昔からそうだが、遠藤周作氏の本は読後感がスッキリしない。頭上に大きな「?」が出る。この本も同じだった。他人に流される、ということが良くも悪くもできない人間には、まったく刺さらない作家さんなのかもしれない。
話としては、戦中、人体実験に手を染めた人々の話。普通の人たちが、普通の延長で常軌を逸した行為に手を染める。人間って流されるとどこまでも残酷になれるんだ、と言うのは簡単だが、だからこそ、感想をそこで止めてはいけないと思う。
残酷というのは物事を善悪に分けた評価であって、事実として普通の人間は同じ人間を切り刻むことができる。だからこそ、それをしないという個人の強い意志が必要になる。人間らしさになる。
自分の望む姿を希求できる意思こそが生きている実感だとすると、登場人物たちの意思の薄弱さ、流されやすさは、自分を生きていない証拠と言えるのかもしれない。