ナショナル ジオグラフィック日本版 2024年3月号(誌面リニューアル号/ブチハイエナ その知られざる素顔)

制作 : ナショナル ジオグラフィック 
  • 日経ナショナル ジオグラフィック
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  • Amazon.co.jp ・雑誌 (138ページ)
  • / ISBN・EAN: 4910068470348

感想・レビュー・書評

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  • よくできた雑誌なのだが、Kindleで読めないのが残念。

  • シリア 終わらない内戦 首都ダマスカスの現実

    現政権への抗議デモをきっかけに、3年前から内戦状態に突入したシリア。戦火が迫る首都ダマスカスで、市民の声を取材した。

    文=アン・バーナード/写真=アンドレア・ブルース、リンジー・アダリオ

     シリアでは激しい内戦が続いている。2013年末までに約900万人が家を追われた。その多くは国内の比較的安全な地域に避難し、約4分の1の人々は国外に脱出した。増え続けるシリア難民の受け入れ先は近隣諸国だけでは追いつかず、その波は欧州などの遠隔地にまで及びつつある。内戦は3年目に入ったが、収束の兆しはいまだ見えていない。

     首都ダマスカスの旧市街は、今のところはかろうじて戦火を免れている。北部のアレッポや中部のホムスといった内戦の激戦地や、戦闘で荒れ果てた郊外から逃れてきた人々が、仮の住まいに肩を寄せ合って暮らす。だが首都の安全地帯もじわじわと狭まりつつある。先が見えない状況のなか、懸命に生き延びようとする市民たちを取材した。
    元凶は反体制派か、アサド政権か

     アラブ世界において、ダマスカスは何世紀もの間、高度に洗練された文明の都として知られてきた。内戦ですでに多くが失われたとはいえ、その独自の文化はシリアの未来をかすかに照らす希望の光となっている。

     この街では何世紀もの間、異なる信仰をもつ人々が交易を行い、ともに暮らしてきた。スンニ派やシーア派のイスラム教徒、キリスト教徒、そしてユダヤ教徒。もちろん衝突もあったが、人々は宗教や宗派の違いを超えて、自由で活気に満ちた都市の生活を満喫していた。

     しかし1970年代初頭、アラウィ派出身のハーフェズ・アル・アサドが政権の座に就く。シーア派の分派とされるアラウィ派は長年抑圧され、沿岸部の山岳地帯で暮らしていたが、アサド政権下で優遇されることを期待して、次々と首都に流入するようになった。ハーフェズの跡を継いだのが、息子のバッシャールだ。

     政府派の人々に言わせれば、アサドこそダマスカスの守り手で、異文化が共存してこられたのはアサドのおかげだという。彼らにとって反体制派は、外国にそそのかされて少数派のアラウィ派を追い出し、宗教的な支配を押しつけようとする過激派にほかならない。
     一方、反体制派の人々は、こうした主張を悪意に満ちたでまかせとして非難する。武装組織の戦士たちもごく普通のシリア人であり、シリアの多様性を支える存在だというのだ(彼らの多くは地方出身の貧しいスンニ派だ)。反体制派にとってアサドは、宗教対立をいたずらにあおり、政権の座にしがみつくためにはダマスカスの街を焼き払うこともいとわない独裁者だ。

     ダマスカスで育ったという30代の男性、ガジ・H(仮名)と迷路のような旧市街の路地を歩いた。シーア派地区の壁には、アサド政権を守るために死んだ兵士をたたえるポスターが張られていた。隣の地区に住むスンニ派はそれを見て、ひそかに兵士たちの死を喜んでいるだろうと、ガジは言う。それでもシーア派とスンニ派は挨拶を交わし、互いの店で買い物をする。「この街ではいつの時代も、同じような光景が繰り返されてきました。それでも人々の生活は続いていくんです」

