漢文の素養~誰が日本文化をつくったのか?~ (光文社新書) [Kindle]

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  • 太古の時代、日本人がそろそろ文字が必要となった頃、お隣の中国はすでに漢字を使った文字体系を確立していた。そのため、日本ではこれを取り入れ話し言葉は日本語(その頃風なら倭語か)書き言葉は漢文というスタイルを取った。このことが日本語にとって幸なのか不幸なのかは人によって意見が異なる事は本書にもあるとおり。高島俊男は「漢字と日本人」で不幸なことと決めつけている。本書では幸とする。

    日本人の書き言葉の最初に漢字があったことが幸なのか不幸なのかは別として日本語は常に漢字とともにあったのだから、日本語を語るときに漢字は抜きにできない。

    本書では日本の歴史、文化の中で漢文が果たした役割を紹介する。二〇〇〇年前に「威信材」として漢文がされ、中世から近世にかけては「生産財」として機能してきた漢文は、現代では「消費財としての教養」となっている。筆者の言いたいところは現代でも漢文は「生産財としての教養」となり得ると言うことのようだ。

    果たしてそうだろうか?”日本の古典”としての意味で漢文を勉強する事に意義はあると思う。漢籍を学ぶことが日本人としての素養であった時代が続いたし日本文化はそれを元に発展して来た。また、漢字を使いこなすことで日本語の表現を豊にできる事は今でもそうであろう。しかしながら漢字を使って豊にした日本語の表現を理解できる人は今では限られてきたいる。むしろ持って回ったいい方ととらえられたり、場合によっては曲解を招きかねないのである。

    漢詩・漢文も悪くはないが、残念ながら今となっては趣味・「消費財としての教養」以上のことを求めることは難しい。

    筆者は今の日本の教育では、英語はコミュニケーションの道具として教えられるが漢文はそうではないと嘆くが、漢文がコミュニケーションの道具として使えると考えるのは今となっては筆者の妄想以外になにものでもないと考える。なんといっても中国のしかも古文なのである。ヨーロッパにおいてラテン語をコミュニケーションの道具として使えと言うのと同じである。学校教育で漢文を教える意味は現代でもあるとは思うが、中等学校までの義務教育でこれを教える意味はさすがになくなったのではなかろうか。ただでさえ、私たちが子どもの頃に較べると新に学ばなければならない事が多くなっている中でである。

    とまあ、批判的に述べてみたが、かといって本書の価値がそれで下がることはなく、前出の「漢字と日本人」と併読してみると漢字と日本人、漢字と日本語の歴史が理解できると考える。

  • 日本における漢文(漢字に非ず)の受容史というか、漢文から見た日本の歴史というか。漢文がいかに日本の政治・外交に影響を与えてきたか、それを日本人はどう咀嚼してきたか。日本の歴史における極めて長い期間、漢文を読むという行為は、そのまま国際的な知識・最先端の知識にアクセスすることと同義であったことがよくわかる。
    そして、「中流実務階級」という社会階層が、日本における漢文文化を支えてきたという。一握りの貴族階級と大半を占める庶民との間、高度な知識を持って実務を処理する官吏たち。その役割を担うのは時代によって僧侶であったり武士であったりしたわけだが、共通して漢文の素養を身につけてきた。中流実務階級の知識と実務能力は漢文によって獲得されるものであり、漢文は必須の「生産材としての教養」であった。
    それが、大正以降の100年で一気に捨て去られ衰退し、学校でちょろっと習うだけになった。これから先、漢文が必須知識になることも、再び漢文が生産材として復活することもたぶんない。とはいえこうして漢文の文化を捨て去ることが日本にとって良かったのかどうか、難しいところではある。

著者プロフィール

1963年生まれ。明治大学法学部教授。専攻は中国文学。主な著書に『京劇――「政治の国」の俳優群像』(中央公論新社)、『西太后――大清帝国最後の光芒』(中公新書)、『貝と羊の中国人』(新潮新書)、『漢文力』(中公文庫)など。

「2023年 『西太后に侍して 紫禁城の二年間』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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