海と毒薬 (角川文庫) [Kindle]

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著者 : 遠藤周作
  • KADOKAWA / 角川書店 (2001年1月12日発売)
  • Amazon.co.jp ・電子書籍 (165ページ)

海と毒薬 (角川文庫)の感想・レビュー・書評

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  • 実際にあった、九州大学医学部生体解剖事件をモチーフにした小説。
    何も知らないアメリカ兵の捕虜を、実験台にしてしまうなんて、グロすぎて読むのに耐えられなかった。

    太平洋戦争時、空襲で死ぬか結核で死ぬか。死んでしまうのなら、いずれにせよ、別にどうでもいいのではないかと、日本人が死と隣り合わせな時代。
    医療に携わっていたものなら、この実験に参加してしまった罪を責められるであろうか。

    私は、きっと勝呂と同じなのかなぁ・・・。

  • 高校の国語の時間で課題図書に指定され、「タイトルの『海』と『毒薬』とは何を象徴しているのか述べよ」と問われた記憶があり、大人になって再読。

    当時は戦時中に起こった「外国人捕虜の生体解剖実験」「前代未聞の事件」(※裏表紙あらすじ)を初めて知った衝撃が強かったが、今回はそれに関わった人たちの苦悩や罪の意識のほうに意識を集中して読んだ。
    自分が年齢を重ねたからこそ理解できる登場人物たちの心情もあり、自分だったらどうする?と考えてしまった。

    再読してよかった。やはり名作。

  • 「九州大学生体解剖事件」を題材にした話。
    諸外国においては、大多数の人間が宗教といったある種の統一的かつ絶対的な行動規範を持っているもの。
    一方で、それを持たない日本人。
    戦時下という極めて非日常の状況において、絶対的な判断基準を持つ欧米人、絶対的な判断基準を持たず揺れ動く日本人という二項対立を描いています。
    高校の現代文にもってこいの構成。
    ただ、内容はつらい。

  • 暗かった。
    そこはかとない暗さがあった。
    でも、何か惹きつけられる作品だった。

    ラストまで読んで・・・・
    それで、どうなったんだろうって凄く気になる終わり方だった。
    ある程度は分かっているんだけど、もっと詳細な行方が知りたかった。

    人の中にある、闇の部分がとてもリアルに描けていると感じました。

  • 遠藤周作作品はこれが初めてです。
    ずっと気になっていたものの難しそう、読みづらそうと思って後回しにしてたけどそんなことはなく読みやすかった。

    文章は読みやすいし先が気になってついどんどん読んでしまうけどストーリー自体は決して気楽な気持ちで読めるものではなかった。
    人の死と罪の意識がメインだと思うので雰囲気はとことん暗く、辛い。

    生体解剖のシーンもなかなかきつかったが、看護婦の章が個人的に思うところがあり読んでてかなり辛かった。

    罪の意識、戦時下の狂った雰囲気など考えるべき点は多い話だけど、私は薬を数種類常に服用しているので(この薬ができるまでにもたくさんの生き物の犠牲や協力があったのだろうな…)と思うと本当にありがたいというか…胸が締め付けられる気がした。
    この話はもちろんフィクションだけど、似たようなことがどこかで起きてはいるのだろうなと…。

  • あらすじを読んで終わった オカルトぽくて
    私、「幽霊屋敷」入れない 夜の便所が怖い

  • 初めて読んだ。遠藤氏は北氏経由でしかイメージを持っておらず,軽いエッセイなどは読んでいたが小説は初めてだった。難解で何でもなくテーマを勝呂医師や周辺の登場人物の語りで掘り下げていく。もっと解剖シーンがなまなましいのかと思っていたがそうでもなかった。北杜夫氏の「夜と霧の隅で」も再読してみよう。だいぶ前に読んだきりで何も想起できない。

  • 遠藤周作はエッセイを何冊か読んでいたのですが、小説はこれが初めてでした。
    確か母の本棚に「沈黙」が置いてあって、小学生ぐらいの頃から「読んでみたら」と言われていた気がするのですが、結局読まないまま大人になってしまっていました。

    太平洋戦争末期の1945年の8月に九州(帝国)大学の医学部で発生したアメリカ兵捕虜の生体解剖事件をモデルにした小説です。題材からして大分重いですよね。この事件、Wikipediaを読んでるだけで気が重くなります。

