- Amazon.co.jp ・電子書籍 (146ページ)
感想・レビュー・書評
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たった一つの本当の自分は存在せず、対人関係ごとに見せる顔がすべて本当の自分である。
この主張をもとに、本書では個人は分人に分けられ、複数の分人は個人を形成している。
相手といる自分(その相手との分人)が好きかどうかで大切にしたい人間関係を考えるべきだと感じた。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
私とは何か、長い人生の中でしばしば自分に問いかけてきたが、よくわからなかった。
この本のおかげで、もやもやしていたものがとてもスッキリ納得できた。
”だれとどう付き合っているかであなたの中の分人の構成比率は変化する。その総体があなたの個性となる。
個性とは、決して生まれつきの生涯不変のものではない。”
分人という考えがしっかりわかると、愛することと死ぬことについてもこれまでとちがった見方ができる。
”あなたの存在は、他者の分人を通じて、あなたの死後もこの世界に残り続ける。少なくとも、しばらくの間は。”
メモを取りながらじっくり読ませていただきました。
どうもありがとうございました。 -
新書は今まで全然読んでこなかったが平野啓一郎氏の小説に最近ハマっており、おもしろそうなテーマの新書を出されていたので読んでみた。
結論、とても良いタイミングで良い出会いをしたと思う。
人間には本来の自分という確固たる「核」なるものはなく、遺伝的な要因はあるものの、ほとんどは対人関係や触れてきたものから分人が生まれ、その複数の分人をあらゆる場面で自然と切り替えながら生活し、かつ、その分人の構成比率も常に変えながら生きている、と。
だから基本的にはユニークで明るい自分であっても初めてのコミュニティにいくとうまく分人化ができず借りてきた猫になってしまったり、とある人物といるときは自然と会話が弾むのに、他の人物といると不思議なくらい何の会話も思い浮かばなかったりするし、それはそうしたくてしているわけではなく、その場では自然とそうなってしまうから仕方なく、自分という人格すべてにまで責めを負う必要はないのだ、と。
ここまでの感想だと単なる一対一の相性や人間関係に関しての本なのかと思われるかもしれないが、「分人」という概念は対ヒトだけでなく、読んだ本や聴いた音楽などヒト以外にも使える概念であるという点が面白い。
学校のクラスで浮いていても、職場で浮いていても、家に帰って好きな本を読みふけり、好きなアニメに没頭し、そこで感動と出会い高揚感が得られればそこでの分人化が成功しているのである。
「分人」の概念を、対人関係から死、犯罪、世界平和まで波及させて多様な視点から考察していて思わず後半うーんなるほど、と唸ってしまった。
頭の中で常にカラフルな円グラフがイメージされているのだが、途中から分人の融合について語られた途端にカラフルに分けられた円グラフが滲み始め、さらには人の円グラフとも混ざり始め、単色の異なる絵の具を塗った部分に水を一滴垂らすと滲んでつながりあっていくような、そんな感覚があった。
自分というものは出会うヒト、モノによって何色にもなるし、主体的に好きなものを取り入れて、好きな色を増やすこともできる。
色んな色を試し塗りして自分の人生を好きな色で彩ることができるのではないか。
そんな救いを得られる内容であり、また繰り返し読みたいと思う内容であった。
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相手によって自分を変えていると気づいたことはないだろうか?たとえば、友人Aには、自然に接することができるのに、Bの前だと遠慮がちになる、というように。そしてそんな自分の一貫性のなさを情けなく感じて悩むかもしれない。「私」とは、変化してはいけないものなのだろうか?
