NATIONAL GEOGRAPHIC (ナショナル ジオグラフィック) 日本版 2013年 04月号 [雑誌]

制作 : ナショナル ジオグラフィック 
  • 日経ナショナルジオグラフィック社
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感想・レビュー・書評

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  • 「復活する絶滅種」の記事が興味深かったですね!

    マンモスやリョコウバト…
    既に一度は死に絶えた動物が、復活できたとしたら。
    なんとも心躍る(でも少しの不安)事ですね~。

    クローン羊のドリーを思い出します。
    もしも人間にも応用できたら、、、SFの世界が現実になりますね。
    何百年後かには、自分の分身がゴロゴロいるのかもしれません。

    「Wild Men」も面白かったです。

    世界各地の祭礼での仮装写真が載せられています。
    豊穣を願うものであったり、悪霊を払うものであったり、
    その地域の特性が表れた装いに、思わず目を奪われました。

    日本でいうとなまはげみたいなものかな??

  • 2013年4月号の目次
    復活する絶滅種

    絶滅した動物を、最新のクローン技術でよみがえらせる――SF小説のような話だが、その実現は意外に近そうだ。

    文=カール・ジンマー/写真=ロブ・ケンドリック

     人間が絶滅に追いやった動物はたくさんいる。現在も危機に瀕している種は多く、絶滅種のリストに名を連ねる動物は、今後も増える一方だろう。

     そんな流れをクローン技術で変えられると信じ、情熱を傾ける研究者が少ないながらも存在する。

     絶滅した生物種をよみがえらせるというアイデアは、作家マイケル・クライトンが『ジュラシック・パーク』の恐竜たちを世に放って以来、現実とSFの狭間を長らくさまよっていたが、獣医師のフェルナンデス=アリアスは「ついにその時が来たのです」と言う。

     フェルナンデス=アリアスが、絶滅したヤギ、ブカルド(別名:ピレネーアイベックス)の復活に初挑戦したのは10年前。クローン羊のドリーが、哺乳類初の成功例として誕生してからまだ7年しかたっていなかった。しかしその後、クローン技術の改良が続き、いまやクローンづくりは高リスクの実験から、当たり前の作業になりつつある。
    絶滅させたのは人類なのだから

     ただし、復活が望めるのは、今から数万年前までの間に死に絶えた生物種に限られる。無傷の細胞か、少なくともゲノムを再構築できる程度のDNAが残っている必要があるからだ。つまり、復活が理論的に可能なのは、人類が世界の覇者になっていく過程で絶滅した生物種ということになる。さらに年代が近くなるほどに、狩猟や生息環境の破壊、病気の蔓延など、絶滅の直接のきっかけとなった加害者が人類であるケースが多くなる。復活に力を入れたくなる理由は、このあたりにもあるのだろうか。

     「人類が絶滅に追い込んだ種は、よみがえらせる義務があると思います」。オーストラリア、ニューサウスウェールズ大学の古生物学者マイケル・アーチャーはこう語る。神への冒とくではないかという非難も、アーチャーは意に介さない。「むしろ自然界の動物を絶滅させたことこそ、神への冒とくではないでしょうか」

     そのマイケル・アーチャー率いるオーストラリアの研究グループは、2013年1月初旬、1980年代半ばに絶滅したオーストラリアに固有のカエル、カモノハシガエルとキタカモノハシガエルの復活に取り組んでいることを公表した。

     これら2種のカエルは、繁殖の方法がかなり変わっている。雌が産んだ卵に、雄が精子をかけると、受精卵を雌がまるごと飲み込むのだ。卵に含まれているホルモンの作用で胃酸の分泌が止まるため、実質的には胃が子宮の代わりとなる。数週間後、雌の口から小さなカエルが飛び出してくる。こんな変わった習性から、これらのカエルは「イブクロコモリガエル」の別名でも知られている。

