壊れた尾翼 日航ジャンボ機墜落の真実 (講談社+α文庫) [Kindle]

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感想・レビュー・書評

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  • 最近日航機事故に関する陰謀論に触れることがあったので、改めてこの本を読んだ。ハードカバーは30年も前に読んで、PDF化してPCに保存してある。文庫本を再度買うのはためらわれたが、なんと電子書籍がUnlimitedで読めると知った。

    読み始めたら面白くていっきに読んでしまった。そして、長年謎だったことも再読して分かった。本書に登場する日本テレビの江連記者。この20年ぐらい架空の人物だと思っていたが、参考文献がしっかり記載されており、検索したところFBに本人のアカウントもあり、実在することが確認できた。

    ただし、本書の江連記者との対談は半分以上が加藤氏の創作だと考えている。江連氏の発言を大幅に要約して載せている部分もあるであろうが、<これは夢での対話である>など、実際の対話でないと明記された部分はほとんどが創作だろう。架空の読者を設定した問答形式の方が理解しやすいからそうした、ということ。

    再読して、9章まで読んで、「あー読み終わったー」などと思いつつ文庫版補章に進んだら、これが長いw その後の加藤氏の新たな調査結果と考察がみっちりと書かれている。

    といっても、「急減圧はなかった」については「妄説」の一言で片づけてあるw 当たり前だ。この本を参照して、理解したうえで「急減圧はなかった」論を展開している者は存在しない。成立していない反論に再反論の必要はない。

    加藤氏はここで、様々な事故を調べると、事故調査に協力することで乗員が免責される習慣は性善説すぎて現実的ではない、と独自の主張に至る。日本など東アジアの習慣もある意味現実的であり、制度を発展させれば進歩的なものにもできるという。世間からの反発を恐れない加藤氏らしい主張だ。

    氏は、人はミスをするし、人は常に最善を尽くせるものでもないことを理解している。その上で、乗員はもっとこうしたらよかったのに、と書く。それは別に、乗員の過失を責めているのではない。事実はこうだ、と価値判断や感情論は別のことだ。乗員を責めているのはけしからん! と吹け上がる人々は短気にすぎる。著者は一貫して、次の事故を防ぐにはこうあるべきだ、と言っている。乗員の行動についても同じ話だ。

    さて。再読して、この本の事故経緯が事実にきわめて近い、という印象は変わらなかった。これまでの科学技術の知見と、事故の物的証拠や信頼できる証言といったエビデンスに基づいて、オッカムの剃刀の原則も踏まえ、事実をもっともよく説明できる説を採用している。

    そして陰謀論である。それが上記の原則を踏まえていないことは言うまでもない。本書を読むことができれば、あんな話は「妄説」とすぐ分かる。そう、読んで理解できれば……。

    Amazonのリンクに飛んでレビューを読めば分かるが、読んでも「読めていない」人々がいる。「俺にはこの本は理解できない。だがこの本は間違っている」と堂々と言う人がいる。理解しないまま的外れな批判をする人もいる。陰謀を信じてしまった人には、どんな反論も届かない。

    我々にできることは、かれらの滑稽な姿を観察し、自分が同じような恥をかかないようにすること。そして、中立な人々が陰謀論に行かないように、誤った説に反論し、陰謀論の拡散を防ぐことだ。

    日航機事故の陰謀論とはもう30年ほどの付き合いになる。昔は若かったから「『妄説』も主張する権利はある」と思っていたし、「相手の意見を変えられる」とも思っていた。相手は変わらない。そして、『妄説』を主張することはその人の権利だが、拡散することは違う。これまでの経験と新しい知見から、もっとうまく行動すべきだというのが見えてきている。それを行動に活かすことにしている。

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