多田由美さんの漫画でいちばん読み返した作品。わたしのなかで、多田由美さんといえばこれ、という印象。とにかくひとつひとつの絵が映画から切り抜いたかのように綺麗で、見惚れる。若くてスタイルが良くて都会的な美しさをもつ女性が、年若い少年のことを亭主呼びしたりする違和感が格好良く思えて、外つ国への憧れも相まって、うっとりと見入っていた。いま読み返すと、エピソードの端々に、いろいろなベクトルでのどうしようもなさが詰まっていて、哀しみやさみしさのようなものが全編に漂っているように思える。そのなかで、かれらがつかむ愛情というのは、生きるためのよすがになるのだろう。ラストの海のシーンがとにかく印象的。