春琴抄(新潮文庫) [Kindle]

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感想・レビュー・書評

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  • 春琴に対する佐助の恐ろしいまでの献身を、あるいは春琴の佐助に対する実際的な愛の様相を、類型化したり推し量ったりすることは容易でない。
    しかしこの特異な二人の関係も谷崎の手をもってして非常に手触りのある物語として紡ぎ出されているために、まったく御伽噺のようでも別次元の話のようでもなくそこに存在しているようである。
    このあたりが、例えば「異常な献身の物語」といえば巷ではおそらく有名な某容疑者Xのなんとやらのような手触りのない”J-POP作品”とは、一つも二つも違ったところで、現実世界と物語世界のあいだに隙間を感じない。質感のある名作である。

  • 恐ろしくもあるがとても美しい

  • 谷崎潤一郎さんの中編である大変に面白かった電子書籍、スマートフォンで読了。明治から大正昭和にかけての大阪の豪商のお嬢さん「春琴」とその奉公人にして事実上の夫だった「佐助」の物語です春琴は美貌で音曲の才があったしかし少女期に視力を失い全盲になった。奉公人の佐助が春琴の琴三味線の稽古に手を曳いていく役に就きます以降、結婚はしないものの、男女の仲でもありながら、ひたすら尽す佐助と尽くされる春琴のふたりの歳月が描かれます春琴は決して優しい訳ではなく、厳しい一面もあります何しろお嬢様です両親の計らいで三味線琴の師匠になります佐助もその弟子にして奉公人にして夫、として一家を構える粗筋としては春琴が恨みをかって、顔面にやけどさせられる春琴は醜い顔を佐助にだけは、どうしても見られたくないと言います佐助も見たくないと思います。そこで佐助は自ら目をつぶす・・・というお話ですね。

    自ら目潰し、という事件が有名ですが、それだけじゃなくて、すごく面白かったです何よりもまず文章が美しい気持ちいい独特のリズムがあります何とこの中編小説は、あるべきところに句点がないのです此れは凄い、と思えばたまにあります其の基準はさっぱり分からず此れはある種のコトバの実験小説なのであります要するに、この文章のような文体。だがしかし、物凄く内容にマッチしている気がします其れに加えて地の文ばかりですつまり体裁としては、「かつてそういう二人が実在して、それについて聞き書きを書いておくよ」という文体なのです所謂小説物語風ではなくて、一種歴史書風に書かれている其れもこれも何とも言えずに美しく、はまっています。

    解説としてしばしば批評家に語られ、また谷崎本人が何かで語っているのは晩年春琴が心が折れてきて結婚やふたりの間柄について軟化したときに佐助が断固として自分のことは下僕扱いである、というかたちにこだわったということです其の事からある種のマゾヒズムという観点で論じられることが多いようです確かにそれはそれで正しいのでしょうが其れはこの中編の魅力のたった一部分でしかないのです証拠に僕は前半から文章のリズムと味わい、そして春琴という障害者すなわち世間の生産活動からはじき出された立場の生活営みへの眼差しがとても興味深く面白く感じました兎にも角にも谷崎という人の筆にかかると生産的社会的な「健全なる活動」からもっとも外れたところのヒトの営為というのがとても味わい深いのです其のような場所にこそヒトのヒトたる美しさが宿っているのではないかという作者の眼差しを感じます。

    其れにつけても日本語が美しいです加えて此れは本質ではありませんが大阪市中を舞台としているがゆえ現在大阪に暮らす自分としては感じるところ多く楽しめる読書となりました又どうやらこの小説には遠いモデルとなる芸人さんがいた模様ですが、ほとんど100%、そんな人はいなかったのだけど実在の人物について書いているような体裁に書かれた小説だそうです。脱帽。

  • 『痴人の愛』と並び称される、谷崎文学の到達点。三味線奏者・春琴と、奉公人・佐助ふたりが織りなす、常軌を逸した凄絶極まる愛の狂騒が、読者の意識を混沌に誘い込む。当事者ふたりの心理を追うこと無く、後世になってから「私」が見聞きしたことを語る形式をとったことで、<誰にも踏み込めない愛の深淵>たる世界観が、より強固なものになっている。

  • 1990年頃の学生時代に、昔の日本文学と批評ばかり読んでました。
    この小説は川端康成の掌の小説と並んでいちばん美しい日本語の小説だと思う。

  • 日本語がとことん美しい!

    愛する春琴のことを語りながらも、話の実の主人公は佐助だ。彼の、それこそ盲目的な愛と忠誠心は、理解こそできないけど、そこまでいくと、尊敬しなければならないな。

    「春琴抄」の日本語に魅せられ、谷崎潤一郎の他の作品も読んでみたけど、やっぱりこれが私的には、傑作。

  • 殴られようと罵倒されようと一人の女性を自分の中で絶対的な美として愛しむ気持ちに共感できた(できてしまった

  • 春琴と彼女に仕えた佐助の生涯とは。「文章読本」を読んだ後に読むと尚更感慨深い。最小限の単語でスリムにまとめ上がっており、変則的な文章に関わらず予想以上に読み易かった。直接的な心理描写がなくとも、二人の様々なエピソードを通じて、互いへの深い愛と信頼が伝わって来る。智恵に溢れる文章と隅々まで感じられる技巧に脱帽。作者の他の作品も早く読みたい。

著者プロフィール

1886年7月24日~1965年7月30日。日本の小説家。代表作に『細雪』『痴人の愛』『蓼食う虫』『春琴抄』など。

「2020年 『魔術師  谷崎潤一郎妖美幻想傑作集』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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