    とある街で医院を開く医師。腕は良いが陰鬱で得体のしれないこの医師・勝呂には曰くつきの過去があるらしい。
    事件の顛末は回想として描かれる。主人公は、F市の大学病院に研修生として勤める勝呂医師。彼の担当患者である「おばはん」が、実験に供されることに対する葛藤。そして学部内で展開している橋本・権藤の教授同士の派閥抗争に対する空虚な嫌悪感。抗争の最中に行われた橋本教授による田部婦人への手術の失敗とその隠蔽。そして橋本教授が巻き返しを図るために引き受けた米兵の生体実験への誘い。生体解剖実験の様子へ。という流れで話が進み、勝呂医師の他、研修生の同僚である戸田医師や看護師など周囲の人物それぞれの葛藤が描かれます。

    テーマは「良心の呵責」。
    遠藤周作はクリスチャン作家ですので、「罪の意識」といった方が適切かな。
    キリスト教徒にとっては必然であるところの「罪の意識」が、そうした軸を持たない日本人の個々人の中でどう処理されいるのか、というところが主題ですかね。

    日本人の、と書きましたが、この良心の呵責というものは文学にとっては非常に大きなテーマの一つですね。日本に限らずこのテーマを扱った作品はとても多い。それほど多くない僕の読書歴の中でもいくつも思い浮かびます。

    例えば、タイトルに罪の文字の入ったドストエフスキー「罪と罰」なんかは言わずもがな。優れた人間は社会道徳なんてぶっ飛ばしていいんだぜという独自理論に則り、殺人を計画するが、予期せぬ殺人まで追加せざるを得なかったことから良心の呵責が始まり…、というお話。まぁ最近のお話で分かりやすく言うとデスノートの主人公月が、新世界の神になるという自分正義論で行動し始めたけど、日常生活送ってるうちにん良心がうずいて葛藤しちゃう。そして最後には自首して終わり、という感じかな。ジャンプでやったら無理ですね。うん。

    あとはカミュの「異邦人」。「昨日、ママンが死んだ」という印象的な一文から始まるお話。ママンが死んだのに海に泳ぎに行くし、「太陽のせい」で人を殺すし、人生に意味も感じない倫理観のすっとんだ男の話。ストレートに良心とは何ぞやとか、理性って一体何だっけといったことを問いかける作品ですね。

    日本の文学作品で僕の中で最も強烈に思い浮かぶのは太宰治の「人間失格」。周囲のすべてを恐れ、自分が暴かれることを恐れ「道化」を演じ続ける男の話。今回この「海と毒薬」を読みながらものすごく強烈に思い出した作品がこれでした。

    なぜ「良心の呵責」がこれほど大きなテーマとなるのか。
    そしてもっと大きな問にしてしまえば、世界的に成功している宗教であるキリスト教はなぜ基本原理として「罪の意識」なんてものを必要とするのか。

    この難しい問題にスパッとした答えはとても出せないのですが、一つの考え方として、「心は見ることができない」という問題が挙げられるのではないかと思います。
    それは相手の心が分からないということでもありますし、同時に、頭の中で何を考えていようとも自分の心は人には絶対に知られない、ということでもあります。

     人を殺してはいけません。

    これは大抵の社会においてある程度広範に共有されるルールです。
    自分たちの社会を守るために必要だからですね。先頭に「自分たちの共同体内の」と付けても良いかもしれない。
    そしてこれらのルールを守るために、さらにその手前に道徳的なストッパーが置かれることになります。

     人を殺そうと思ってはいけません。

    であったり、

     人を殺してしまった場合、悪いことをしたと感じなければなりません。

    であったりといったルールが出てきます。

    こうした個人の内面に進んでくると、「まぁ確かに普通にそういう風に感じていれば人を殺すことはないよね」と理解できます。ただその一方で、そもそも人を殺してはいけないというところからスタートしてるのであれば、「実際に殺したりしなければ心の中で何考えていたって問題ないよね」という考えも出てくる訳です。

    もちろん、そう考えることも危険である。だから道徳が必要なんだ。

    というような反論も出てくるのですが、これに対しても、

    じゃあちゃんと悪いことは悪いと感じているようなふりをすれば済むな。

    という思考が出てきます。いたちごっこです。結局が心が見えないのであれば、内面はコントロールしようがありません。


    で、ですよ。
    じゃあ社会的にはきちんとした道徳的なふるまいをしながら、内面では何かしら踏み外したような思考をしている人がいたとして。社会の側から道徳やら何やらを掲げても究極的にはコントロールできないのだから、内面の自由を保つことができて万々歳なのかというとまた別の問題が登場します。

     俺ってば心の中ではこんな悪いこと考えてみたりしてるけど、これって俺が変なのか…?