    ※ナショナル ジオグラフィック2014年3月号から一部抜粋したものです。
    編集者から

     シリア内戦の終結に向けた国際和平会議がスイス・ジュネーブで始まったのは、ちょうどこの記事を編集している時でした。でも交渉は難航し、その間にも犠牲者が増え続けています。
     内戦で家を追われたシリア人は、昨年末までに約900万人に達したそうです。難民キャンプでパンの配給に群がる少年たち、空爆直後に国境を越えて逃げる家族、ボロボロに荒れ果てた郊外の街並み……。「アラブの春」はまだ終わっていないという現実を突きつけられました。(編集M.N)

    星を食らうブラックホール

    光さえも抜け出せない強烈な重力をもつブラックホール。謎だらけだったその正体が、少しずつ明らかになってきた。

    文=マイケル・フィンケル/イラスト=マーク・A・ガーリック

     ブラックホールが宇宙きっての“暗い穴”になっているのは、いかなる猛スピードでもその重力から逃れることができないためだ。地球の重力から逃れるためには、秒速およそ11キロまで加速すればよい。これは弾丸の数倍に匹敵するスピードだが、人間の造ったロケットは1959年にこの速度を超えた。

     宇宙で一番速いのは、秒速29万9792キロで移動する光だ。ところがこの光の速度をもってしても、ブラックホールの重力には打ち勝てない。ブラックホールの内部にあるものは、たとえ光でも外には出られない。

     ブラックホールの内側と外側を分ける境界線は「事象の地平線」と呼ばれる。それより内側に入り込んだものは恒星であれ、惑星であれ、人間であれ、永遠に失われるのだ。
    ブラックホールにも「底」はある?

     ただ、ブラックホールは無限に深いとよくいわれるが、それは誤りだ。底はある。もっとも、あなたが生きてそれを見ることはない。底に近づくにつれ、重力は急激に強くなっていく。足から先に落ちた場合には、足にかかる重力が頭にかかる重力よりはるかに大きくなる。そのために体は上下に引き伸ばされ、最後には引き裂かれる。物理学者はこの現象を「スパゲティ化」と表現する。

     引き裂かれたあなたの破片は底にたどり着く。たどり着いたブラックホールの中心は特異点と呼ばれる。特異点がどんなものかは、まったくわかっていない。その謎を解けば、科学の歴史に残る偉業となるだろう。まずは一般相対性理論と量子力学を超える新たな理論が必要だ。二つの理論は宇宙の大部分をうまく説明してくれるが、ブラックホールの内部のような極端な場所にはどちらも適用できないのだ。

     特異点は極めて小さいと考えられている。小さいなんてものではない。特異点を1兆の2乗倍に拡大し、世界一優れた顕微鏡でのぞいても、何も見えはしないだろう。しかし少なくとも計算上は、何かがある。単に小さいだけではなく、想像もつかないほど重い何かが。物理学者の大多数は「ええ、ブラックホールは実在しますよ。ただし、中に入って確認できるわけではないから、特異点の内部に何があるのかは決してわかりません」と言う。

    ※ナショナル ジオグラフィック2014年3月号から一部抜粋したものです。
    編集者から

     早ければ1年以内に、宇宙規模の大イベントがあるといわれています。私たちの住む天の川銀河の中心にある巨大なブラックホール(いて座A*:エースター)にガス雲が接近中で、今まさに飲み込まれようとしているのです。ブラックホールが星やガスやちりなどいろんなものを吸収する天体であることはよく知られた事実ですが、実際に飲み込む瞬間にはなかなか遭遇できません。飲み込んでいるあいだ、世界各地の天文台がいて座A*に焦点を合わせ、“食事の風景”をとらえることになっています。
     では、そもそもブラックホールとはどんな天体なのか。私たちはその実像をほとんど知りません。どうやって生まれるのか? なぜそんな不思議な天体があるとわかったのか? 吸い込まれた星はどうなるのか? この宇宙には何個くらいあるのか? まわりのものを吸い込んだ果てに将来どうなっていくのか? 記事では、このような謎を次々に解き明かしていきます。世紀の天体イベントを前に予備知識を仕入れ、期待に胸をふくらませるにはうってつけの特集です。(編集N.O)

