華麗なるギャツビー (角川文庫) [Kindle]

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感想・レビュー・書評

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  • 1.圧倒的にピュアな山師


     ネットが普及したいま、自分の主義主張を安全地帯から全世界に公開するのも、すっかり普通になりましたね。私も評論家気取りの俗物の一人というわけですが★
     この本の冒頭2、3ページくらいを、ネット書評だとか文章を書くのが好きな人はちゃんと見てるのかな? 語り手の父親が、他人のことをとやかく批評する前に忘れちゃならないことがあるぞとのたまいます。うっかり批評できないような出だしだ!
     ですが評します。

     まず目を引くのは、どうやら腐るほどお金があるらしい謎の青年ギャツビーと、その彼を「浮かれたパーティ野郎だ!」と思わせるような上流風の気取った仕掛け各種。アルコールに痺れたような夜の描写。きらびやかなドレスの裾がひるがえり、むせ返るようなシャンペンの匂いがこもっている。
     でも、よく読むと、贅沢を綴る文章でありながら、作者はひとときもそこに溺れていないのです。

     すべては、ある一人の女性の気を惹くためにあつらえたものでした。準備万端、いよいよギャツビーは、憧れの女性・デイジーとの再会を果たします。彼女の反応も上々★ 彼の華麗な生活は、女を興奮させるものばかりでできていたのですから。
     ギャツビー本人は、さして富も名声も欲しがっているようには思えません。贅沢は、デイジーに向けて一心に行なわれたのです。彼女の眼を通して評価を得る日を夢みて。

     最初から山師的な匂いがしていたのですが、私、ギャツビーに奇妙な好感をおぼえました。そうなる理由は、デイジーから賛美されるためだけに生きかたを変えた、ギャツビーのピュアさにあります。
    「誰かの評価なんて関係ない。自分がしたいことをすれば」ってよく言うけど、いつだって人は他人の目に影響されてる。そのことに知らんぷりせず、彼女の目を意識して自分から変わろうとしたギャツビー。そういう彼だから、固唾を飲んで見守る気になるのです。

     続きを読みます★

    2002-12-14




    2.べろりとはがれた金色の夢

     仮にもずっと憧れてきた女について、ギャツビーがだし抜けに「その声には金がいっぱいつまっているんだ」と語る場面があります。
     響き渡る声の秘密は、金の音。彼女に近づきたくて生きてきただけに、彼は半ば彼女の正体に気づいていました。金の響きで感覚を麻痺させるくらいだから、現実にはデイジーはお安い女だったのです。

     黄色い車の事故を境にそれがはっきりしてくるのだけど……、ギャツビーに親しみも疑わしさも両方感じている語り手ニックは、すこし突き放した視点から、ギャツビーについて語っています。話がべたべたにならないのがまたいいな。

     醒めてしまえばインチキだった。夢の女は消えてしまった……。それでも彼女をかばうギャツビー★
     夢の光や色彩がべろりとはがれた瞬間、なまなましく露出した跡を最後までかばって果てたギャツビーに、何かこみあげるものがありました。

     ニックは、誰もが見逃す瞬間をとらえていたのでした。夢を見ている最中より、夢から醒めたあとより、夢が消える刻を☆ ふり返ったら今が夢になっていると、あらかじめ知っているかのような魔術的な語り調子が、作家フィツジェラルドの面白さだし、恐ろしさも感じます。

     デイジーは、作者の愛妻ゼルダ・フィッツジェラルドにどこまで接近した人物だったのでしょうね……。狂騒の時代に裕福な家で育ち、その地区にならぶものなしと言われる美貌だったゼルダ★ しかしゼルダ最大の魅力は、彼や取り巻きたちが作り上げた大いなる幻影だったのではないでしょうか。

     詐欺師ギャツビーの中に光る、この奇妙にして一途な品性は、きっと前時代的なものです。最近の男性は、恋人をかばうことなんて忘れていそう(笑)。自分のせいじゃなく、誰かのために滅びる☆ 美女のためなら、一切の言い訳なしで破滅する。いまや郷愁に近い感傷さえ覚えるギャツビー的なダンディズム、私は何度も読み返したい★

    2002-12-15

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著者プロフィール

1896年ミネソタ生まれ。ヘミングウェイとともに「失われた世代」の作家として知られる。大学在学中から小説を書きはじめ、『グレート・ギャツビー』を刊行して一躍時代の寵児となる。激しい恋愛の末、美貌の女性ゼルダと結婚、贅をつくした生活を送る。しかし、夜ごとの饗宴を支えるため乱作をはじめ、次第に人気を失い、ハリウッドの台本書きへと転落の道を辿る。1940年、再起をかけて執筆していた『ラスト・タイクーン』が未完のまま、心臓発作で逝去。

「2022年 『グレート・ギャツビー』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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