     しかし、2種のカモノハシガエルは、詳しい研究が始まった矢先に、あっけなく絶滅してしまった。
    復活は是か非か

     だが、復活させる必要が本当にあるのだろうか? 雌が胃袋の中で卵をかえすカエルがいるかどうかで、世界はどれだけ変わるのか。

     米ニューヨークにあるストーニーブルック大学の進化生物学者ジョン・ヴィーンズは「現に危機に直面している種や生態系を救うことこそ、喫緊の課題です」と話し、オーストラリアのマードック大学のグレン・アルブレクトは「絶滅種をいくら復活させても、生息環境の整備なしではどんな努力も徒労であり、ただの浪費に終わります」と指摘する。

     米スタンフォード大学の生命倫理学者ハンク・グリーリーは、この問題の倫理的、法的な側面に強い関心を寄せてきた。そんなグリーリーも、絶滅種をよみがえらせるという離れ業を可能にした科学の進歩を高く評価し、いたずらに敬遠するのではなく、むしろ受容すべきだと考えている。グリーリーは言う。「掛け値なしに、すごいことだと思いますよ。たとえばサーベルタイガーなんか、いつかこの目で見てみたいものです」

    ※ナショナル ジオグラフィック4月号から一部抜粋したものです
    編集者から

     絶滅した動物が、最先端のバイオテクノロジーでよみがえる――まるでSF小説のような話ですが、もはや実現も目前。となると、ロマンも感じつつ手放しでは喜べない、複雑な気持ちになります。

     ところで、リョコウバト最後の一羽となった「マーサ」の名前は、米国の初代大統領ジョージ・ワシントンの夫人の名にちなんでつけられたそうです。この有名なハトを一目見ようと多くの人々がシンシナティ動物園を訪れ、1914年に死んだときにはテレビのニュースにもなりました。希少になってから大事にされるとは、皮肉なことではありますが……。当時の貴重なニュース映像を、電子版でご覧いただけます。(編集H.I)

    マンモスの牙を探せ

    かつて人類の胃袋を満たしたマンモス。シベリアでは現在、その牙が高値で取引され、地域の経済を潤している。

    文=ブルック・ラーマー/写真=エフゲニア・アルブガエバ

     ソ連崩壊でさびれた地方が、マンモスの牙の発掘で息を吹き返している。なぜ今、マンモスなのか。キーワードは、ワシントン条約、地球温暖化、そして中国だ。

     シベリア北部に生息していたマンモスは、およそ1万年前にほぼ絶滅した。だが、その後も周辺の島々には孤立した群れが残り、最後の1頭が死んだのは3700年ほど前と推定される。長さ4メートル以上にもなるその牙は、永久凍土から掘り出され、高値で取引されている。

     46歳のカルル・ゴロホフは、牙探しのパイオニアだ。世界屈指の過酷な環境で10年近くにわたり探索を続けてきた。その日も北極圏にあるコテリヌイ島を、長年培った勘を頼りに歩き回った末、地面から突き出ていた牙の先端を見つけた。「牙ってものは、突然目の前に現れることもあるんです。まるで私を導いてくれたみたいにね」
    職業:牙ハンター、年収:2700万円

     それから彼はほぼ24時間、休みなく砂利混じりの氷を掘り続けた。ようやく取り出した丸太のように太い牙は、重さ70キロ。ほとんど無傷だ。彼は大地の精霊に感謝するため、掘った穴に銀のイヤリングを投げ入れた。この牙を無事に持ち帰れば、500万円以上の値がつくだろう。

     ゴロホフはロシアのサハ共和国(別名ヤクーチア)生まれ。幼いころ、17世紀の開拓者たちがマンモスの牙を取引していたという話を聞き、心を奪われた。その後、図書館で見つけた本で、20世紀初めにコテリヌイ島で撮影された探検家たちの写真を見た。そこには巨大な牙が写っていた。横に立ったひげの男たちが小さく見える。ボートは、山積みされた牙の重みで今にも沈みそうだ。「牙はまだあるだろうか、探せば見つかるだろうか―そんなことばかり考えていました」