    クロマグロ 乱獲の果てに

    「本マグロ」とも呼ばれ、高級なすしネタとして人気のクロマグロ。乱獲が懸念されるマグロの王者の、大西洋での資源管理の実態に追った。

    文=ケネス・ブラウワー/写真=ブライアン・スケリー

     2013年1月、東京・築地市場の初競りで1匹のクロマグロに1億5540万円の値がついた。これには新春の「ご祝儀相場」や落札者の派手な宣伝行為という側面もあったのだろう(2014年の初競り最高値は736万円だった)。とはいえ中型のマグロでも1匹100万~200万円になるのが普通だから、21世紀の日本人がいかにクロマグロ(本マグロ)のすしを偏愛しているかがよくわかる。

     クロマグロは、乱獲の憂き目に遭っている魚の代表格といえるだろう。この魚は太平洋と大西洋に生息するが、大西洋西部で生まれるクロマグロの生息数は、1970年から現在までに64%も減少した。
    マグロ資源管理のお粗末な実態

     クロマグロは広い海域を回遊する。つい30年前までほとんどわからなかったその回遊の実態は、追跡技術の進歩によって少しずつ解明されてきた。捕獲したマグロにタグを装着して放すことで、移動距離やルート、潜水パターンといった貴重な情報が得られるのだ。

     研究を進めるマグロ研究保全センター(TRCC)は米国カリフォルニア州のモントレーにある。所長バーバラ・ブロックの研究室は、ちょっとした展示室のようだった。壁やキャビネットの扉など至るところに、クロマグロの現状を示すデータや海図が貼られている。

     ただ、その現状はあまり喜ばしいものではない。「タイセイヨウクロマグロの推定産卵親魚量(1950~2008年)」と題されたグラフを見ると、メキシコ湾でも地中海でも産卵するクロマグロの数が急速に減り、限りなくゼロへと近づいている。
     タイセイヨウクロマグロの分布図もあった。タグによる追跡調査の結果を基に、色とりどりの小さな円が地図上にいくつも描かれている。なかでもブロックが強い関心をもっているのは、「ICCATライン」と呼ばれる境界線とクロマグロの分布との関係だ。

     ICCATとは、タイセイヨウクロマグロの漁獲量を管理する「大西洋まぐろ類保存国際委員会」の略称である。1981年には北大西洋上の西経45度にICCATラインを設定し、東と西のクロマグロを分けて資源管理を行うことにした。だがTRCCが作成した分布図からは、興味深い事実がわかる。広い大西洋に点在する餌場のすべてで、東部生まれと西部生まれのクロマグロが混在している。ICCATラインに科学的な根拠がないことは一目瞭然だ。

     問題点はまだある。違法操業による漁獲量がかなりの量にのぼることが調査で判明しているにもかかわらず、ICCATはこれまでのところ、どこまで容認するかの線引きすらできていないのだ。地中海で生まれる東部のクロマグロ資源は確かに量が多いが、ICCATは研究者の提言をはるかに上回る漁獲可能量を設定。産卵期の禁漁や、漁獲可能量の引き下げを求める提言も、無視を決め込んできた。

     2008年、ICCATは第三者による独立審査を実施した。著名な漁業管理の専門家や水産学者からなる審査委員会は、ICCATによる東部資源の管理について、「国際的な不名誉」であり「漁業管理に名を借りた茶番」であると切って捨てた。2009年にはモナコが、タイセイヨウクロマグロをワシントン条約の取引禁止対象に加えてはどうかと提案して、マグロをめぐる状況に一石を投じた。

     さすがのICCATも危機感を抱いたか、以後は違法操業への対策や、時代遅れの資源評価手順の改定などに向けて、重い腰をようやく上げつつある。だが組織や運営は従来のままで、加盟国の水産業界から圧力を受けやすいことに変わりはない。

