薬指の標本(新潮文庫) [Kindle]

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感想・レビュー・書評

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  • ブランスで映画化されている作品です。

    不思議と引き込まれる世界感から冷たい空気さえ伝わってきます。官能とホラーを混ぜ合わせたような、どちらともつかないような?
    女性ならではの繊細な観点からの深層心理の変化に悲しくもあり美しさを感じます。

    そういう考え方・生き方もあるんだろうな、と活字から理解はできるんだけど、それは終わり方として良いのか悪いのかは各読み手次第で変わりそうな気がする。

  • #小川洋子 さんのお話はどれも少し不思議で静かに悲しいんだけど、読後は悪くない。読んだ後、しばらくぼうっとしてしまうんだけど。たぶん、小川さんはいつも「なにか決定的に失ったもの」を書いていて、それが私に刺さるんだと思う。

  • 不気味さが残る。著者の他の作品も読みたい。

    p141
    本人の意志や努力によって運命を切り開けると信じている人もいるかもしれません。けれど、意志や努力が既に運命なのだと、わたしは感じます。決して人生を否定しているのではありません。次の瞬間何が起こるか、わたしたちには少しも知らされていないのですから、やはり常に自分の力で選択したり判断したり築いていったりしなければならないでしょう。いくら運命が動かしがたいものだとしても、すべてをあきらめてしまうなんて愚かです。誰にとっても運命の終着は死ですが、だからと言って最初から生きる気力を失う人は、たぶんあまりいないはずです。

  • 頭全部持っていかれちゃうような、強烈な物語が読みたいと言ったら、友人が薦めてくれた作品です。
    吸い込まれるようにして、ほとんど一日で読み終えました。

    「自由になんてなりたくないんです。この靴をはいたまま、標本室で、彼に封じ込められていたいんです。」

    標本室で事務員として働くことになった主人公と、標本技術士である弟子丸との密やかな物語。
    不思議で暗くて耽美な世界観にうっとりしました。


  • 小川さんの文体はなぜこんなに不思議な感情を呼び起こすのだろう?
    読み進める中で、透明感、という単語が必ず頭に浮かぶ。きれいな水晶玉か何かを通して世界を見ているような気持ちになる。

    愛に対する異なる反応を描く少し変わった世界の物語。

  • 小川洋子作品は最近になって読み始めるようになったけど、文章がそこはかとなく仄暗い雰囲気があって、官能的というか艶みたいなのを感じる。
    束縛したい、されたいっていうのをこんな形で表現できるもんなんだなーと目から鱗でもあった。靴に人間が浸食されていく…ねー。
    「薬指の標本」も「六角形の小部屋」も結果がこうだって明確にされてるわけじゃなくて、敢えて書かずに終わってるんだけど、それが逆に想像力をかき立てる。ラストはどうなったのやら。
    自ら標本にされてしまったのか?とかね。こうなると、その欠けた指が左手の薬指ってところも意図があったのかとか色々と想像を巡らせてしまう。

  • 柔らかな文体と、目に浮かぶように鮮やかな情景描写で、ぐいぐいと小川さんの不思議な世界に引き込まれていくようなお話でした。
    どちらも主人公が心を何かに囚われていくお話でしたが、対照的な結末に辿り着くので、読後の余韻が全く違っていて面白かったです。


    【薬指の標本】

    『標本』と聞くと真っ先に、蝶々やトンボ等の、生きていた頃の姿を保った骸、というイメージを持ちますが、この小説では、依頼主の持ち込んだ ありとあらゆるものに、標本技術士が依頼主の想いを封じ込めたもの、それらを総じて『標本』と呼んでいるようでした。

    標本にできるのは、形あるものだけではないようです。
    顔に残った火傷の痕を標本にしたい、という少女が依頼に訪れます。
    主人公が一度も足を踏み入れたことのない地下室へ、少女が連れて行かれるのを見て、主人公の女性の心が一気にアンバランスになって傾き始め、どうすれば自分も地下室へ入れてもらえるのか、日々上の空になりながら考え続けます。

