- Amazon.co.jp ・映画
- / ISBN・EAN: 4988003825454
感想・レビュー・書評
-
最近気に入っている吉田恵輔監督の旧作(2013年)。
吉田作品では『純喫茶磯辺』も『犬猿』も『さんかく』もよかったが、これもなかなか。私はこの監督とウマが合うというか、リズムが合う。
脚本家を夢見てシナリオ・コンクールに応募しつづけるも、一次予選にすら通過したことがない34歳独身のヒロイン・馬淵みち代を、麻生久美子が好演。
この役にこれほどハマる美人女優は麻生久美子しかいないだろう。化粧っ気のない地味メガネ姿でも、とても美しくチャーミング。
脚本家に限らず、何かの「クリエイター」を目指した時期のある人にとって、これほどヒリヒリと痛い映画はほかにないだろう。最初から最後までヒリヒリしっぱなしだ。
なにしろ、これはよくある「頑張れば夢はかなう」という映画ではなく、「どんなに頑張っても、才能がなければ夢はかなわない」と現実を突きつけ、世の「ワナビ」たちに冷水をぶっかける映画なのだから……。
こんな映画が過去にあっただろうか? たとえ夢がかなうまでは描かなかったとしても、かなうことを予感させて終わるのがフツーの青春映画だろう。
管見の範囲で本作に近いのは、コーエン兄弟の『インサイド・ルーウィン・デイヴィス 名もなき男の歌』だろうか。あの映画でも、主人公ルーウィン・デイヴィスは最後までフォーク・シンガーとして芽が出ないままで終わる。
ただ、ルーウィンはまがりなりにもレコード・デビューを果たしていたし、モデルになったデイヴ・ヴァン・ロンクは通好みながらも多数のアルバムを出すまでに成功している。その意味で、本作のほうがより徹底した〝「夢はかなわない」映画〟と言える。
みち代オンリーだったら、切なく哀しい物語になったであろう。「ビッグマウス」こと自称天才脚本家・天童義美(安田章大)をもう一人の主人公に据えることによって、ビターな青春コメディになった。
天童のように、一度も作品を書き上げたことがないのに「天才」を自称するイタイやつは、脚本家・小説家・マンガ家等、各界ワナビの中に多数実在するのである。
みち代が天童を罵倒し、缶コーヒーを吹き出すまでのシークェンスがすごい。『純喫茶磯辺』で、麻生久美子が男に殴られて鼻血を一筋出すまでの奇跡的タイミングの名シーン(観ていない人には意味不明だろうが)に匹敵する。
そしてもう一つ、みち代が元カレ(岡田義徳)の家に行き、「夢」への未練について泣きなから語るシークェンスが秀逸だ。
「ホントはね、きっと夢はかなわないんだろうなって、わかってはいるんだけどね……。でもね、抱いちゃった夢って、どうやって終わりにしていいかわかんないんだもん……」
「夢をさァ、かなえるのってすごい難しいのは最初からわかってたけどさ。夢をあきらめるのって、こんなに難しいの……?」
――なんと哀切なセリフだろう。
ワナビのイタさを笑いと切なさに昇華し、〝青春の終焉〟を活写した傑作。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
夢を見さしてくれる映画ではなく、現実を叩きつけてくる映画でした。
ばしゃ馬さんとビックマウスを正反対の二人が登場するんだけど。なんか自分の中にこの二人があるときは、ばしゃうまさん、ある時はビックマウスがたしかに存在していて。見につまされるそんな映画です。
ビックマウスの役者がとてもハマっていると思いました。この人がジャニーズだったのがほんとにびっくりです。
シナリオライターという仕事もなんとなく垣間見れたような感じもしたし、物語を描く側の苦労も。