- Amazon.co.jp ・電子書籍 (277ページ)
感想・レビュー・書評
-
2つの短編に1つの中編を含むが、3編共に魅力的な登場人物、舞台設定の作品。
トリックの巧妙さよりも、こうした作品が記憶に残る。特に中編「トランプ台上の首」の船上惣菜屋が面白いキャラ。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
『幽霊座』
私も歌舞伎には疎く用語も知らないので、辞書首っ引き(kindle版なので検索しまくり)で読みましたが、うらぶれた劇場を舞台とした世界観の描写が味わい深く、他の作品にない色彩が印象的でした。
プロットはまずまず。自分にはよくわかりませんが、梨園の特殊性というか、独特の芸術世界の空気は漂ってきます。ただ本名と芸名(?)が混在するので、途中で誰が誰やらわからなくなり、ページを戻ることもしばしば。
『鴉』
僻村を舞台とした横溝翁の他の作品に比べて、荒寥とした雰囲気が漂います。
短編なので、一部を除いて村の情景や村人とのやり取りがきわめて少なく、あまり僻村の雰囲気には浸れません。蓮池家とおこもり堂と地蔵崩れの崖付近の三箇所に、場面がほぼ限定されているせいか。
ヒロインは“童女のように潔らかで美しい”若妻・珠生なのでしょうけど、私が魅力的だと思うのは、珠生の従姉妹の幾代。彼女も美しく、しかも若くて悧巧で活動的です。
『トランプ台上の首』
他二編の収録作品に比べて若干分量が多く、そのおかげで完成度も頭一つ抜けているように思います。プロットやトリックもダイナミックだし……。
この事件では、所轄署の 捜査主任・菅井警部補が、金田一に対して敵意を露わにする様子が全編にわたって見られます。珍しいことですね。もっとも最後は、金田一に対するわだかまりは氷解し、新たに彼の信奉者に名前を連ねることになります。