     ソ連時代の鉱山や工場が閉鎖されると、ヤクーチアはすっかりさびれてしまった。だが今では、何百人、ひょっとすると何千人もの男たちがマンモスの牙探しに乗り出し、地域の経済は牙の取引によって息を吹き返した。

     ゴールドラッシュさながら、牙を求めてツンドラに群がるハンターたち。ブームの背景には今の時代に特有の要因がある。ソ連が崩壊し、自分の才覚で富を築こうとする人々が増えたこと、ワシントン条約で象牙の国際取引が禁止されたこと、さらには地球温暖化の進行で永久凍土が解け、埋もれていた牙が露出し始めていることも、ブームを後押ししている。

     とはいえ、何よりも大きいのは、中国の台頭だ。シベリアから運び出される牙の90%近く、重量にして推定で年間60トン以上が中国に輸出される。象牙製品を好む数多くの富裕層が、マンモスの牙も買うからだ。

     ゴロホフは5カ月にわたる島での探索を終えると、ヤナ川の河口域からおよそ80キロ南のウスチ・ヤンスクの家に戻る。木造の納屋には、20数本の牙が保管してある。白い布で包んだものもあれば、水に浸してあるものもあった。「空気に当たると、ひび割れるんです。大切にしないとね」

     水に浸してある牙は、この夏の収獲だ。稼ぎは最低でも1400万円、うまくいけば2700万円になり、これまでで一番の稼ぎとなるだろう。

    ※ナショナル ジオグラフィック4月号から一部抜粋したものです
    編集者から

     夏でも夜の気温が氷点下になるシベリア北部で、一獲千金を狙ってマンモスの牙を探す男たち。つるはしや槍を使って永久凍土を掘ったり、泥だらけの巨大な牙を担いだりと、写真からはその大変さが伝わってきます。個人的には、本誌58~59ページに掲載した小屋のカムフラージュの見事さに感動しました。

     電子版では、牙探しの様子を動画で見られます。牙ハンターたちの日常や現場の過酷さがさらによくわかりますので、ぜひご覧ください。(編集T.F)

    米国史の知られざる舞台

    合衆国憲法を最初に批准した米国デラウェア州。国立モニュメントの候補地となっている歴史遺産を訪ねる。

    文=アダム・グッドハート/写真=マイケル・メルフォード

     米国では、約60カ所の国立公園を含め、400近い施設が国立公園制度で指定・管理されている。だが全米50州のなかで唯一、そうした国立施設をもたない州があった。

     東海岸のデラウェア州。ほかの州に先駆けて合衆国憲法を批准したことから「最初の州(ファースト・ステート)」と称される、米国で2番目に小さい州だ。この歴史ある州に、初の国立公園制度の施設「ファースト・ステート歴史モニュメント」が誕生しようとしている。州内に点在する歴史遺産も取り込んだモニュメントとなる計画で、他州からの遅れを取り戻す構えだ。

     その歴史遺産の舞台の一つが、全長わずか32キロのブランディワイン川だ。
     川の両岸は、ほぼ全域にわたって急斜面の林になっていて、その中にかつての繁栄をしのばせる建物が点在している。古くても築100年ほどのものだが、水力を利用して産業や技術が急速な発展を遂げた時代の名残だ。この川は、産業の振興という点で最適な水流、川幅と水深、そして大西洋岸の主な港湾までの地の利を、完璧なまでに兼ね備えていた。
    米国の歴史を象徴する川

     流域の産業革命に最初に火をつけたのは、オリバー・エバンスというデラウェア出身の靴職人の息子だ。エバンスは、無名ではあるが米国屈指の偉大なる発明家で、製造業における自動化の父でもある。彼が1780年代に考案した、水車に歯車と回転軸を組み合わせた製粉機のおかげで、小麦を粉にする工程に人力がほぼ不要となった。両岸にはたちまちエバンス式の製粉所がいくつもでき、製粉機の基本原理はその後、紙製品や布製品などの製造にも応用されていった。生産工程の自動化とブランディワインバレー(渓谷)の関係は、現代のIT化とシリコンバレーの関係に似ている。

