年末年始の(ほぼ)全話無料という破格のサービス期間中にうっかり全話読んでしまった。
都市部と地方の医療格差是正という理想に燃えて、N県T村に若き医師、富永研太が大学病院からやってくる。医療過疎地だと思っていたT村での診療所生活が始まったと思いきや、そこは……今どきのファンタジー漫画的なわかりやすいタイトルにすると、「僻地医療を志して『無医村』に赴任したら、規格外な達人揃いの医療者ギルドで鍛えられました!」(富永編)が始まりそうな展開。無医村の大黒柱として「先生が来てくれて村が助かった!」と手放しで頼られることを多少なりとも期待したであろう富永先生は、そこで「K」と呼ばれる万能の医師と、医療に(独自のやり方で)造詣の深い村人たちにむちゃくちゃ鍛えられながら波乱の日々を送ることになる。いやまあ、富永先生は赴任時点ですでに、平均以上のスキル持ちのドクターなんですけど、赴任した地域が悪かった。
T村で鍛え上げられる富永先生のエピソードと並行して、「K」を名乗る一族や彼らと関わる人々、出会いと別れ、次世代への医学の継承と、てんこ盛りで展開される人間ドラマの数々が、多様な医療分野や症例の手術シーンとともに語られる。前々作にあたる『スーパードクターK』で突出していたトンデモ要素は控えめになり、リアルな医療活動に寄せているが、それでもパンチの効いている回は多い。ストーリーテリングは医療ドラマのシリアスさを保ちながら豪快かつコンパクトで、作者・真船一雄先生による匠の技を堪能できるし、本作で医学知識を中途半端にインストールしてしまった読者への警告もメタ的に盛り込まれていたりと、フィクションと現実との間のブリッジの架けかたも細かい。
医療ドラマでおなじみの「悪の医師、悪の医療集団、意地悪ライバル」は出てくることは出てくるが、全登場人物の95%くらいが善性を持っていて読みやすく、中でも女性医療者がもれなくかっこいい。前作『Doctor K』で暴れん坊だったKEI先生は普通に有能な医師として登場するし、スーパー看護師麻上さん、努力の権化・宮坂さんや剣士斉藤さん、期せずして「番長」と呼ばれる青山さん、看護師やってるボディビルダー双葉さん、光明皇后の施薬院から続く医療者の家系という人間国宝的な麻純さんに、それ以外の無名の医療スタッフもみんな素敵に描かれている。おっと、戸倉先生にも敬語を使わせるイシさんを忘れちゃだめだな。
『スーパードクターK』は「世紀末医療者伝説」的なコンセプトのハチャメチャ医療活動で驚かせていただいた作品だったが、『K2』が上手いのは、そのときに登場した若手医師がそれ相応の年を重ねて本作に再登場するなど、作品の中の年月がスムーズに進んでいることで、個人的にはとても好感が持てる(1試合で1年の連載を使ってしまうスポーツマンガなんか、ザラじゃないですか)。高品先生の思い出話は特に、若いころの巻き込まれエピソードに笑いながらも、最後には泣かされてしまう。
通信料しか払っていないのに、これだけのボリュームの作品を読ませてくれて、配信元の講談社さんには感謝しかない。気に入ったエピソードと単行本は買いますので許してください。