    ※ナショナル ジオグラフィック2014年3月号から一部抜粋したものです。
    編集者から

     今回ぜひ見ていただきたいのが、本誌80~81ページの「泳ぎを極めた驚異の魚」と題したイラストです。マグロが泳ぎをやめると窒息して死ぬことは知っていたのですが、冷たい海で体温を維持する仕組みは恥ずかしながら知らず、「本当にスゴイ魚だ!」と編集中に感動して、イラストからしばらく目を離せませんでした。いったいどうやって体温を維持しているのか? 答えはぜひ本誌でご覧ください。ちなみに、iPad版ではイラストのマグロが動きます。ひれをたたんで泳ぐ姿がとてもかわいいので、購読されている方はお楽しみに~(編集T.F)

    ニュージーランド南島の大自然 大地と魂を結ぶ緑の石

    ニュージーランド南島には、先住民マオリが「翡翠(ひすい)の土地」と呼ぶ地域がある。高山や氷河を抱く雄大な自然の中で、緑の石を探してみよう。

    文=ケネディ・ウォーン/写真=マイケル・メルフォード

     足元の河原には、数えきれないほどの小石が転がっている。一緒に歩いていたジェフ・マフイカが突然かがみ込んで、何かをそっと掘り出した。
     ニュージーランドの先住民マオリが「ポウナム」と呼ぶその石は、太陽にかざすと灰色がかった緑色に輝いた。翡翠(ひすい)だ。

    「最初に見つけた石は手元に置かない、というのが私たちの習わしです」。そう言って私に石を手渡すマフイカは、マオリの翡翠彫刻家だ。このとき私はひらめいた。「穴を開けてくれませんか? この土地を一生忘れないように、首に下げておきたいのです」
    山々を生み、翡翠を生んだ大地の力

     マオリ語で「翡翠の土地」を意味するテ・ワヒポウナムは、1990年に世界遺産に登録された。ニュージーランド南島の南西端に位置し、四つの国立公園と自然保護区からなる。

     ニュージーランドは私の故郷だが、なかでもこの一帯は最も頻繁に訪れる。私たちが今いるカスケード渓谷は、沿岸道路の終点から徒歩1時間ほど。振り返ると午後の陽光を浴びたレッド・ヒルズ山脈が見える。あの山々を生み出した地殻変動の力が、美しい翡翠を誕生させたのだ。

     私たちは川岸をゆっくりと歩いた。地面を見つつも、むきになって探してはいけない。マオリの言い伝えでは、翡翠は「見つけるもの」ではなく、「石のほうから姿を現すもの」だからだ。とはいえ、よく似た緑色の石は山ほどあり、本物を見つけ出すのは容易ではない。

     マオリがこの土地の主だった時代、最も珍重された天然資源は翡翠だった。鋼鉄よりも硬く、加工して道具や装飾品を作るには長い時間がかかる。数週間、数カ月といった作業の過程で、石には持ち主の魂が宿ると考えられた。誰かが亡くなると、その人が大切にしていた翡翠を一緒に埋葬し、後で掘り出して子孫が受け継ぐという風習もあった。翡翠はそうして時を超越し、聖なる絆で世代間の魂を結びつける。

     マオリの世界観では、物はその出所を物語るとされている。つまり、クジラの骨ならクジラ、木材なら切り出される前の樹木、翡翠の場合はその源である山や川について教えてくれるのだ。
     翡翠は水と氷の働きで母岩から少しずつはがされ、川によって海へと運ばれる。
    「翡翠は常に移動しています」とマフイカは言った。「部族に伝わる物語のなかでは、この石を“魚”と呼びます。旅をするのは人間と同じですね」

    ※ナショナル ジオグラフィック2014年3月号から一部抜粋したものです。
    編集者から

     学生時代にニュージーランドの南島を訪れたことがあり、懐かしく思いながら担当させていただきました。
     本編に出てくるフォックス氷河では、通常、遊覧飛行ができるのですが、係員のミスで私だけ麓に置いてきぼりにされる事件が。悔しくて「どうしても氷河の最初の一滴が見たい」と、独り氷河沿いをテクテク歩いて限界まで行き、写真を撮って帰ってきました。ところが、それはかなり無謀な行為だったらしく、途中、私が自殺志願者だと勘違いされていたことがわかって大慌て。お騒がせしました!(編集H.O)