     200年が経った今、企業家たちが残したこうした遺産が、計画中の国立モニュメントの中核となっている。しかし、最大の目玉は「ウッドローン」と呼ばれる445ヘクタールの山地草原と森林だ。ここは、100年ほど前に繊維業を営んでいたウィリアム・バンクロフトが、保護するために購入した場所だ。ウィルミントンやフィラデルフィア郊外が開発されるなか、ウッドローンは、手つかずの自然が残る数少ない土地となった。

     「ブランディワイン派」として知られる芸術運動もこの地で生まれた。1世紀以上にわたってこの運動に大きな影響力をもっていたのが、ワイエス家だ。才気あふれる一族の長老N・C・ワイエスが初めて渓谷を訪れたのは1902年、まだ20歳の画学生の頃だった。やがてN・Cは、この土地がもつ独特の力強さに魅了され、ここを終の棲家に選んだ。

     N・Cは、『宝島』のロバート・ルイス・スティーブンソンをはじめ、多くの小説家のために挿絵を描いて有名になった。作品の中で、ブランディワイン渓谷の森はイングランドの森に、草原はスコットランドの荒野に姿を変えた。

     この小さな川は、米国における技術革命を促進し、ゴールドラッシュや戦争の推進力となり、著名な芸術家たちを魅了してきた。独立戦争の初期の舞台も、この川のぬかるんだ土手だった。

    ※ナショナル ジオグラフィック4月号から一部抜粋したものです
    編集者から

     記事の最初のページに写っている、米国三大財閥デュポン家の大屋敷は、1923年建造で今も子孫が住んでいるのだとか。わずかな還付金を求め、夜なべして確定申告書を作成し終えたばかりの私には、まぶしすぎる写真です。ああ、左うちわで暮らしたい……。ところで、特集の舞台となったデラウェア州の資料を探そうと図書館やネットをあたりましたが、とにかく少ないのにびっくり! この州が現在置かれている立場を象徴しているようです。国立モニュメントの制定が起爆剤となるでしょうか? (編集H.O)

    マナティー 保護か観光か

    米国フロリダ州のキングス湾に集まるマナティーをめぐって、地元住民たちの間で論争が巻き起こっている。

    文=メル・ホワイト/写真=ポール・ニックレン

     人魚のモデルとも言われる海の人気者、マナティー。この動物と一緒に泳げる米国フロリダ州キングス湾は、古くから人気の観光地だ。ところが、マナティーと人との距離が近すぎることが、問題も生んでいる。

     成長すると体重500キロ以上にもなるマナティーは、太ったイルカのようにも、小さなクジラのようにも見える。しかし、マナティーにはクジラのような厚い脂肪層がないので、寒さに弱い。水温が20℃を下回ると弱り始め、やがては死んでしまうのだ。

     そんなマナティーにとって、フロリダ半島の西側に位置するキングス湾は理想的な越冬地と言えそうだ。周辺には真水の湧き出る泉が数十カ所あり、水温は年間を通じて22℃でほぼ一定に保たれている。こうした環境のおかげで、1960年代には30頭前後だった冬の個体数は、現在では600頭以上にまで増えた。毎年11月から3月にかけて、町内の水路を悠然と泳ぎ回ったり、うとうとと眠ったりする姿を見ることができる。

    「彼らは都会の生活に慣れた野生動物です。私たち人間の住宅地からわずか15メートルのところで暮らしているのですから」と、フロリダマナティーを35年間研究してきた生物学者ロバート・ボンドは語る。
    経済効果は数十億円

     キングス湾に面したクリスタルリバーの町はいまや、米国におけるフロリダマナティーの“首都”と言えるだろう。ここでは水中でマナティーと一緒に泳ぐことも、手で触れることもできる。保護の対象となっている絶滅危惧種に対して、こんな行為が奨励されている場所はほかにない。マナティーとの触れ合いは、ここでは昔から行われてきた人気の観光アトラクションだ。