筆者は、「私」とのとらえ方を、「それ以上分けられないもの」という意味の「個人」(individual)から、「分けられるもの」としての「分人」(dividual)へ移行させるよう呼びかけている。
「誰とどうつきあっているかで、あなたの中の分人の構成比率は変化する。その総体が、あなたの個性となる。(中略)個性とは、決して生まれつきの、生涯不変のものではない」(P.89)。
「学校でいじめられている人は、自分が本質的にいじめられる人間だなどと考える必要はない。それはあくまで、いじめる人間との関係の問題だ。放課後、サッカーチームで練習したり、自宅で両親と過ごしたりしている時には、快活で、楽しい自分になれると感じるなら、その分人こそを足場として、生きる道を考えるべきだ」「『人格は一つしかない』、『本当の自分はただ一つ』という考え方は、人に不毛な苦しみを強いるものである」(p.94~95)。
自分が一つではないことに気づくことで、友人との関係、恋愛、そして大切な人との死別までも捉え方が変わる。そう主張する筆者の「分人主義」は、人生を生きやすくする智恵として注目するに値する。
この本はまた、筆者の「分人」という概念を追求した作品(『ドーン』など)への手引きとしても読める。芥川賞受賞以来、常に新しい文体に挑戦し続ける筆者の小説世界にもぜひ触れてほしい。 (K)
「紫雲国語塾通信〈紫のゆかり〉」2012年12月号より。 -
●こんな人へおすすめ
・家族/友人/恋人/職場など人間関係に悩むすべての人
・「本当の自分」について悩む人
・自分のことが好きになれなくて辛い人
・深く悩みこんでしまう人
●何故本書を読んだのか
オードリー若林の「社会人大学人見知り学部卒業見込」で平野啓一郎の「ドーン」が紹介されていた。(こちらもかなり面白いのでおすすめです。)
「分人」の思想が、私の長年感じていた考え方を言語化してくれたものなのではないかと感じ、興味を持った。「ドーン」は本書で語られる「分人」の思想を取り込んだ長編小説。レビューを見ていると「分人」の思想を理解してから読んだ方が面白いとのことだったので、先に本書を手に取った。
●本の概要
前書きにあるように、著者は学者ではない。本書で語られるのは平易で具体的な話だ(著者もシンプルさに重きを置いて書いている)。だからこそ、とても分かりやすく、共感できる。
人間の基本単位について、分割不可能な「個人」ではなく、分割可能な「分人」であるというのが本書の主張。
「個人」というのは、私たちのたった1つの人格を指す。例えば、私たちは人間関係の中で、相手によって話す内容や口調を使い分けているが、それについて『本来は確固たる人格である「本当の自分」がいるのだが、他者と関わる際には仮面をかぶった偽の自分を演じ分けている』という考え方。「本当の自分」が分割不可能な「私」を作り上げている。
それに対して「分人」というのは対人関係ごとの様々な自分だ。「本当の自分」というものはなく、様々な人との相互作用で生じ、変化していく「分人」の並列な集まりが「自分」であるという考え方。陰気な自分も快活な自分も、仮面をかぶったキャラクターを演じているのではなく、相手の存在が自分をそうさせているのだ。「分人」は対人関係の数だけ存在する。
ただし、「本当の自分」は存在しないが、「分人」の比率は全て同一ではない。滅多に会わず自分にさして影響も与えない相手への「分人」の比率は低いし、毎日顔を会わせて密に接触する相手の「分人」の比率は自然と高くなるだろう。それらを全ての「分人」を足し合わせたのが「自分」である。
上記はつまり、自分が好ましいと思う「分人」の比率を意図的に上げることで、その「分人」を自分の土台にすることが出来るということだ。「人格は一つしかない」という、「個人」に基づく考え方は私たちを苦しめる。
「分人」の考え方を採用できるのであれば、否定したい自己があったとしても、好きな「分人」を増やしてそちらの比率を上げることで、自分の土台にすればいい。うまくいかない「分人」は隅に置いておいていいのだ。
「消してしまいたい、生きるのを止めたいのは、複数ある分人の中の1つの不幸な分人だと、意識しなければならない。誤って個人そのものを消したい、生きるのをやめたいと思ってしまえば、とりかえしのつかないことになる」
