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- / ISBN・EAN: 4934569644763
感想・レビュー・書評
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突然邦画が観たくなって。
ゆったりとした音楽と、都会でありがならものんびりとした田舎を思わせるような空気感で始まる本作品。
夫婦は、大きくはない居酒屋を経営している。常連客やサラリーマンで店内はにぎわっている。
開始7分。世界は一変する。
西川美和監督作品。
ふとした瞬間だった。ほんの少し、目を離しただけ。
夫婦は火事でお店を失ってしまう。
生きてゆくために現実を見て、強くしなやかに生きる妻役を松たか子、
現実を受け入れられずに絵にかいたように堕落する夫役を阿部サダヲが、それぞれ演じている。
しかし、妻は強くしなやかであるだけではなく、したたかさを持っていた。
そしてダメ夫は、馬鹿で素直で嘘がつけないが、愛されキャラだった。
強い妻は、ダメ夫のそのキャラクターを利用し、あることを思いつく。
二人の、再起をかけた、物語。
しかし。
この物語を、夫婦二人の、どんな物語とするか。
それはおそらく、観る側にゆだねられている。
夢を求め、夫婦一丸となって前を向いていこうとする物語か、
妻が夫に、仕返しをしていく物語か、
出来心が少し道を誤ったことによる顛末を描いた物語か、
女の子を嵌めまくる物語か。
もやもやする。これでいいのか感が半端ない。だけど、他に何があったというのだ。
けれど、これら全てが、この物語なのかもしれない。
中でもわたしは、「仕返し」を色濃く感じたかな。
松たか子の絶妙な表情の演技。強くしなやかな印象から、静かな怒りと孤独を抱え、夫を見るそのまなざし。前半と後半で、彼女の印象は変わっていく。
阿部サダヲは、流されつつも自分を犠牲にしてまで誰かのことを想っている感じを上手に演じててはまり役。
最後にタイトルの意味が、どしんと、くる。 -
小料理店を営む貫也と里子の夫婦は、5周年を迎えたその日に火事で店を失ってしまう。自分たちの店を持つという夢を諦めきれない2人は、資金繰りのため結婚詐欺を画策。里子が標的を見つけ、貫也が実行に移すという手口で結婚願望の強いOL、男運の悪い風俗嬢らを次々にだましていく。だが順調に進んでいた計画は徐々にほころびを見せ始め、夫婦の間にも微妙なずれが生じていく
松たか子さん、阿部サダヲさんの夫婦役は新鮮で強烈でした。本作でいう「夢」が結婚を示していたのにがっかりしたけれど、既婚者の私が云うのも口幅ったい物言いだろう。最近、めきめき逞しく成長を遂げたヒロインたちがドラマや映画で活躍する一方で、結婚願望を夢見る女たちの心情も見え隠れするのも感じられる。揺れ動く心理を、西川美和監督が実に鋭くえぐって来る巧妙さに舌を巻いた。
里子が少しづつ変わっていく見せ場がたまらない。夫の浮気がきっかけで企んだ計画を機に、里子自身も全く意識せずに(隠れていた内面が)噴出してくる。
騙された女性の中で、ひと際目を引いたのは女性ウェイトリフティング選手のひとみだった。演じたのは江原由夏さん、本物のアスリートを起用したのかと見紛うほど素人っぽさがにじみ出る好演に驚いた。貫也と里子は、ひとみの前では嘘をつき兄妹ということで結婚詐欺を画策。里子が身体の大きいひとみを「あんな人でも大丈夫?」と思わず貫也に本音を洩らし、貫也が「そういうふうに考える里子のほうがよほど気の毒だ」と返して怒る場面がある。貫也は重量挙げ大会で140kgの記録を出したひとみに感心し心から拍手を送るほど。結婚詐欺をするそれぞれのシーンに貫也の温かい人柄を感じられる。貫也は生活能力のないダメ男だが不器用な人間らしさを感じて憎めない奴だ。甲斐性のある女たちがほだされる所以はそのあたりか(笑)。横で見ている里子はいかにも不愉快そう。優位に立つ女の余裕が崩れていく表情は、今までの夫を支えて来た献身的な美人女房の仮面がはがれていくようだ。
ある日、里子はシンクの下に目のギラギラ光るドブネズミを見て、結婚詐欺をやっている自分を投影する。落ちぶれてしまったのは貫也が発端だったはず。彼女が輝きを失っていくのに、貫也はお芝居ともとれないほどターゲットの女たちに尽くしていく。歯がゆい気持ちが里子を駆り立てる。結婚詐欺が上手くいきお金が貯まっていけばいくほど、貫也と里子の距離は離れていった。寂しい里子が自慰をしたり、生理が来てがっかりするシーンは分り辛い。
結局、貫也は騙した女性の子供の罪をもかぶって刑務所に入る。ラストで2人は同時にカモメを見る。刑務所でカモメを見上げる貫也の表情はやわらかい。出所したらまた里子とやり直し、まっとうに働き、店を持とうという希望を持ち続けているのが伺える。それに較べ、港で働く里子のカモメを見る眼差しは険しい。
里子はクレバーな女性だ。このカップルは相容れないだろう。別れてしまった方がお互いのためかもしれない。二人を演じるのは、松たか子さん、阿部サダヲさんの夫婦以外には考えられないほど、ぴったりはまったキャスティングだった。
風俗で働く紀代が(金をむしり取ろうとする)前夫と貫也の前で「あたしは今が幸せだよ。自分の足で立っていられれば、自分で自分の落とし前をつけられれば」と言った言葉にも、はっとさせられた。-
しずくさん
おはようございます!
