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感想・レビュー・書評
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3.2
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オルテガの思想は広い意味では保守の範疇に入るのだろう。大衆民主主義への批判や、左右の全体主義に抗して自由と法を擁護する点では伝統的な保守思想と価値観を共有している。しかしイギリス風の穏健な保守と決定的に異なるのは、ニーチェやハイデガーにも比すべき彼の「生の哲学」だ。
オルテガは19世紀に飛躍的な進歩を遂げた科学技術による時間と空間の拡大を「生」の選択の可能性を広げるものとして肯定的に評価する。そして文明の果実に安住するのでなく、それを切り開いた先人の卓越性に思いを馳せよと警告する。こういう発想はイギリス風の保守思想からはまず出てこない。進歩や文明は歴史の趨勢としてやむなく受け入れるが、それは懐疑の対象であれ礼讃の対象ではないとするのが真正保守の身構えだからだ。ともかくオルテガの苛立ちは「生」の可能性が広がったにもかかわらず何をしていいか分からず、またそれを探し求めようともしない満足しきった大衆に向けられる。シュペングラーの『西洋の没落』に噛みつき、ナショナリズムの克服にヨーロッパの復権を託そうとするのも、弛緩した「生」に活を入れるのが狙いと見える。ただそれがアメリカの自動車産業やソ連の五カ年計画に対抗するためであるとすれば、随分底の浅い「生」とは言えまいか。
オルテガの大衆民主主義批判や精神の貴族主義擁護は今なお傾聴すべき貴重な示唆を含んでいる。ことに懐疑の精神の乏しい日本においてその意義は計り知れない。しかしそのオルテガも近代の自己肥大病から完全には自由でないということは心にとめておいてよい。末人を罵倒したニーチェには全てを肯定する大いなる「笑い」があった。主意主義的な決断にかけたハイデガーは後に主観性を脱却する「放下」に思い到る。「生」の充実を志向しつつも自己という呪縛から解き放たれる手掛かりがオルテガにあるだろうか。少なくとも本書からはそれを読み取ることは難しい。 -
【由来】
・amazonの月間セールで安かったので。
【期待したもの】
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※「それは何か」を意識する、つまり、とりあえずの速読用か、テーマに関連していて、何を掴みたいのか、などを明確にする習慣を身につける訓練。
【要約】
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【ノート】
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【目次】
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この本が書かれた時代は1930年。二度あった世界大戦の真ん中であり、半世紀以上前に執筆された本でありながら、内容は全く色褪せることなく、今日的な意味を多分に含んでいる。
特に、オルテガが定義する「大衆」は、現代日本においても跋扈しつづけている。特に、何処ぞのデモ隊なんかは正しく「大衆」であろう。すんなりイメージ出来るあたり、この本が古びていないことの証左である。また、構想されていたヨーロッパの統一国家はEUという形で現実の物となっている。
ただし、現在EUが直面している問題を鑑みると、オルテガの思想は少々理想主義に傾き過ぎたきらいがあるのではなかろうかとも思われるが。
そして、オルテガが考える「真の貴族とは」、「生きる意味とは」に触れる度に、自らの現在を恥じ入るとともに、より良く生きることを考えずには居られない。
内容は平易で分かりやすい。万人におすすめ出来る一冊。 -
「サイコパス」に引用されていて気になり2回目の読了。1回目に読んだときは愚かな大衆に対する罵詈雑言集として楽しんで読んでいただけだったが。読み直してみると生の増大と時代の高さという一貫したテーマがありそのうえでの大衆批判になっており深かった。ソビエトの社会主義やイタリアのファシズムの失敗の予言は2回目に初めて気づいた。明示はしていないがキリスト教的価値観であろうヨーロッパ主義を過信しているようにも感じられた。読んでいるといろいろな主義や思想が頭の中をめぐってきて、何度でも読みたくなる本だ。
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1930年の著作とは思えない、現代をも捉えた社会、政治哲学。