が抱えていた問題あるいは矛盾が聖書の精神に照らされて指摘されるでもなく、また、聖書の言葉の解釈によって解決の指針を与えるでもなく、ただ、普通の精神をもった善良なる登場人物たち(すべてがキリスト教信者として設定されていない)が感じる「違和感」を散りばめるに留まっているところである。太平洋戦争のテーマは大きい。また、激動の昭和時代を振り返るというテーマが与えられていて太平洋戦争のみに深入りできなかったこともあるだろうが、いつも何か生きるヒントのようなものをもらって勇気づけられてきた者としては読後にいささか物足りないものを感じた。そんな中で、思想統一の暴走によって当局に勾留されることになる綴り方、今で言う作文の重要性に重ねて説かれた「個人の尊さ」がとても印象に残った。
所々文章を引用させてもらいながら要約するとこうだ。
綴り方は、同じ題でも書かれたものは一人一人異なる。綴り方は本来人真似のできないものであって、誰にも真似できないことを自分で書くということである。つまり、一人一人の人間が、いろいろの生活を様々に感じたり、様々に見つめたりして生きているということである。
一人一人の人間の心が違うということ、自分の考えを持って生きるということは大切なことである。転ずれば自分が生まれたきたことを大切にしなければならないということである。自分と同じ人間は地球が始まって以来、地球がなくなるまで二度と生まれてこない。一人一人が尊い命をもっているのだから。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
こんなに読みやすい文体だと思わなかった。