レビューへのコメントありがとうございます!
こちらにお邪魔しますね^^
しずくさんのレビュー、物語のま...しずくさん
おはようございます!
レビューへのコメントありがとうございます!
こちらにお邪魔しますね^^
しずくさんのレビュー、物語のまとめ方がお上手で、しかも選びとる語彙が映画の雰囲気を醸し出していて、すっごく素敵です。わたしにはこんなレビュー描けないです!!
阿部サダヲの表情がどんどん良くなっていくにつれ、一方の松たか子の表情がなくなっていく、お2人ともその距離感をとても上手に演じられていましたよね。
わたしもウエイトリフティングの方は気になっていました。わたしも選手だと思っていたので!彼女といる阿部サダヲの表情も絶妙でした。本当に、ダメだけど愛すべきところが溢れていて、阿部サダヲのああいう役ははまり役だなって。
松たか子の自慰と生理のシーンは印象に残っています。男性の監督だったらあの描き方はしないだろうなと思って、女性の繊細だけど激しく、しかし押し込めがちな感情をとても上手に演技という形で表現されているなと。
あの2人のこの先、気になりますね。最後の表情が全てで、あとは見る側に委ねられているんでしょうけど…
なんとなくですが、阿部サダヲはどんな未来であれそれを受け入れるでしょうし、松たか子はそれでも彼に執着するのかな、なんて思いました。賢い女性ほど、ああいう男に弱い気がして。
取りとめもなく長いコメントになってしまいました…
すみませんm(_ _)m
また映画の感想共有したいです^^
ありがとうございました!2021/04/08 -
naonaonao16gさん、御丁寧な返信をありがとうございました。あなたのレビューを読まなければ本作を見逃していたかも。感謝感謝です。
...naonaonao16gさん、御丁寧な返信をありがとうございました。あなたのレビューを読まなければ本作を見逃していたかも。感謝感謝です。
しかもそれほどまでのレビューではないのに、褒めて下さるなんて・・・(汗)。皆さんの感想を拝見するたびに、自分の視力低下や頭脳減退を思い知らされています。私の方こそため息をつきながら、率直な感想を読むのを楽しみにしているんですよ。
最初に結婚詐欺を提案した頃、里子には絶対的な貫也は私の元に戻って来るという信頼と確信があったのではないでしょうか。器量や気立ても人並み以上で、負けるはずがないという妻の驕りのようなものも。でも、子供がいないというのは不安だったのかも? 子持ちの女性との関係はなりゆきとは云え2人にとって初めて。貫也の子煩悩さを見て心配が膨らんだでしょうね。生理が来て妊娠していないと分った時の空振り感。そこを描写してあるのは、さすがに女性監督。naonaonao16gさんがおっしゃるように、里子がそこを淡々と演じていて、妙に湿っぽくせずに乾いた演技が不気味で好きでした。里子と貫也は夫婦より同志関係に近かった? まあ長年夫婦をやっていればそんなものですが(は・は・は)
>阿部サダヲはどんな未来であれそれを受け入れるでしょうし、松たか子はそれでも彼に執着するのかな、なんて思いました。賢い女性ほど、ああいう男に弱い気がして。
勿論、そういう展開もありそうです。貫也はどんなことがあっても飄々と生きていける男、包丁1本さえあればヒモでも大丈夫!里子もしたたかですが、貫也の持つしたたかさとは異なるような気がしました。貫也は天性のしたたかさで、里子は後天的に備わった人工的みたいなもの。
生真面目で臆病な私は貫也と里子のようなしたたかさを持ちたい。
2021/04/09
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東京の片隅で小料理屋を営む貫也(阿部サダヲ)とその妻、里子(松たか子)。
2人が懸命に働いてようやく手に入れたその店は、調理場からの失火が原因で全焼、2人は一夜にして全てを失ってしまう。
一からやり直そうと前向きな里子に対し、すっかり投げやりになってしまった貫也。
そんなある日、夫の浮気に気づいた里子は、彼を使って結婚詐欺をすることを思いつく。
