- Amazon.co.jp ・電子書籍 (326ページ)
感想・レビュー・書評
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名探偵・金田一耕助の推理が冴える中編3編。
BS-NHKのドラマ「貸しボート十三号」(池松壮亮主演)
を観て購入したのは昔の角川文庫(古書)だが、
表紙画像が気に入ったのでkindle版を登録。
相棒を岡山の磯川警部が務め、東京の等々力警部が務め、
最後は両者が相まみえるという趣向の一冊で、
ファンには楽しい内容。
■湖泥
岡山県の、とある農村。
ダム湖の畔。
元は同じ一つの家だったが今はいがみ合う仲だという
北神・西神両家の跡取りが奪い合いを演じた
若い女性・御子柴由紀子が失踪。
警察が捜索すると……。
雑然とした都会は人間同士の結びつきが弱く、
一見平和そうな田舎の方が、
ふとしたきっかけで恐ろしい出来事が起こる可能性が高い
と語る磯川警部。
一同に白眼視され、いつしか風景に溶け込むように
存在感を失った人物の復讐とも取れる事件。
■貸しボート十三号
隅田川の河口に漂う貸しボートの中に、男女の凄惨な死体が……。
名門大学の強豪ボート部を巻き込んだ、
恋と友情を巡る事件の真相を金田一耕助が暴く。
それでいて「推理というほどのものはなかったんです」(p.227)
と嘯く飄々とした名探偵なのだった。
■堕ちたる天女
トラックの後部から脱落した荷物は、
死体を石膏で固めた像だった……。
等々力警部と金田一耕助が事件の真相に迫る。
怨恨や、大切な人を守ろうとして
行き過ぎた行動を取ったがための殺人には酌量の余地があるが、
金銭目的とは言語道断、ゲスの極み――と断罪する名探偵。
それは至極もっともなのだが、
下世話過ぎる犯行動機に呆れ、疲れ果てた金田一のセリフ、
「ぼく、かえります。かえって酒でも飲んで寝るんです」(p.357)
には、ちょっと笑ってしまった。
終盤で、等々力警部と、
金田一に呼ばれて上京した磯川警部が対面するシーンは
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表紙が70年代でもある電子書籍版で登録しましたが、実物は古書で入手した本です。因習にとらわれた地方の農村で起こる猟奇的な事件にぴったりの、日に焼けかなりしょっぱくなった古本です。やっぱり、こういうのは洗練された電子書籍より、ぼろぼろ感あふれる紙のほうが雰囲気があっているような気がします。
3篇の不気味かつ複雑怪奇な事件が納められていますが、そのどれもが歪な愛の形。もちろん欲で凝り固まったりしていますが、他に奪われたりしないように邪魔者を何とか排除したりと(方法は異常かつ変態的!)相手に向けてのモウレツな欲望の表現であることに気づきます。
毎日TVで流れる犯罪・事件はまったく別物になってしまった印象です。愛どころか対象は誰でもよく、動機も自分の欲求というよりは代理だったり、挙句子供ですら放置して殺してしまうという、無視・無関心の果ての事件が多くなったような・・・この不条理感を横溝氏だったらどのように描くのでしょうか。金田一探偵は解決できるのでしょうか。
血みどろ変態事件を読みながら、なぜか懐かしい郷愁さえ呼び起こしてしまった自分に危うさを感じつつ・・・
BGMは70年代の香りたっぷり「犬神家の一族」サントラ。 -
表題作「貸しボート十三号」の学生達と金田一や等々力警部達とのやりとりがミステリーとも思えぬユーモアに溢れて面白い。ただし事件はかなり凄惨。
同じように「堕ちたる天女」での金田一もなかなかユーモラス。この作品ではありそうでなかった、等々力警部と磯川警部の対面というボーナス付き。 -
未読だった金田一モノ。『湖泥』『貸しボート十三号』『堕ちたる天女』の三篇を収録。
短編集なのでそれほど期待していなかったのだけど、どれも良質の金田一モノだったので満足。シリーズの中にはやたらと描写だけが大げさでトリックがイマイチ、という作品もあるので、当たり作品が増えるのは嬉しい。短編なのにちゃんと家同士の対立というお約束まで盛り込まれているし(笑)。
『湖泥』の冒頭のセリフも、口調で誰が話しているかすぐにわかったし、久しぶりに旧友に会ったみたいな気分。楽しませてくれてありがとう。 -
『湖泥』 金田一耕助シリーズ
二つの家が対立する村。そこで起きた結婚騒動から殺人事件へ。
発見者は湖から拾い上げた死体を保存していた。そして新たな被害者が・・・。
『貸しボート十三号』 金田一耕助シリーズ
ボートの中で見つかった男女の死体。二人とも首を中途半端な状態に切られていた。
被害者が所属するボート部に聞き込みに現れた金田一耕助。
『堕ちたる天女』 金田一耕助シリーズ
石膏の中から現れた死体。被害者は同性愛者の女。男女の同性愛者が事件にかかわりを持つ。
等々力警部と磯川警部の共演。
2009年2月16日購入
2009年2月28日初読