●感想
対人関係によって様々な自分がいることに対して「どれも嘘ではない、相手の言葉を受けて感情を動かして反応している本当の自分だ」と漠然と思っていたものを、明確に「分人」と定義をして言語化されたことでとてもすっきりした。
自分の苦しみについても、うまくいかない不幸な分人に意識を向けるのではなく、好きな分人の比率を増やすことで、もっと前向きに生きられるのではないかという希望を見た。
個人的な話にはなってしまうが、最近仕事でうまくいかない事が多く、時間外にも仕事のことが頭を過って本当に憂鬱な気分が続いていた。地元を離れて暮らす私にとって、プライベートで仲良くする相手も仕事仲間がほとんどで、自分の仕事関係の分人が大きな比率を占めているのだと思う。そんな状態で仕事に躓きを感じて自分のことを好きになれず、逃げたい、消えてしまいたい、と思うようになった。しかし本書にあったように、それは「私個人を消してしまいたい」のではなく、「仕事を上手くできない分人」を消してしまいだけなのだ。私の中には、愛すべき分人も、まだたくさんいるのだ。
一旦仕事から距離をとって、他の分人の比率を大きくすることで、自分を好きでいられる時間を増やしたい、と強く感じた。
小説家の思想という点も、すごく面白かった。その人自身の考えや思想があって、その思考の中で小説を実験的に用いているのだな、と思うと小説の読み方も変わりそう。「ドーン」だけではなく、平野啓一郎さんの複数の小説の中で試みをしているようで、読むのが楽しみだ。
●気になったところ
夏目漱石が「私の個人主義」で語った内容。
私も激しく共感する。 「私は終始中腰で隙があったら自分の本領へ飛び移ろう飛び移ろうとのみ思っていたのですが、さてその本領というのがあるようで、ないようで、どこを向いても思い切って飛び移れないのです。私はこの世に生まれた以上何かしなければならん、といって何をしていいか少しも見当がつかない。私はちょうど霧の中に閉じ込められた人間のように立ち竦んでしまったのです」
「私の個人主義」を読んでみたいと思う。
「対人関係ごとに思い切って分人化できるなら、私たちは、一度の人生で複数のエッジの利いた自分を生きることができる。」
新しい自分を見つけたいなら、やはり世界を広げることが大切だと改めて思わせてくれる一文。
「私たちは、足場となるようか重要な分人を一時的に中心として、その他の分人の構成を整理することもできる」 私はどの分人を基礎としたいだろう。流されるままではなく、自分の望む方向へ整理したい。
●まとめ
とても興味深かったです。思想をまとめた本にしては、やはり一般人が読みやすいのも大きい。
そして思いがけずに救われました。悩む人に、一度読んでみてほしい。 -
分人の概念を持ち込むことで、人間や人間関係の新しい解釈の仕方を提示
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映画『ある男』の原作が平野啓一郎さん、とのことで原作に興味を持ちました。検索すると、分人、というアイデアが出てきて面白いな、と思い早速オーディブルで聴きました。
個人的なエピソードを交えてフランクに話されているのでイメージしやすいです。平野さんのお人柄も伝わってきて、親しみを感じました。母校が同じなのでより…親近感を感じました。あの半地下の図書室に平野さんもいたのかな〜
小説も読んでみたいと思いました。
YouTubeで講演されてるのも見て、声もいいな、と感じました。
【個人individual 】の語源…成り立ちについて、
説明が有り難かったです。 -
この本で述べられている「分人」という考え方は大学生時代の私に大きな影響を与えた。「分人」という考え方は、自分が傷つかないように、自分を守る手段としても有効。一方で、「分人」の考え方でなんでも割り切ってしまうと、感情が伴わなくなってしまう。外の世界をシャットアウトしてしまっているようなことをしてしまっていたのかもしれないと少し後悔の念がある。
それだけ個人的には影響を受けた本であった。