こうして2人は、孤独な女を相手に巧みな結婚詐欺を繰り返し、店を再開するための資金集めに邁進するのだったが…。
「ゆれる」「ディア・ドクター」の西川美和監督が、松たか子と阿部サダヲを主演に迎え、ふとした運命のいたずらから2人で結婚詐欺を始めた夫婦の姿を通して、男と女の単純には割り切れない愛憎と欲望を濃密な筆致で描き出したヒューマン・サスペンス。
コメディのイメージの強い阿部サダヲが、金もないだめ男なのに、女性に対する細やかな優しさで、女性を虜にする色気を持った主人公を演じて、意外にハマっています。
松たか子が旦那さんを利用して結婚詐欺を働く女性を演じて、自分を裏切った旦那さんに対する複雑な思いを表現していて、夫婦の複雑な本音やすれ違いを描いた異色の夫婦映画です。
現代を生きる女性の寂しさや本音も描いていて、カップルや夫婦で見て欲しい映画です。 -
私的日本三大期待してる監督一人。今回も裏切らず。アイドル旦那、プロデューサー嫁の愛憎劇。少なくない登場人物個々が印象深い。監督の演出力、役者裏方から受ける愛され力に脱帽。心の襞を舐めて愛撫する姿が浮かぶ官能性にメロメロ。親と観るな。
松たか子みたいな女性に支えてもらって旦那は幸せだなぁ、なんて全然思えない。怖い。怖すぎます。一途さのあまり、アメとムチならぬ、奉仕と処罰。旦那もよく頑張ったよ。
旦那がわりと男気があるんだけど、どうも空回りしてしまっている。いるんだね、こういう男。世のモテる男は必ずしもイケメンじゃなくてもいいってことだ。目よりも心で恋をする。
優しさにクラクラしてしまう女の弱き心をしっかりとつかみとるのはやはり女だったか。 -
西川美和大好きですが、これは痛い、虚しい、さみしい、つらい、えぐい、息苦しい、生々しい、人間臭いが強くて見るのが辛いです。そんなところが好きとはいえ。
いつもラストカットが非常に心に残るのですが、今回はにやっとせず、思わず叫びました。これで終わってしまうのか、と。ゆれるは分からないのが良かったけど今回は全くわからない。
松たかこが秀逸。タイトルが秀逸。
二人は夢を売ってる、そして金をもらってる。でも二人の夢は何なのか。最初は同じはずだったのに、段々ずれてくる。夢のためにやってるのか、手段が目的になってるのか。
かんちゃんは里子を後ろに乗せてたのに別の人を乗せはじめる。見送りを期待するときにすれ違い。そのずれがさみしくて空しくて。たしかに結婚詐欺は腹いせなんでしょう。本心を見せない妻。自分の手のひらで夫を転がしてたけど、それも空しくなってくる。最後の顔も引き金を引いた女性との挨拶も、何を考えているのかよく分からない。
夢ってそれだけで価値を持っている。結婚に夢をもっていても結婚している人からすれば、大したことない。特別な何かをもちたい人も持ってる人からすれば普通でいたい。「私はモンスターじゃない」。寂しいから他人の愛情がほしい。でもただ単に寄り添ってるだけじゃ、自分の人生を歩めなくて空しくなる。そのループ。
冒頭に戻るけど、さみしさ、むなしさ、つらさが人の人生の数だけあって、それを集めた映画だ。だから生々しいし、人間臭い。そうか、段々里子は感情をあまり出さなくなるから怖いんだな。でも自慰行為や生理等松たか子一人のシーンは妙に生々しい人間臭い。絶妙です。
「自分の足で人生を作らないと人生は卑怯になる」、「誰かに幸せにしてもらうんじゃなくて、自分で自分の人生の落とし前をつける」 -
上映期間中、見逃しましたし。。
阿部サダヲ×松たか子×結婚詐欺。
もうそりゃぁ怖い。松たか子怖い。
妻って怖いなーとしみじみ。。
旦那って詰めが甘いなぁとしみじみ。
女の業と男の業を見せつけられる映画でした。
オチはちょっと納得いかないけどねぇ、、、 -
嫁が狡猾に見えるようでいて、
心の奥底にある大切な何かを着実に削っていき、
しかもそのことに気がついておらず、
密やかに渇望しているその女の生々しさ。
旦那がアホな正直者であるように見えて、
実は無意識で確信犯的な卑怯者にも映り、
良心というよりは単純な本能に従っているだけで、
本当に傷つけて裏切り騙しているのは妻であるという、
重大なことに気がついていない、愚かさ。
そうして騙される女たちの、
孤独、疎外感、恥じらい、
