終わらざる夏 上 (集英社文庫) [Kindle]

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  • 北方領土問題を題材にした小説を探し、こちらを図書館よりお取り寄せ。
    巻頭に北方領土の地図が載っており、あらためて名前と位置関係を知ることができた。終戦まじかに赤紙が届き混乱と絶望、向けようのない怒りなどの様々な思いを抱えて徴兵された人たちが、千島列島の占守島に向かう。占守島は南北三十キロ、東西約に十キロにすぎぬ島。

    沖縄を守る第三十二軍の動員経緯について、「海軍は虎の子の戦艦大和を特攻に出撃させるほど、沖縄を決戦場と考えていた。だが、陸軍は、本土決戦準備のための時間かせぎととらえ、いずれ玉砕もやむなしと見た。敵の上陸前から三十二軍を見捨てるかのように、麾下の四個師団のうちの一個師団を台湾に転用し、迫撃砲二個大隊までもフィリピンへと抜いた。」大本営の判断のところは何度読んでも泣けてくる。
    「赤紙は畏くも天皇陛下のご命令」だからおめでとうと言われるのと裏腹に本人と家族それぞれの持つ心情をきめ細かく描いている。兵役の年齢制限は45歳までだったとのこと。戦争では羊毛や綿布にかわって代用された人絹とスフの原材料パルプとして紙が欠乏したらしい。
    「戦争は国家間の究極の外交手段なのだから、一方が亡びるまでの戦争などはもはや戦争ではない。外交手段としての度は過ぎている」「たがいの国民の命を奪い合う戦に、正義はありません」「軍隊が怖れるものは何か、知っていますか。食中毒。失火。伝染病。この三つはたちまち部隊行動がとれなくなりますから」診断書を捏造して徴兵を免れる手助けをしたという医師の言葉。「軍隊ではけっして命が尊いものではなく、いつ捨ててもいいくらい軽いものだと教えられた。そう信じていなければいっときも落ち着けぬほどの最前線」
    「軍隊にしんにょうを入れれば、運隊だ。軍服を着たとたんから、自分の命などどうすることもできなくなる。生きようが死のうが、すべては運まかせ」
    「戦地で知ったことがある。長く前線にとどまっていると、妙な勘働きがするようになる」
    「いったい何の因果で齢も氏素性もちがう兵隊が、赤紙一枚で引っぱられて国境の島に向かうのでしょう」

  • 中へ続く。赤紙をもらう立場と渡す立場。

  • 東京外語卒で翻訳者の片岡。タクシー運転手で輜重兵の富永。岩手医専卒で東京帝大医学部に在学していた菊池医師。ひょんなことからこの三人に赤紙が来て、召集されることになった。それぞれ特業種をもった三人。大本営の参謀はあることを考えていたが、それは三人には知らないことだ。三人は北海道に渡り、そこから船である島に向かう。そこは日本最北端の最前線だ。

  • まだ、何も起きていない、上巻。

    盛岡のまったく関係の無いような3人に赤紙が送られ、招集されていく。同郷だったり、多少は関係があったりするのであるが、あまり本質的ではない。

    千島列島に戦車部隊があり、戦争の気配もないが輸送船がないので引き上げられずとある。

    なによりも、戦前、千島列島が日本領で、カムチャッカ半島手前まで日本、ソ連とは国境であり、その先のアリューシャン列島がすぐにアメリカであるという地理の把握が重要か。

    実際に行われた対米戦争とメルカトル図法の地図だと実感がないが、千島列島からアリューシャン列島を経由した方が、日本からアメリカへは最短距離である。しかも陸地づたいに行ける。実際の戦争はアリューシャン列島を一部占領し、とりかえされた(アッツ島玉砕)程度で終わってしまったが。

    この先、が楽しみである。

  • 物語の導入部として登場人物達の背景が帝国滅亡に向かう戦争末期を舞台に丁寧に紹介される。
    もはや何の意義も無くなった戦争に次々と兵隊に取られていく、また死神のように見られながら同郷の者に赤紙を手配する役人の苦悶。
    つらく重たい話だが、共有すべき物語だと思う

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著者プロフィール

1951年東京生まれ。1995年『地下鉄に乗って』で「吉川英治文学新人賞」、97年『鉄道員』で「直木賞」を受賞。2000年『壬生義士伝』で「柴田錬三郎賞」、06年『お腹召しませ』で「中央公論文芸賞」「司馬遼太郎賞」、08年『中原の虹』で「吉川英治文学賞」、10年『終わらざる夏』で「毎日出版文化賞」を受賞する。16年『帰郷』で「大佛次郎賞」、19年「菊池寛賞」を受賞。15年「紫綬褒章」を受章する。その他、「蒼穹の昴」シリーズと人気作を発表する。

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