そして、メディアは日本を戦争に導いた [Kindle]

  • 東洋経済新報社
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感想・レビュー・書評

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  • 歴史探偵こと半藤一利氏と昭和史の作家・保阪正康氏の対談形式の著作。

    メディアが社会においていかに重大な役割を占めているかを、戦前昭和史を題材に語ったもの。

    新聞などのジャーナリズムには、売り上げを伸ばして食っていくという組織の論理があり、ジャーナリスト個人の論理よりも組織のそれの方が優先されがち。

    だから、国家や軍部の情報統制に追従する道をひた走ることになった。

    戦前において、国家とジャーナリズムは一体のものであり、新聞や雑誌などのメディアは国家宣伝部の役目を果たした。

    戦争協力に邁進した朝日新聞などの大手メディアが、敗戦を機に「これからは民主主義の時代!」と戦前の軍国主義へのシンパシーを節操もなくかなぐり捨てたことには違和感を感じざるを得ない。

    終章にて、歴史を学ぶにあたっては同時代性を持つことが大切と触れられていたが、まさにその通りだと思う。

    戦前にもし生きていたとしたら、自分はどう考えて行動したのだろうか?
    歴史の結末を知る我々が現代の尺度のみで歴史を評価するのでは、歴史から何も学ぶことはできないだろう。

  • タイトル通りの内容。3年に及ぶコロナ狂乱の責任の一端は間違いなくメディアにあり、10年前の本書の警鐘が実感出来るし、文庫化のタイミングがもう少し遅い20〜22年ならなお良かったかもしれない。興味深かったのは、二・二六事件当時起きた阿部定事件にメディアが一斉に飛びついた話で、ネタに飢えていた状況ゆえに、その事象が本来のバリュー以上に報じられた事は、報道の本質のひとつに思えた。ジャーナリズムの未成熟や、煽られるまま国がおかしな方向に向かう現象は、何も日本だけの問題ではないが、日本固有の事情があるとすれば、戦時中の強烈な失敗体験を持っていることで、本書の趣旨もそこにある。ただそのアドバンテージを活かせているかどうか。

  • このタイトルから、何故日本の大衆は開戦に喜び戦争報道に熱狂したのか、という疑問が解決できるかと思って読み始めたが、全く解決できなかった。
    周知の事実である、マスコミは大衆にウケがよく売れる戦争賛成報道に走った。政府の伝達役になった。という内容。その態度がジャーナリストではないという非難。
    何故戦争を賞賛する内容が大衆に受け入れられたのか、何故慎重論は大衆に受け入れられなかったのか、その考察はない。
    当時の226事件の大衆の反応など、興味深い情報は所々にあった。
    ただし、全体的に「今時の若者は……」という論調で、若者の不勉強を嘆くのに、自分はSNSなどついていけないから勉強しない、という二律背反的な態度がどうなのか、と思いながらもやもやしつつ読み進めた。

  • 昭和史に詳しい博学二人が、ざっくばらんな対談を通じて、マスコミ・ジャーナリズムのどうしようもない本質と問題点を浮き彫りにした書。2013年発行。

    憲法改正の議論や秘密保全法(特定秘密保護法)の議論が盛り上がりつつある中、二人は、今の日本は戦前の感じ、昭和一桁の状況に似てきているのではないか、と危惧している。また、今のジャーナリスト達は歴史を勉強しなくなった、不勉強になった、質が落ちた、と苦言を呈している。

    二人の対談は、昭和初期、軍部や政治権力が如何にマスコミを抑え込み、言論統制を行ったか、という点に及び、この辺りも大変興味深いのだが、本対談のポイントは何といっても、マスコミ、特に新聞ジャーナリズムが当時、国家統制の尖兵として率先して軍に協力した、とを語っている点だろう。その理由は、社員の生活を守るためでなくその方が儲かるから、というかなり残念なものだったという。マスコミが如何に儲け主義に走ってきたか、指摘した箇所をピックアップしてみる。

    「ジャーナリズムは日露戦争で、戦争が売り上げを伸ばすことを学んだんですよ。」、「日露戦争によって「戦争は商売になる」と新聞が学んだことを、しっかりと覚えておかなければならない。」、満州事変の時に新聞各紙が一斉に軍部を支持したのは「だらしなくも転向した」のではなく「日露戦争という歴史の教訓に学んで、商売に走ったんですよ。」、朝日新聞の社史に「柳条溝の爆発で一挙に準戦闘状態に入るとともに、新聞社はすべて沈黙を余儀なくされた」何て書いてるけどこれは嘘で「沈黙を余儀なくされたのではなく、商売のために軍部と一緒になって走ったんですよ。」、「こう言っちゃ身も蓋もないけれど、いまのマスコミだって、売れるから叩く、売れるから持ち上げる、そんなところだろうと思いますよ。」、「戦後になってからは変わったのかというと、『朝日新聞』が戦後民主主義の論理を書き続けてきたというのも、実はそう書くことで新聞が売れたからだという言い方もできます。」、警察が気に入らない新聞社を記者会見から閉め出した時他紙は助けるどころか足を引っ張ったように「結局、新聞社同士も報道を使命としてやっているというよりは、ビジネスが優先という意識なんですね。」、等々。