     そのアトラクションを目的にクリスタルリバーを訪れる観光客は年間15万人以上。多くの人がマナティーへの理解を深めて帰るが、だからと言って迷惑行為が許されるわけではない。地元の保護活動家トレーシー・コルソンは2006年から“マナティー虐待”の動画を撮り始めた。なかには観光客がマナティーの背中に乗ったり、ガイドがマナティーの赤ん坊を母親から引き離し、観光客に手渡したりする映像もあった。動画サイト「ユーチューブ」に投稿されたコルソンの映像は、マナティー好きの人々に衝撃を与え、マナティーと触れ合う際のルールを厳しく見直すきっかけとなった。

     保護団体「セイブ・ザ・マナティー・クラブ」の代表を務める水生生物学者パトリック・ローズは、人々の行動を変えたいと考えている。「マナティーたちは人間と関わりたいわけではありません。彼らは静かな休息場所を求めています。特に冬の寒い日は、温かい場所を見つけることが生き抜くための最優先事項なのです」

     マナティーが地元の観光産業にもたらす経済効果は推定で年間2000万~3000万ドル(18億~27億円)だ。マナティーと泳げるプログラムがなくなれば、かなりの収入減になるだろう。この問題はビジネスにも深く関係しているのだ。

     2011年、危機感を募らせた16のツアー業者がマナティー・エコツーリズム協会を設立。保護区当局やセイブ・ザ・マナティー・クラブと協力し、観光と保護の適切なバランスを模索している。キングス湾などで観光ツアーを主催しているマイク・バーンズが会長を務める同協会は、マナティーと人間の接触について、連邦法の規定よりも厳しい自主ルールをいくつか導入している。

    ※ナショナル ジオグラフィック4月号から一部抜粋したものです
    編集者から

     凹凸のないフォルムは、「遠目に見たらまるでナマコだ」と思いました。尻尾だって“しゃもじ”みたいな形だし、「太ったイルカのようにも、小さなクジラのようにも見える」、不思議な動物。マナティーに触れるのは問題だとする保護活動家の意見もあります。でも「魂を揺さぶられるような体験」をしてみたいという気持ちは、わからなくもないです。(編集M.N)

    欧州のワイルドなやつら

    ヨーロッパの伝統的な祭りに登場する獣や魔物、悪霊の姿をした男たちを、フランスの写真家が記録した。

    写真=シャルル・フレジェ

     これはイエティなのか、ヒバゴンなのか。1980年代のオカルトブームを彷彿とさせる出で立ちだが、正解は、男たちによる仮装。舞台は12月初めから復活祭の時期にかけての、ヨーロッパ各地で催される祭礼だ。顔や体をさまざまな装束で覆い隠し、町に繰り出す。祭りでの仮装は、地域や村によって異なる。

     ルーマニアの元日の鹿、フランスの熊祭りの熊、スイスの謝肉祭の「ソバージュ」、ドイツの謝肉祭の「わら男」、ポーランドの元日の「マチドゥラ」、スペインの謝肉祭の「セセンゴッリ」、イタリアの聖アントニウスの日の前夜の「ボーズ」、オーストリアの聖ニコラスの日の前夜の「クランプス」など、なじみのあるものから、名前を聞いただけでは姿が想像しにくいものまで、バリエーションが豊かだ。

     こうした“獣人(ワイルドマン)”はヨーロッパ各地で見られる。半人半獣の獣人は、自然と人間の複雑な関係の象徴であり、地方へ行くほどその役割は大きくなる。

     獣人が登場する伝統的な祭りは、かつては成人の儀式でもあった。だが、文明社会に生きるヨーロッパ人が、そうした祭りの意義を信じているかは疑問だ。仮装や儀式で悪霊を払い、春を呼ぶことができると、人々は本当に信じているのだろうか。「そんなものは迷信だと、皆わかっています」と、ブルガリアの仮面の伝統文化を研究するジェラルド・クリードは語る。現代の常識では信じられないのは当然だろう。しかし一方で、人々は古来の伝統を完全に否定してもいないのだ。