それを上回る欲望と、
幻想にしがみつく姿。
誰にも罪はなく、
誰しもが罪人だ。 -
松たか子と阿部サダヲの夫婦が経営している小料理屋が火事になったことで、結婚詐欺を始めるストーリー。
大好きな西川美和監督の作品。
テーマは女って言ってたけど、その通りでした。
松たか子の夢は…多分、料理屋を再び開くことだけじゃなくて、女としての夢があったのだと思います。
そんなことを思わせる場面が所々出てきました。
結婚詐欺ということをすることで、被害に遭った人に夢を売ってあげた。
それと同時に2人は自分たちの夢を売ってしまったんだと…思うのです。
カップルで観ないことをお勧めします(笑)
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久しぶりに良い映画を見たなと思いました。
松たかこさんの演技、素晴らしい。
最初はお金を沢山持っている方達から、ちょっとずつ頂いて、観ているこちらもアハハと笑える展開。後半は、こんな風に頑張っている人達から、むしらないでと思いながら見ていた。
でもそれだけではなく、後半の3人には騙すはずが、本当に心惹かれてしまって、貫也は罪悪感に包まれ、妻の里子の孤独感は増していく。
前半の女性達は、みんな里子の指示で上手く騙しちゃうんだけど、後半の3人には貫也が自分から行くんだよね。そこが深いなあと思った。
夫と2人で見て、色々感想を言い合いました。 -
なかなか鋭いというか痛いとこついてくる映画だと思った。
自分の足で道を作らないと卑怯なことになるわよ…
あぁつらい。私の人生なかなか頑張ってきたけど、親に乗っかって、彼氏に乗っかって、旦那に乗っかって、子供に乗っかって…乗っかっる相手を乗り換えて生きてるんじゃないかと正直思う。
松たかこすごい。他の作品もみてみたい。
私は、「仕返し」よりも、「もやもやする。これでいいのか感が半端ない。だけど、他に何があっ...
私は、「仕返し」よりも、「もやもやする。これでいいのか感が半端ない。だけど、他に何があったというのだ。けれど、これら全てが、この物語なのかもしれない」に近い感想です。2人の俳優さんは勿論、西川美和 監督もさすがだと思いました。
naonaonao16gさん、御丁寧な返信をありがとうございました。あなたのレビューを読まなければ本作を見逃し...
naonaonao16gさん、御丁寧な返信をありがとうございました。あなたのレビューを読まなければ本作を見逃していたかも。感謝感謝です。
しかもそれほどまでのレビューではないのに、褒めて下さるなんて・・・(汗)。皆さんの感想を拝見するたびに、自分の視力低下や頭脳減退を思い知らされています。私の方こそため息をつきながら、率直な感想を読むのを楽しみにしているんですよ。
最初に結婚詐欺を提案した頃、里子には絶対的な貫也は私の元に戻って来るという信頼と確信があったのではないかでしょうか。器量や気立ても人並み以上で、負けるはずがないという妻の驕りのようなものも。でも、子供がいないというのは不安だったのかも? 子持ちの女性との関係はなりゆきとは云え2人にとって初めて。貫也の子煩悩さを見て心配が膨らんだでしょうね。生理が来て妊娠していないと分った時の空振り感。そこを描写してあるのは、さすがに女性監督。naonaonao16gさんがおっしゃるように、里子がそこを淡々と演じていて、妙に湿っぽくなくからりとした不気味さが好きでした。里子と貫也は夫婦より同志関係に近かった? まあ長年やっていればそんなものですが(は・は・は
>阿部サダヲはどんな未来であれそれを受け入れるでしょうし、松たか子はそれでも彼に執着するのかな、なんて思いました。賢い女性ほど、ああいう男に弱い気がして。
勿論、そういう展開もありそうです。貫也はどんなことがあっても飄々と生きていける男、包丁1本さえあればヒモでも大丈夫!里子もしたたかですが、貫也の持つしたたかさとは異なるような気がしました。貫也は天性のしたたかさで、里子は後天的に備わった人工的みたいなもの。
生真面目で臆病な私は貫也と里子のようなしたたかさが欲しいものです。
「仕返し」がある愛はまだまだ想い合っているかも・・・。