文藝 2013年 11月号 [雑誌]

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  • 河出書房新社 (2013年10月7日発売)
  • Amazon.co.jp ・雑誌
  • / ISBN・EAN: 4910078211139

文藝 2013年 11月号 [雑誌]の感想・レビュー・書評

  • 第49回文藝賞 桜井晴也 世界泥棒
    極端なくらい優しく相手を慮る少女と少年。
    理不尽でグロテスクな決闘、パラレルに生起する戦争や乗っ取り。
    独特な文体。
    眼がしらが熱くなる。

    青山七恵 柴崎友香 綿矢りさ 小説家になる 対談。

    田村文 時代と切り結ぶ文学 新人賞に関するまとめ。

    星野智幸 地球になりたかった男 パラノイアックな短編。

    小林エリカ ウルフ ヴァージニア・ウルフに惚れ込んだ漫画。

  • 柴崎友香『きょうのできごと、十年後』

    『思い切らないと。決めるって、わたしはなにを決めたらいいのかな』ー『あるパーティの始まりと終わり/九月二十一日 午後五時(真紀のできごと)』

    関西弁の会話が妙なイントネーションで再生される。頭の中で。その抑揚は偽物だなあと思いつつ、それでも余り違和感も感じずに受け流す。さっと柴崎友香の書き留める世界の色が濃くなる。するするとその世界に溶け込んでゆく。主人公の視線が自分の視線になる。

    「きょうのできごと」以来、ずうっと読み継いできた。何も起こらない、そう言われ続ける柴崎友香の小説に皆がみな魅せられる訳ではないとも思う。もしもディズニーランドに行ってアトラクションを愉しむように小説を読みたい人であれば、確かに柴崎友香の小説には肩透かしを喰らったような印象を持つだろう。でも、河原へ散歩に行くような愉しみを小説に求める人であるならば、ここに描かれる世界をじっくり眺めて(例え熊が一緒でなくとも)少しドキドキするに違いない。大きな事件に巻き込まれてしまう訳でもないというのに。

    例えば、何かが起こりそうな気配は小説の中に限らず人生の中に幾らでもあるけれど、それを小説の中で起こしてしまうのは、やはり嘘っぽいことなのだと思う。保坂和志が、できるだけそういうドラマ的な出来事を小説の中に持ち込まないようにしていると、どこかて書いていたように思うが、柴崎友香はそれをとても自然にやってのける作家だと思う。

    例えば、この短篇でもそうだけれど、この作家の文章は、ややテレビドラマ的に展開する関西弁の会話文が図のような位置を占める一方で、なんとも淡々とした世界の描写が地としてその間を埋めているだけで、読むものの期待感を妙に煽ったりするような文章には出会わない。それでも地と思っていた風景の描写が実は柴崎友香の立ち上げる世界をしっかりと支え、むしろその文章がその世界をきちんと前へ進める役割を果たしている。信号の色が一つ変わっただけで、決めかねていた出来事のゆく先が決まったことが見える。会話は、自分たちが交わす日常会話のように希薄といえば希薄で、その中に大事なことはあるにはあるけれど、だからと言って会話によって世界がぎゅうぎゅうと変わるのではない。世界は自分が口を閉じた間にゆっくりと動いて変わってゆく。人の意思と一見関係が無いように、それでもやっぱり人の意思によって。

    難しいのは、この世界を動かしているのは一人ではなく、何人もの人が係わっているということ。そのことを嘘っぽく響かせることなく描くことができるのが柴崎友香だと思うのだ。だから、この作家の小説には予定調和のようなものはない。何となくそうなって欲しいなと、読むものが勝手に思い浮かべるようなことは起こらない。明日に対して明るく生きようという昂揚も起きないけれど、もうダメだという絶望も押し付けられない。明日は今日によく似た、でも少し違う一日で、少しだけ違うからこそ『きょうのできごと』は愛おしい。でも、今日が終わってしまっても、また次の今日がいつの間にか始まり、きょうのできごと、がやっぱり起こる。

    そのことの与える確かさ、もちろん予期せぬ出来事でそんな確かさが失われることもあるだろうけれど、その期待とも呼べないくらいのうっすらとした思いを、読むものに与えてくれる。それがきっと自分が柴崎友香を、読み継ぐ理由。

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