    主人公は、謎めいた標本士から靴を贈られたのを機に、どんどん彼に心を囚われていくのですが、その過程がなんとも夢見心地で、私にはちょっと意味不明だったりしつつ、でも酷く甘やかな雰囲気を感じ取れるのも確かであり……。
    例えるなら、魔性のものに魅入られて、恍惚の表情で精気を吸い取れられていくような。陶酔のなか じわじわと首を絞められていくような……。
    なんでしょう。美しさの陰に得体のしれない不気味な恐ろしさが常に潜んでいるような、とても不思議な感覚でした。

    ラストは見事なタイトル回収で終わります。
    愛でられたい、という願望を叶えるには最適の選択だったかもしれませんね。



    【六角形の小部屋】

    導かれるようにして辿り着いた六角形の小部屋の中で、誰にも話せない自分の胸中を語る、というのが大筋の内容です。
    序盤それほど小部屋に興味を示さなかったので、同じように導かれてきた人々の中では明らかに浮いていたし、いかにも不思議な空間に紛れ込んだ異分子だったはずが、何度も訪れるうちに徐々に依存してしまう描かれ方はやっぱり、魔性の何かに魅入られていくように感じます。

    理性と感情が一致しないことによる、恋愛の破綻や一時の逃避などを主人公が語り、心の平穏を得るのはどこか、小部屋に宿った見えない何かから、カウンセリングを受けているような印象を受けました。
    胸の中のモヤモヤを言語化して思う存分吐き出す、デトックスみたいなもんでしょうか。わざわざ足を運んで、お金を支払って語りにくるほどですから、余程心が軽くなるのでしょうね。

    小部屋に出入りするようになってから起こるようになったという、不思議でちょっとゾッとする出来事の数々が、結局何だったのかとても気になります。
    失せものがおかしな場所から発見されるのは、ありがちだとして。
    十円玉は……?

  • 静かで清潔で美しい。夢みたいなのに、どこか覚えのある感覚。読み返す度に不思議なきもちになる。映画は正直あんまり響かなくて二回くらいしか観ていないけれど、原作は毎年どこかで読み返してるかも。浴槽で逢瀬したい

  • 小川洋子さんの物語に出てくる職業がいつも素敵で、標本室の事務職は特に憧れている仕事。時々読み返したくなって、レトロで秘密めいた標本室に想いを馳せてる。

  • 弟子丸氏が怪しくどこか恐ろしいのに惹かれて仕方ない主人公を見てああ若いなと思いました。でもそんな恋を人生に一度はしておきたいものです。

  • ファンタジーチックでぼんやり話を終わらせる感じ。好き嫌い分かれそう。

  • 本がたくさんあって、好きに自由に読んでいいカフェで、席のそばにあってタイトルに惹かれて手に取ってみた
    もちろんカフェの滞在時間では読みきれず、その後図書館で借りて読んだ

    そういえば小川洋子は名前は知っているものの、『博士の愛した数式』を学生の頃読んだくらいだったな、と思い、読んだ記憶と読了感を薄らと覚えているだけで文体や好き嫌いの感想を思い出せなかった

    設定自体は面白く、物語はどうなっていくのかな、とわくわくしたものの(昔の出版物、というのが大きいのだろうけれど)表題作ももう一方も、どちらの話も登場人物に気持ちが寄り添えず、寄り添えないままページは巡って、いつの間にか終わった、という感じだった。とりあえず読み終えた、という感じ。少し不気味な雰囲気は、好きな人にはとても刺さる気はするけれど、これは私向きではなかった。
    他にも気になる作品はいくつかあるので、懲りずに作品には手を出していきたいと思う。

  • 期待してたからか面白くなかったな。

  • 不思議で不気味で惹き込まれた

  • 一つ目は好きだったけど二つ目はあんまり。こういう訳分からない恋愛小説好き!