    馬と生きる 北米先住民

    馬の登場は、北米の大平原の暮らしを大きく変えた。先住民の人々にとって、馬は今も部族の伝統と誇りの証しで、かけがえのない心の友だ。

    文=デビッド・クアメン/写真=エリカ・ラーセン

     1874年9月28日、北米先住民のコマンチ族は運命の日を迎えた。強制移住に抵抗してきた戦士たちの最大の集団が、パロデュロ・キャニオンの野営地で陸軍に急襲されたのだ。
     襲撃を実行したのは、米国テキサス州西部に駐屯する第4騎兵連隊。マッケンジー大佐率いる騎兵たちは野営地を襲ってティピー(円錐形のテント)を焼き払い、奪取した馬1000頭以上を引き連れて再び集結した。

     このとき行われた馬の大量殺戮により、白人の侵入に抵抗してきた先住民の最後のよりどころが打ち砕かれたのだという。馬がなければ、移動も狩りも戦いもできない。族長のクアナも捕らえられた。
     これが後世に知られる、パロデュロ・キャニオンの悲劇である。
    馬の登場で一変した部族間の勢力バランス

     相次いで行われた馬の大量殺戮により、コマンチ族の抵抗は打ち砕かれた。だが、大平原を支配した偉大な騎馬戦士の時代が終わった後も、北米の先住民と馬のつながりが絶えることはなかった。乗馬の技術はすでにほかの部族にも広まり、狩猟や戦闘、移動における馬の利用は大平原の南から北へ、コマンチやジュマノ、アパッチやナバホといった部族から、ポーニー、シャイアン、ラコタ、クロー、さらにその他の部族へと伝わっていった。

     馬は、北米先住民の暮らしを大きく変えた。バイソン狩りの効率が上がり、季節ごとの移動や他部族の襲撃といった活動の範囲も広がった。女たちは馬のおかげで、家財道具を運ぶ重労働から解放された。部族間の勢力バランスも馬の登場で大きく変わり、農耕を営む部族よりも、馬に乗り狩猟をする部族が有利になった。やがて馬は、それまで北米先住民が飼いならしていた唯一の動物だった犬に取って代わる地位を占めるようになった。

     現代の北米先住民にとっても、馬は大切な心の友だ。馬は誇りの対象、伝統の証しであり、武勇や修練、ほかの生き物への思いやり、世代を超えて受け継がれる技能など、祖先が重んじた価値を伝えてくれる。厳しい現代社会に生きる先住民の人々を支える、かけがえのない存在なのだ。

    ※ナショナル ジオグラフィック2014年3月号から一部抜粋したものです。
    編集者から

     馬がもともと米大陸の原産だったとは、知りませんでした。一度は米大陸で絶滅した馬ですが、コロンブスによる“新大陸の発見”以降に再び上陸。銃を携え馬に乗った白人たちに、アステカ帝国やインカ帝国はまんまと征服されてしまいます。
     でも北米の大平原での展開は、ちょっと違っていました。白人がヨーロッパから持ち込んだ馬は、いつしか先住民にも普及し、裸馬も乗りこなす勇猛なインディアンの騎馬戦士たちが、短くも輝かしい黄金時代を迎えたのです。先住民が今も馬を愛する気持ちは、そんな部族の伝統や誇りと強く結びついているようで、なんだか胸が熱くなりました。(編集H.I)

    コウモリを誘う花の“声”

    暗闇を飛ぶコウモリに、花粉を運んでもらう熱帯の花たち。コウモリの出す超音波を鮮明に反響させる工夫を凝らし、蜜のありかを知らせている。

    文=スーザン・マグラス/写真=マーリン・D・タトル

     コウモリは暗闇で“耳を使ってものを見る”。

     イタリアの生物学者ラザロ・スパランツァーニがそんな見解を示して人々の嘲笑を浴びたのは、18世紀後半のこと。実際に仕組みが解明されたのは、それから約150年後、1930年代後半のことだった。

