2011年と最近の作品であるのに、全編白黒の映画。
そして、ほぼ無声映画。
なのに、これがとても面白かったです。
無声映画って多分初めて観ましたが、全てのセリフに字幕が出るわけじゃないんですね。
大事なセリフにしか字幕がでない。
もちろんモノローグもありません。
だから、役者の表情やしぐさで気持ちを慮らなければならない。
効果音がない分、オーケストラの音楽が場を盛り上げます。
この映画は無音映画ではないので、音楽がとても効果的に使われています。
サイレント映画のスター、ヴァレンティンに結構強引に近づいてくるペピーの気持ちが最初よくわかりませんでした。
一緒に写っている写真が(多分)芸能新聞の一面に載ると、周りの人に見せびらかす。
彼が不在の時に楽屋にこっそり忍び込む。
憧れなのか、売名行為なのか。
ちょっと不快ですらありました。
けれどスターは鷹揚にこう言うのです。
「特徴のない顔だから、付けぼくろをするといいよ」
そして、付けぼくろのせいか、ペピーはとんとん拍子に売れっ子になっていきます。
エキストラから脇役へ、脇役から主役へ。
時代はサイレントからトーキーへ。
わざとらしく誇張した演技ではなく、自然な、リアリティのある演技へ。
ヴァレンティンにももちろんトーキー映画へのオファーが来ますが、彼は安っぽいドキュメンタリー風の映画より、芸術性の高いサイレント映画の方が価値が高いと、トーキー映画に背を向けたまま。
映画会社との契約も解除になり、事務所の階段を下りていくヴァレンティン。
そこに意気揚々と階段を駆け上ってくるペピー。
「ようやくあなたと同じところまで登って来られたわ」
階段で交差した二人は、その後もひとりは登り続け、ひとりは下り続けます。
ヴァレンティンを慕ってついてくるのは、お抱え運転手と愛犬だけ。
その運転手すら車ごとくびにしなければならないヴァレンティン。
この先にもドラマは続きますが、サイレント、面白いです。
台詞がない分、自分で補って観なければならない部分が多い。そこが面白い。
どんな気持ちでこんなことをしたのか。
この目つきの意味は何か。
最初は不快に思って見ていたペピーの行動の一つ一つが徐々に可愛らしく愛おしくなってきて、最後は泣き笑いで観ていたような気がします。
私、多分1920年代のアメリカが結構好きなんだと思います。
街並みも、ファッションも、音楽もとても好き。
ダンスのシーンなんか、目がハートになるくらい好き。
ああ、これ、「デート~恋とはどんなものかしら」の世界なんだわ、と思ったことよ、巧くん。
そして、犬!
最優秀演技賞をさしあげたいくらい、けなげでお茶目でキュート。
全く知らなかった映画。
はっきり言ってジャケ借りでしたが、大正解でした。