海と毒薬 [Kindle]

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著者 : 遠藤周作
  • 新潮社 (1960年7月19日発売)
  • Amazon.co.jp ・電子書籍 (208ページ)

海と毒薬の感想・レビュー・書評

  • 映画公開時、鑑賞することができず、それ以来気になっていた作品ですが、今回の「沈黙ーサイレレンスー」公開により引きずられて読了しました。

    ネタバレになりますが、プロットは有名なので、ある程度記載しても良いかと思います。

    これは太平洋戦争中に起こった、九州大学生体解剖事件がモデルとなっています。

    日本軍に撃墜されたB29の乗員米兵が捕虜となり、死刑判決を受けますが、通常の銃殺刑ではなく、生体解剖の犠牲になった事件です。

    第二次大戦中の非人道的な生体解剖を扱った作品としては、大ブームとなった、森村誠一の「悪魔の飽食」シリーズがあります。ボクも読んだ当時に大きなショックを受け、トラウマとなった作品です。

    「悪魔の飽食」はあまりに内容が直截的で、かつての帝国軍人に対する礼を失するというような激烈な批判に晒されたようです。

    一方「海と毒薬」も発表当時、既に解決した事件に対する、さらなる過剰な断罪であるという攻撃があり、その後の遠藤の筆を鈍らせたような経緯もあるようです。

    作品ないでは、九州大学とは書かず、九州のF帝大という架空の大学病院を舞台としています。いっそのこと九州ですらなくしても良かったのではないかと思います。

    あまりにも非人道的な所業なのですが、舞台が戦争末期でもあり、モラルハザードも極まった感があります。

    主に関わる若い医師二人にそれぞれの煩悶があり、この二人を主軸に物語は進行していきます。

    おそらく、後にブラックジャックとドクター・キリコの造形にも影響を与えたのではないでしょうか。

    翻って、同様に手術に関わった二人の看護婦はこの背徳的な行為に全く動じず、実に堂々としています。恐ろしいほどに。実際の医療現場でも、結構こんな感じなのかもしれません。

    その他、権力側のエライ医師達と軍人たち。
    特に軍人の感性は、現代では考えられない悪魔的な価値観です。

    731部隊も南京も慰安婦も彼らなら躊躇なく実行するでしょう。

    それが冷徹な武士道に通底するものならともかく、彼らは下卑た笑いを浮かべながら人権を蹂躙し、命の尊厳を否定します。
    否、そこまでも思い至っていないのでしょう。

    目の前の異国の兵士にも事情があり、これまでの人生があります。
    彼らはそこになんの斟酌もありません。
    葛藤があってこその軍人だとおもうのですが。

    生まれた子供には未来が。老人には歩いてきた道の記憶が。
    だからこそ、命は大切。

    彼ら存在が創作の上の誇張であればと願います。

    個人的に慰安婦問題は皆無ではないというのが、ボクの見解です。
    あっただろうが、数の問題で盛りすぎじゃない?と思うわけです。

    南京にしても、数十万人の死体をどうやって処理するのか。
    本当であれば、明らかな物的証拠があるはずでしょう。
    なので、もっとスケールを小さくすれば事件としてはあったかもしれない。
    白髪三千丈の国の主張ですから、仕方ない。

    その他、この物語には人間として唾棄すべき価値観を持った登場人物が複数います。

    遠藤周作はキリスト者としての視点でこの物語を描いているのでしょう。

    しかし、そのような視点を持たなくとも、「人」が善であるのか悪であるのか。
    あるいは対立するものではないのか。考えます。

    作者はこの小説の続編を執筆するつもりであったのですが、先に書いた批判に会い、それを諦めたということです。

  •  
    ── 遠藤 周作《海と毒薬 195706‥ 文学界/講談社・新潮・角川文庫 19600719 K》194.0225
    http://booklog.jp/users/awalibrary/archives/1/B00BIXNMVC
     
    (20151213)
     

  • 太平洋戦争末期、博多近くの大学病院が主な舞台。メインプロットは、米軍捕虜を大学病院で生体解剖するという事件なんだが、それに関わる人々それぞれの人生、大学病院内の派閥闘争なども描かれ、非常に重い雰囲気が漂ってる。日本は悪いことなんてしてない!という声も大きくなっているけど、この小説を読むと、特に戦争末期は人々の心も荒み、大陸では無茶苦茶なことも行われていただろうな、と思わされた。

  • 以前にレビューを書いた『悲しみの歌』こそ『海と毒薬』の続編に当たる作品であるいわれている。私は双方の本を並べ見て『悲しみの歌』を先に読むことにした。『海と毒薬』を読了して、この決断が私の為に良かったことを体感した。

    私にとって『海と毒薬』は『悲しみの歌』の本があってこそ成り立つ存在意義であった。何故ならば、『悲しみの歌』の勝呂医師の内面に、私自身が強く心惹かれいるからだ。事件当時の勝呂医師の心情及び環境を読み解くことを通して深める勝呂医師の後生に対する想いは、この上なく悦ばしい。

    『海の毒薬』の勝呂医師を知ってから『悲しみの歌』での勝呂医師を読み解く順序で得られる衝撃も、果てしなく凄まじいものであるように推測出来る。が、私がその順序で読み解いたとしたら、『悲しみの歌』での勝呂医師を、今よりもっと同情や憐れみの感情を投げかけながら読んでしまっていただろうと思う。

    『海の毒薬』を通して、私自身が気づかなかった『悲しみの歌』への想いを考えるキッカケに出来たことが、どんなにも大切なことであり、とても嬉しく思っている。
    『悲しみの歌』は全体的にとても暗いイメージの強いストーリー展開ではあった。が、暗いだけでは収めることのできない人情の深みが沢山秘められていたことを再実感した。特に『悲しみの歌』にて触れていた偏見に満ちた正義感を振りかざすことの罪深さについて、より一層考えを深めるきっかけになっている。


    ところで、両作品において、勝呂医師の心情の違いと、著者との類似性の強い登場人物(小説家及び引っ越してきた者)の心情の違いを、読み比べる面白さもまた、興味深かった。

  • 太平洋戦争末期、アメリカ兵捕虜が九州の病院に連れてこられ、臨床実験の被験者として生体解剖された事件を、あなたはご存知だろうか。このショッキングな事件を通して、著者は考える。「日本人とはいかなる人間か」と。解剖に参加した者は何を思い、何をしたのか。神の存在しないこの日本という国で、私たちの罪の意識はどこにあるのか、どこへいくのか。日常のうちに潜む無気味さを遠藤周作が描く。

    (請求記号:開架 B913.6/404N4/エシ)

  • 第二次世界大戦末期。
    権力が駆け引きされる医局、貧しい人であふれる病室、植民地暮らしと離婚でゆがんだ看護婦、連れてこられたアメリカ人捕虜。
    ただでさえ空恐ろしい話ですが、2013/06現在、憲法9条の議論を前にした今読むと、不気味さが半端じゃない‥
    まさに今読むべき本の一つ。

  • 重いです。
    実話を題材にしたこともあり、静かにぐっと刺さります。
    登場人物たちがそれぞれ違った形で抱えている心の闇を、少なからず自分も持っているのではと思わせるところが、なんとも悲しい感じがしました。

  • 遠藤周作の代表作の一つ。米国人捕虜の人体実験について。

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