  • 「薬指の標本」と「六角形の小部屋」の二つの短編が収録されている。

    薬指の標本では、事故により薬指の一部を失った主人公の女性が、「標本室」の管理人の虜になっていく過程が描かれている。作品中で「標本」が持つ意味や、その役割について考えながら読むとなかなか楽しい。
    「自由になんてなりたくないんです。この靴を履いたまま、標本室で、彼に封じ込められていたいんです。」
    サディスティックで暴力的・支配的な愛情に侵食されていく様子が、人間の非合理的な側面を生々しく表している。

    六角形の小部屋では、カタリコベヤ(語り小部屋)と呼ばれる六角形の組み立て式の小部屋が登場する。人々はこの小部屋の中で、思い思いに胸の内を語る。カウンセリングや宗教のようなものではなく、自分について語ることで、自分の心と向き合うことなどを主な(特に主人公の場合は)目的としているようだ。
    背中の痛みに苦しむ主人公の女性は、この小部屋の中で元カレとの関係について話し始める。なぜ彼をここまで憎むようになったのか、その理由を探るため、自分の心との対話を通して過去を見つめ直していく。
    おそらく彼女は、元カレの理性的な側面に嫌気がさしたのではないだろうか。恋人との時間よりも医師としての職業倫理を優先し、常に謙虚に振る舞い、決して怒ることのない彼は、社会的に見れば真っ当な人間である。
    しかし、彼女は彼を出来るだけ困らせて、怒らせたかった。構ってほしかったのだろうか。人間は異性に対して、なんらかの暴力性を求めずにはいられないものなのだろうか。
    おそらく、暴力性というのも人間を構成する一部分なのではないだろうか。そして、それが厳密に規制された社会においては、それが向けられる相手にはある種の特殊性が付与されると考えられないだろうか。
    ここでいう暴力性とは、一般的に流血を伴う、暴力的なものとは区別されなければならない。もっと包括的なものだろう。「反理性的な行い」とも換言できるかもしれない。
    彼女は理性的な彼への反発心から、彼を怒らせるために困らせた。怒られることで、彼にとってある意味特別な存在になりたかった。そして、反抗期の子供のように、自ら反理性的な行いもした。しかし、それと同時に罪悪感を感じるようになった。背中の痛みは罪悪感を暗示していると思われる。

    物語の最後に語り小部屋は消える。これは胸の内から漏れ出した言葉とそれに伴うわだかまりを、誰にも明かすことなく(誰も傷つけることなく)、解消する道具なのかもしれない。

  • 小手先の幻想ではなく現実世界と幻想が混ざっているような世界観。あり得ないことだが引き込まれ、体感しながら読む感覚がする。
    薬指の標本 六角形の小部屋 2編を収録する。
    小川洋子の文章はどこか淋しげでメランコリックなのに理知的な冷たさをたたえている。行方はどうなるか気になる展開で、落とし所はきちんとつけてくれて読了後の満足度は高い。

  • 表題作はたぶんあの人とあの人も好き。

  • 楽譜に書かれた音、愛鳥の骨、火傷の傷跡…。人々が思い出の品々を持ち込む「標本室」で働いているわたしは、ある日標本技術士に素敵な靴をプレゼントされた。「毎日その靴をはいてほしい。とにかくずっとだ。いいね」靴はあまりにも足にぴったりで、そしてわたしは…。奇妙な、そしてあまりにもひそやかなふたりの愛。恋愛の痛みと恍惚を透明感漂う文章で描いた珠玉の二篇。

  • 『薬指の標本』は、ちょっと村上春樹の世界観にも通じる印象。
    まずは「標本にする」という行為に着目したセンスには感心する。
    主人公の女性が、無意識のうちに危うい香りのする状況に入り込んでいく過程の、長閑な一方微妙に恐ろしげな空気感にの描出が秀逸と思う。

    『六角形の小部屋』も日常から繋がったちょっと不思議な異空間を舞台にしている点は共通。
    が、こちらの設定はややありきたりかな、という気はする。
    むしろ、男には窺い知れない、女性にとっての恋愛感情(が消長する瞬間)が作品に刻み込まれているところにドキッとした。

    いずれも小品だが、先を読ませる力はある。
    が、オリジナリティという点では今一歩であるようにも感じた。

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著者プロフィール

1962年、岡山市生まれ。88年、「揚羽蝶が壊れる時」により海燕新人文学賞、91年、「妊娠カレンダー」により芥川賞を受賞。『博士の愛した数式』で読売文学賞及び本屋大賞、『ブラフマンの埋葬』で泉鏡花文学賞、『ミーナの行進』で谷崎潤一郎賞、『ことり』で芸術選奨文部科学大臣賞受賞。その他の小説作品に『猫を抱いて象と泳ぐ』『琥珀のまたたき』『約束された移動』などがある。

「2023年 『川端康成の話をしようじゃないか』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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