貧困の現場 [Kindle]

著者 :
  • 毎日新聞出版
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感想・レビュー・書評

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  • 読むほどに現在の日本は疲弊していると感じた。この本が出版されたのは2008年。それから6年経った。労働者の状況は悪くなる一方のように思う。非正規労働者の割合が正社員の割合を超え、経営側は果てしなく自分たちの利益しか考えていない。非正規労働者にも家庭があり、家族があり、夢も希望も持ちたいと思っていることを知ろうともしない。

  • Kindleでセールになっていたので、興味本位で購入。
    貧困の現場ということで、作者が地道に取材した派遣業やホームレスなどの実態に迫る話。
    普段、目にすることも多い対象なので、興味深かった。
    特に日雇い派遣の厳しさや生活保護の水際作戦なども興味深かった。
    あまりこのような視点のものがないので、ボトムアップ的なルポも大事だが、逆の立場の観点もやはり必要だなあと思わざるを得ない。
    情動だけで語ってしまうのは危険なので。

    <目次>
    貧困の現場から、悲しみと怒りを込めて-序にかえて
    自分の境遇は自分だけのせいではない-貧困に陥った派遣労働者が労働組合と出会うまで
    酷使され、命まで削られて-「名ばかり店長」の過酷な労働現場
    不当な解雇と闘う母子-仕事をすることの誇りを取り戻すために
    過労うつ労災-不安定な雇用、そして際限ない労働
    定時制の就職事情-改革路線が、学びながら働く生徒の夢を押しつぶす
    水際作戦の実態-生活保護申請を締め出す自治体窓口
    仕事に殺される-過労死・過労自殺の現場から
    ある日系三世ブラジル人の死-外国人労働者が強いられる、現代の奴隷労働
    反貧困運動-貧困の広がりを見据え、その根を告発する
    秋葉原事件と派遣労働者の現実-自殺か他殺か、にまで追い詰められて
    座談会 反貧困のための社会的連帯-河添誠×ダヴィド=アントアヌ・マリナス×東海林智
    おわりに

  • 知らなければいけないことがたくさん。

    格差は必要かもしれないが、貧困はなくさなければいけない。

  • 貧困ノンフィクション。ホームレスとワーキングプアの話が中心。反自己責任論。

  • 内容のメインは現場ルポだが、巻末の対談が一番興味深い。
    派遣労働、過労死、生活保護受給者、母子家庭、ホームレス、定時制高校生、外国人労働者、と、さまざまな人たちの現状をレポートし、その大根っこにあるものとして「貧困」に焦点を当てようと試みているが、こういったさまざまな問題を一くくりにしてしまう危うさと難しさは、この本からも見て取れる。
    ただ、ひとつの「現象」(=ホームレスとか、母子家庭とか)を独立したものとして扱うより、これらが、日本の政策(あるいはグローバリズム)が生み出した「貧困」の結果の一部である、という見方には賛成する。貧困そのものに立ち向かうには、根っこからの改革が必要で、国民、あるいは世界の人全員が犠牲を払って取り組まなくてはならないが、個々の現象を「見えなくする」のであれば、ボランティアの取り組みとか、「個人の努力」とかいったことで、いくらでもごまかせるから。

    「被害者を責める(Blaming the victims)」や、「構造的不正義(structural injustice)」という言葉は、20年前に米国にいたときに耳にした言葉だが、この概念が確実に日本に入ってきている。特に、前者は、周りの人でなく、被害者自身が「自分の境遇は自分のせい」と内面化してしまう点が、欧米よりも日本で顕著な印象がある。

    そしてもうひとつ、正確な引用ではないが、「上流に橋をかけて人が落ちないようにするのか、下流でおぼれている人を救うのか」というメタファーも、大学時代から考えさせられてきた点。現在の反貧困ネットワークは後者に当たる活動に力を入れているが、何かもっと、根本的な変革をもって、強固な「橋」を築くことの必要性を、ひしひしと感じる。

  • 今の日本社会の問題を貧困というワードで書いている。

    が、内容は、労働、雇用、福祉などが関係してくる。

    特に労働・雇用についての問題意識が強いように感じた。
    労働の安売り、切り売りがなされている現代社会の闇は深い。
    普通に働き、普通に賃金が支払われ、近い将来の心配がいらず、普通に生活ができる。その「普通」がなくなった今の世の中。

    働いた金で、他人の労働で生み出されたモノを買い、生活し、それが繰り返されていく、普通の社会は望むべくもないのか。考え出したらキリが無くなってきた。

  • 我が国で起こっている、特に派遣社員が抱える不安定な労働問題や過労死、我々が抱いている路上生活者、ネットカフェ難民に対する誤解、役所の仕打ちなどの現実を知ることができます。海外からは助け合いを評価されることが多い日本人ですが、そんなイメージは本書ですぐに覆されます。

    一度はまったら抜け出すのが困難な貧困のスパイラルについて、何が問題か知るため著者は貧困から抜け出せない人、過労死家族をもつ方、路上生活者などに取材を行い、時に自ら路上生活を体験し複雑に絡み合問題を指摘していきます。

    数年前、派遣という就労形態は新しい労働の在り方として話題になっていたように思います。社員ほど責任はないけども勤務日数はある程度確保され、拘束時間が正社員より短いため自分の時間が持てる―そんな印象を持ったような気がします。

    しかし現実は仕事がなくなれば勤務時間を短くされ、ひどければクビ、非正社員なので保険に入れてもらえず、そうして職を転々とすることになりやがて貯金は尽き、家を失います。また、転職が多くなるため職場で友人ができず、悩みを相談する相手がいなくなり、鬱などの病気になる人が多いといいます。

    ここからがさらにひどい。助けを求めて役所にいけば、働く気がないあなたが悪い、説明なしで望んでもいない施設に入れる手続きの書類を書かせる、など結局、最悪の事態を抜け出したいと思っているのに「抜け出す気がない」「助けたらそれに甘えてもっと働かなくなる」と思われ、窓口から追い出される・・・・もちろん全ての役所がこういう態度ではないでしょうが、実際にそういったやりとりを著者は目の当たりにしている。

    これらの問題はひょっとしたら私もそうなっていたかもしれないことです。というのも私は専門家になりたかったので、バイトなどで食いつないで数年間はチャンスを待ったこともあったからです。運よく今は二足のわらじでやっていますが、本書にはカメラマンになりたいため私と同じ選択をした若者の例がありました。彼は貧困スパイラルに陥りました。

    人間を機械の一部としてしか扱わない会社が実際に存在し、それでも仕事が欲しい人は自分が悪いとまで考えて不当で過剰な労働も受けてしまう。その先にあるのは鬱か過労死。そんなドラマみたいなことが実際にあるのです。企業が利益を追うのは、私もどちらかというとそうしなければならない立場なので気持ちは分かりますが、人を病気にしたり死に至らしめたりして得た利益に何の意味があるのか。深く考えさせられます。

  • 綱渡りしながら生きていくような現代の一面。経営者側の視点が無いのが難点だが、道を踏み外すと帰ってこれない恐怖がある。勝訴とか身分保全とかなんの慰めにもならない。なにか、今じぶんがそういう状態で無くてよかったという安堵と、そうなるかもしれない恐怖。
    まさに自殺するほど仕事が無く、過労死するほど忙しい日本の一面だ。

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著者プロフィール

1964年生まれ。毎日新聞社会部記者。
主著=『貧困の現場』(毎日新聞社、2008年)、『15歳からの労働組合入門』(毎日新聞社、2013年)。

「2014年 『徹底解剖国家戦略特区』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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