     撮影したのは、写真家のシャルル・フレジェ。ふた冬かけて19カ国を回り、彼が言うところの「部族的なヨーロッパ」にカメラを向けた。

    ※ナショナル ジオグラフィック4月号から一部抜粋したものです
    編集者から

     どこか愛らしい姿をしたワイルドマンの数々。なかでも「クランプス」は西洋版の「なまはげ」と呼ばれることが多く、知っている方もいるのではないでしょうか。遠く離れた日本とヨーロッパで、こうした同じような文化があるなんて、おもしろいですね。クランプス以外にも個性豊かなワイルドマンが次々に登場します。あなたのお気に入りの“1体”を見つけてみてください。(編集M.N)

    失われる“赤い黄金” マホガニーの森

    高級木材として取引されるペルーのマホガニー。乱伐はほかの樹木にもおよび、森全体の存続が危ぶまれている。

    文=スコット・ウォレス/写真=アレックス・ウェッブ

     「赤い黄金」と呼ばれるマホガニーは、最上級の木材として高く評価されてきた。丈夫だし、木目は赤く美しい。伐採された1本のマホガニーが加工されて欧米の店頭に並ぶ頃には、数百万円の価値になることもある。

     ところが、中米から南米アマゾンにかけて自生していたマホガニーの森は、乱伐によってかつての30%にまで縮小。その取引もワシントン条約によって制限された。2001年、ブラジル政府がオオバマホガニーの伐採の全面中止を宣言すると、ペルーは世界屈指のマホガニー輸出国として脚光を浴びるようになった。その結果、ペルーのマホガニーは、先住民アシェニンカの生活圏を含め、広い範囲でほぼ姿を消してしまった。

     そこで伐採業者たちが目を向け始めたのが、コパイバ、イシピンゴ、シワワコ、カピロナといった、これまであまりなじみのなかった樹木だ。マホガニーのような高価な銘木と違って保護されることは少ないが、森林の生態系では重要な役割を果たしている。

     金になる樹木を片端からあさる伐採業者たちは、値段の低い木によるもうけの目減りを量で補おうと、以前より多く伐採するようになった。そのため重要な生態系が脅かされ、樹冠に生息するサルや鳥、両生類などの居場所が失われつつある。
    利用される先住民、立ち上がる先住民

     違法な伐採業者は、この土地の周辺にある先住民の集落を、保護区へ忍び込む裏口として利用している。先住民の多くは、現金を払うという男たちにだまされて伐採許可を得る手助けをしているが、この許可証が、保護区で違法に伐採したマホガニーの出所を偽るために使われるのだ。こうした不正行為により、ムルナウア居留地の北西部の境界を流れるウアカピステア川流域では、五つほどの集落の住民がさらに貧窮し、希望を失う結果となった。

     そんな伐採業者に勝手なことをさせまいと、立ち上がる人々も現れた。

     先住民アシェニンカの村の指導者エドウィン・チョタ・バレラ(52歳)は、10年前から彼らの村サウェトからブラジル国境の間に広がる約650平方キロの土地の所有権を認めるよう地方政府に働きかけてきた。2013年の後半にようやく認められる運びとなった。

     米リッチモンド大学の地理学者デビッド・サリスベリーも、「違法伐採と戦うためには、土地の所有権は不可欠です」と語る。サリスベリーは2004年、博士論文のための調査で現地を訪れたときにチョタたちの苦境を知り、それ以来、助言役を務めている。「ここは先住民の人々が育んできた土地です。その資源を持続的に活用するすべを一番よく知っているのは、彼らなのです」

    ※ナショナル ジオグラフィック4月号から一部抜粋したものです
    編集者から

     最近、アンティークもののテーブルをネットで物色しています。時々、マホガニー製をうたい文句にしている商品を見かけるのですが、この特集を担当してからというもの、「これが作られたころはまだ豊富にあったのか?」などなど、さすがに考えてしまいますね。そんな折、「マホガニーのボディが美しい三輪自動車」なるものを発見。複雑な心境を通り越して、のけぞってしまいました。(編集H.O)

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