    ごく一部の良心的な新聞社でさえ、軍部や一般大衆などから圧力がかかれば「相当な覚悟を決めたつもりでいても、社員たちの生活を思うと妥協しようかということになる」とのことだが、大半の大手新聞社にはもともと覚悟なんてものはなく、儲かるなら何でも書くっていうのがマスコミの本性らしい。

    昭和初期、戦争に向かう世相の中で唯一気骨を示したジャーナリストは、『信濃毎日新聞』の桐生悠々と『東洋経済新報』の石橋湛山だけだったという。

    理不尽に弱者を叩きまくったり他人の不幸を面白おかしく報道するワイドショーや週刊誌のゴシップ記事の存在意義は何なんだろうってずっと疑問だった。正義の仮面を被ったマスコミが、国民に代わって国家権力の横暴を監視するって、一体どういうことなんだろう。

    本書を読んでなんとなく分かったのは、ワイドショーの低俗ネタや週刊誌のゴシップ記事は結局、硬派なジャーナリズムを養うための必要悪なのかなってこと。保坂氏は「新聞や雑誌を買うのは、知る権利を負託していることについての負託料を支払っているのであり、期待値として対価を払っているんだと、もっと自覚すべきですね。」と言っているが、その負託料を徴収するためにワイドショーやゴシップ記事が存在してるんだろうか? 平たく言うと、"毒を持って毒を制す" ということ? こう考えないと「週刊文春」のような雑誌の存在価値、なかなか理解できないよな。

    なお、半藤氏は、「歴史に学べば、私たち日本民族には付和雷同しやすいという弱点があるんですね。言いかえれば、集団催眠にかかりやすいということです。その結果として、なだれ現象を起こしやすいという特徴というか弱点もある.」といっている。この辺のところは「昭和史」を読んでもう一度お復習しておきたい。

  • 【由来】
    ・図書館、マイライブラリ画面の「新着資料一覧」で

    【期待したもの】


    【要約】


    【ノート】

  •  『あの戦争と日本人』のあとがきで著者は、メディアの果たした役割に言及するのが抜けていたと語っている。本書はちょうどその不足を補うようなテーマで、保阪正康との対談形式で存分に語っている。

     まず最初の段階で指摘されているのは、戦時中の新聞が政府に迎合することしか書けなかったのは、言論統制されて仕方なかったという新聞各社の釈明がウソだということだ。著者いわく、日本の新聞は、好戦的で戦争を煽る記事を書いた方が「売れる」ということを日露戦争の時にはっきり学び、それを昭和になって存分に活かしたというのだ。

     もちろん新聞も営利企業である以上、不買運動などされれば経営できなくなるのだから仕方ない面はあるだろうが、しかし気概のあった明治の新聞と違い、昭和の新聞はあからさまに「売れる記事」を書いていたようだ。

     とはいえ、言論弾圧がなかったというわけではない。たとえば本書で繰り返し取り上げられている桐生悠々のようなジャーナリストが弾圧されたのは事実のようだ。しかしそれは本当に一部の話に過ぎないのだろう。

     本書は2013年に発行されたもので、かなり時事的な話題も盛り込まれている。読むなら早いうちがいいと思う。数年経てばまた状況は変わってくる。多分、著者らが危惧する方に。

  • 昭和史は戦争の歴史であり、その中で日本のメディアがどのように機能不全に陥り、戦争に加担したのかを振り返る。

    今どきの若いジャーナリストは現在のことは詳しいが歴史に疎いというのがお二人の見解。歴史に学ぶことで、ジャーナリズムが適切に機能するよう取り組む必要があるという指摘。ここでは特にジャーナリストに焦点が当てられてはいるが、情報を選び受けとる一般人も同じように歴史に学ぶ必要がある。

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著者プロフィール

半藤 一利(はんどう・かずとし):1930年生まれ。作家。東京大学文学部卒業後、文藝春秋社入社。「文藝春秋」「週刊文春」の編集長を経て専務取締役。同社を退社後、昭和史を中心とした歴史関係、夏目漱石関連の著書を多数出版。主な著書に『昭和史』(平凡社 毎日出版文化賞特別賞受賞)、『漱石先生ぞな、もし』(文春文庫新田次郎文学賞受賞)、『聖断』(PHP文庫)、『決定版 日本のいちばん長い日』(文春文庫)、『幕末史』(新潮文庫)、『それからの海舟』(ちくま文庫)等がある。2015年、菊池寛賞受賞。2021年没。

「2024年 『安吾さんの太平洋戦争』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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