- Amazon.co.jp ・電子書籍 (409ページ)
感想・レビュー・書評
-
詳細をみるコメント0件をすべて表示
-
1945年から1947年にかけて、プルトニウムの人体に与える影響を調べるために18人にプルトニウム注射の人体実験が行われたという、ショッキングな事実を描いた本。著者は記号でしかなかった被験者を辿り、その名前を明らかにし、遺族に会って話を聞いてきた。
まだ放射能の影響がよく理解されていなかったとはいえ、現在の放射能を巡る政府や世間の対応からは想像できない杜撰さである。余命が短いとされた人を選んだ(結果としてそうでなく長く生きた人もいた)とはいえ、その注射が原因で苦しんで死んでいった人も多い。そのような中でも、人体実験が継続され、核の機密のためということで本人に対してさえも秘匿され科学者と軍によって研究は進められた。
本書では、筆者がこの問題を追いかけることとなったプルトニウム実験の他に、核爆発実験における兵隊への放射能の影響、妊婦829名に放射性鉄をに投与したナシュビル・ヴァンダービルド大学のトレーサー実験、孤児などの施設の子供に放射性物質を含むシリアルを食べさせ続けたファーノルド校実験、患者700人に対して無用な全身照射試験を行ったシンシナチ大学の実験、囚人131人に対して精子への放射能の影響を調べるための精巣照射実験、など数多くの放射能実験の事実を明らかにしていく。
これらの多くはクリントン政権の文書公開の過程で明らかになったことだが、筆者はその経緯の検証や被験者となった人への謝罪と補償が十分ではないと指摘する。
こういったことが実際に広く行われてはいたが、おそらくは極悪人たちの大掛かりな陰謀の下に行われたということではない。核戦争への強迫観念と科学者と政治家の名誉欲と保身によって結果として発生したものだ。その構造を明らかにして断罪と反省を行わない限り、歴史として同じことを違う形で繰り返すのだろう。ここに綴られた数々の実験を見て、過去のことであり、今はもうこんなことは起らない、と思うのは正しいことだろうか。そうではない、と筆者は不満足気に警鐘を鳴らす。政府や科学の情報公開と機密についても多くの問題を残していると言う。
「知りながら害をなすな」、ドラッカーがプロフェッショナルの倫理として挙げた古代ギリシアの医者ヒポクラテスの言葉を思い出す。
書物としては、章立ても親切ではなく、訳もいまいちこなれていない。それでも、核開発競争の下、何が起きたのか、そして何が起きえるのかということを考える上で知っておくべき内容であった。