    非道徳的なものは自分の外に出すことが憚られますので、周囲の人間と価値観を確かめ合うことがしにくいのです。みんながみんな表面上道徳的にふるまっているとなると、もしかしたら内面でおかしなことを考えてるのは自分だけで他のみんなは内面でもきちんと道徳的に考えることができているのではないか、という観念にとりつかれます。

    これは非常に怖い観念です。自分が気持ち悪く、他人が気持ち悪く、もうただただ恐ろしくなります。
    実際に僕は思春期にこの観念にとらわれまして「僕はきっと世の中で一番汚い人間なんだろう」などと考えては夜も眠れなくなるほど恐怖したものです。

    こうした思考にとらわれた人にとって「良心の呵責」をテーマにした小説というのは、ものすごく大切です。

     あぁ、僕だけじゃなかった

    そう感じることができるのは、これはもはや救いです。僕の場合は太宰治がそれでした。

    先に挙げた「人間失格」は中学か高校に入ったぐらいで読んだのですが、まぁとても極端な話です。極端な話、というか太宰がとても極端な人なんですね。

    人間失格について聞いた話で面白いと感じたのは、

    これは自分のことだと感じる人と、
    こんな理解不能な人間いるわけない感じる人と、

    きれいに2種類に別れるらしいという話です。

    僕の場合は完全に、あぁこれは自分のことだ、と感じた人間でした。
    もう自分以上にこれに共感できる人間いないだろうって思った程。

    その後、幸いにも人間失格に共感する人にもまったく共感しない人にも出会って、お酒を飲みながら喧々諤々議論をできるような恵まれました。その結果、まぁいろいろな考え方があるのだな、というものすごくありふれて常識的な思考を手に入れて現在に至っております。まったく大人になったものです。

    さて、少し話がずれましたが「人間失格」は極端な話であり、太宰は極端な人であるという話。

    共感しすぎるぐらいに共感してはいるんですが、共感できない人がいる、というのも分かるんです。だって壊れてるもんね、あの主人公。そして太宰も。
    太宰がすごいと思うのは、ある種の人間に共感させるポイントを描き引きつけておきながら思いっきり振りきってぶっ壊れてしまう様を見せること。そして太宰の小説や彼自身の行動が極端を振りきっているので、逆に共感しまくっている自分はそこまで壊れずに生活していけそうだな、と思えること。

    では今回読んだ「海と毒薬」はどうかというと、壊れとか極端というのとは程遠い。
    葛藤や、恐れ、迷い、躊躇い、憂鬱さなど、ぐるぐると考え、気持ちが揺れる様子をものすごく丁寧に描きます。
    登場人物たちの葛藤を追体験することによって、自分の似たような記憶が呼び起こされる人も居るんじゃないのかな。それぐらいリアル。

    戸田医師の少年時代の回想によってまんまと色々思い出してしまった結果、こんなに長々と語ってしまいました。

    そのくせ、長い間、ぼくは自分が良心の麻痺した男だと考えたことはなかった。良心の呵責とは今まで書いた通り、子供の時からぼくにとっては、他人の眼、社会の罰に対する恐怖だけだったのである。勿論、自分が善人だとは思いもしなかったが、どの友人も一皮向けば、ぼくと同じだと考えていたのだ。偶然の結果かもしれないが僕がやった事はいつも罰をうけることはなく、社会の非難をあびることはなかった。

    醜悪だとは思っている。だが醜悪だと思うことと苦しむこととは別の問題だ。
    それならば、なぜこんな手記を今日、ぼくは書いたのだろう。不気味だからだ。他人の眼や社会の罰だけにしか恐れを感ぜず、それが覗かれれば恐れも消える自分が不気味になってきたからだ。
    不気味といえば誇張がある。ふしぎのまだピッタリとする。ぼくはあなた達にもききたい。あなた達もやはり、僕と同じように一皮むけば、他人の死、他人の苦しみに無感動なのだろうか。多少の悪ならば社会から罰せられない以上はそれほどの後ろめたさ、恥しさもなく今日まで通してきたのだろうか。そしてある日、そんな自分がふしぎだと感じることがあるのだろうか。



    この問いかけ。えぐられますね。「日本人的良心」をこれ程的確にえぐる言葉はないんじゃないだろうか。
    リアルでもネットでも「空気を読む」ことがより強力に求められるようになっているように感じる最近の日本社会の背景にあるのは、こういった心理傾向なのかもしれませんね。

  • 重い話でした。実際に起こった出来事をベースにしていることに、ゾッとしました。戦時下では、人は人の心を失くすのだと痛感しました。

  • 戦時中の九州大学生体解剖事件をベースに小説化した作品。医療従事者のエピソードは創作と思うが、ここでも組織のごたごたに巻き込まれた人物たちの悲劇が語られる。
    読み物としては実に面白いのだが、裁判などの後日談やエピソードを入れないで、バッサリ終わるラストは物足りなさを感じてしまった。

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