     さらに近年、コウモリに受粉を頼る植物が、コウモリに見つかりやすいように花の形状を変えていることがわかってきた。コウモリと花の複雑な関係は、神秘のベールに深く包まれた自然の世界を、私たちに見せてくれる。
    花とコウモリの、蜜と受粉をめぐる“取引”

     コウモリは超音波を使って花との位置関係を把握する。声帯を素早く動かして鼻孔や口から短い破裂音を発し、跳ね返ってくる音の違いを高感度の耳で聞きとるのだ。

     長年にわたる進化の結果、蜜を飲むコウモリは特定のグループの植物と密接な協力関係を築き上げた。その原動力となったのは、生命活動の基本である「生存」と「繁殖」だ。

     だが、蜜と受粉の“取引”に当たり、植物はある種のジレンマに陥った。夜間に花を咲かせる植物は、蜜を小出しにしなければならない。コウモリが栄養をたっぷり摂取してしまうと、訪れる花の数が減り、花にとっては繁殖の機会が減ってしまうからだ。

     かといって蜜をあまり出し惜しみすると、コウモリは来てくれない。そこでコウモリに受粉を頼る植物は、進化の過程でうまい解決策を編み出した。蜜の量や質の問題は置いておいて、コウモリの蜜探しの効率を最大限に高めることにしたのだ。

     まず花を咲かせる場所。コウモリが飛行中に見つけやすく、なめやすく、天敵のヘビやオポッサムが潜む場所から離れたところに、甘い蜜をたくわえた花をむき出しにした。また、花の香りの成分に硫黄化合物を加えた。そのにおいは蜜食のコウモリにとって極めて魅力的で、遠くまで伝わる。

     ムクナをはじめとするいくつかの植物に至っては、さらに一歩先を行っている。コウモリの耳に反響音が届きやすくなるように、花や葉の形を変えたのだ。

    ※ナショナル ジオグラフィック2014年3月号から一部抜粋したものです。
    編集者から

     研究助手をしていた大学時代から、一貫してこのテーマを追い続けているラルフ・ジーモン博士。最初から大学でコウモリの研究をやろうと思っていたのでしょうか。師匠のフォン・ヘルファーゼン夫妻との出会いも大きかったかもしれませんね。目標をはっきりともって学生時代を過ごした彼を、うらやましくさえ思います。今、その時代に戻れたら何をやるでしょうか?(編集H.O)

  • 資料ID・700036906

  • ダマスカスの迷路のような路地は、互いに相容れない人々が共存するための知恵。

  • 「星を食らうブラックホール」
    未だ多くの謎に包まれたブラックホール、、、

    ブラックホールが暗い穴になっているのは、
    宇宙で一番速い光の速度をもってしても、
    ブラックホールの凄まじい重力のパワーには打ち勝てないからだという。
    光さえも逃れられない重力のへこみ!
    ブラックホールには底があるというけれど、
    そこがどうなっているのかは誰も見る事ができないんですよね…

    ブラックホールの内部に別の宇宙が存在しているとしたら。
    完全にSFの世界(笑)考えれば考えるほど夢が広がります!

    「大地と魂を結ぶ緑の石」の記事も良かった。
    ニュージーランドの世界遺産テ・ワヒポウナムの大自然。
    写真が息をのむほどに美しくて…癒されました。

  • 「特異点の内部のことはとは知り得ない…近年理論物理学者の間で
    私たちが住む宇宙とは別の宇宙があるという説が受け入れるようになってきた。私たちは宇宙(ユニバース)が膨大に集まった多宇宙(マルチユニバース)に住んでいるという説である。それぞれの宇宙はチーズに開いた穴のようなものだという。そしてさらに推論の領域に入るが、新しい宇宙を生み出すためには、まず既存の宇宙から大量の物質を取り込み、圧縮し、封印する必要があるとも考えられる。どこかで聞いた話ではないだろうか…ビッグバン…特異点は宇宙の種なのだ。…夢のような話だが、…周囲を見回し、自分の体をつねってみよう。私たちの住む宇宙自体が、ブラックホールの特異点から誕生したものなのかもしてないのだ。」

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