ルポ 虐待 ――大阪二児置き去り死事件 (ちくま新書) [Kindle]

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  • 筑摩書房
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  • 山田詠美「つみびと」が、この大阪2児置き去り死事件をもとに書かれていたということで、読んでみた。実際も、ああ、そう考えるよね…という思考回路を使って当事者達が考えていたこと、そして山田詠美は、そこに感情と物語を持ち込み、より読者に実感させる造りにしたということがよくわかった。

  • 名前は仮名になっているけど、大阪2児餓死事件の加害者サイドを掘り下げた話。

    事件としては空前絶後の悪質さだが、取材が丁寧に行われており、親子関係としては加害者の父親みたいな男いるいる、早苗の心理状態もそんな父親に育てられた長女あるある、という感じで読める。自分は虐待はしていないが、共感できる部分が多くあった。

    父親は「自分は教員。ラグビーで実績をあげて優秀」という肩書きを通して上から目線でしか他者と関われない。対等な関係がなく、上か下か。

    休みの日も家族をラグビーの試合に連れて行く。家族が何をしたいか聞くのではなく、自分の活躍を誇示するのが目的。また、早苗が悪いことして中学校に呼び出されても「教員としてどうなのか、自分は~」と逆切れして自分を誇示するばかりで、早苗のことを全く見ない。

    その後早苗が専修学校でラグビー部のマネージャーをやっているのも、本当にやりたかったの?父親の顔色見て選んだだけじゃないの?と思う。

    早苗が見栄っ張りな嘘をつくのも、男に寝ようと言われたら断れないのも、押しつけられた物を受け入れる以外に選択肢がない人生を歩んできたからだと思う。

    早苗にとって、平均以上の容姿で産まれてしまったことさえ悪い方に働いていると思う。せめて容姿が悪ければ、早く子供が欲しいと思っても出会ってすぐにデキ婚に持ち込める可能性は下がると思うし、そもそもあまり男が寄ってこないから不倫も成立しづらい。

    早苗は確かに可哀想だが、日本に唯一レベルではない。一方、お子さんたちの可哀想レベルは日本で空前絶後であることは変わらない。それでも私は、早苗を可哀想だと思ってしまうし、同じ環境同じスペックで生まれたら同じことをしてしまうかもしれないと思う。

  • 加害者自身が被害者で判決に不服な著者が加害者の代わりに責任転嫁するルポ風お気持ち表明文
    3歳と1歳の子供を何十日と放置して殺した女
    自身も不安定な環境で育ったことが原因なのか、些細な嘘をつく、嫌なことがあるとその場から逃げる癖がある。
    若くして子供を産む
    最初の一年ぐらいは順調だったが、徐々に育児放棄や浮気をして離婚。周りに頼らないし、自分が期待するリアクションが得られないと自分が被害者だと思い込む。

    結果として子供2人を何十日も軟禁して餓死させる。

    懲役三十年に不服を持つ著者は裁定に異議を唱えるも最高裁で棄却。
    過去に周りの人間はこうできたと責め立てるスタイルの文章。

  •  大阪のマンションで置き去りにされた二人の乳幼児が餓死していた事件は、思い出すだけでも涙が出るほど痛ましい。子供を閉じ込めたまま遊び歩いていたという母親は当然世間から非難を浴びたが、彼女がどんな人生を送ってきたか丁寧に取材してまとめられた本書は一読に値する。

     父親は高校教師で、荒れた学校の生徒たちをラグビーで鍛えたという、スクール・ウォーズの熱血教師みたいな人だったようだ。従って彼女も幼少期はかなり厳しく育てられたが、次第にグレて悪い仲間と交わるようになるという、これまたドラマみたいな展開だ。

     離婚して子供二人を抱えた女性が近親者もいない見知らぬ土地で生活していくのは、よほど優秀な人でも簡単ではない。まして彼女はいわゆる底辺の人だ。風俗で働くようになったのは必然的な帰結だったろう。全ての責任を彼女に負わせて何の手助けもせず、事件発覚後は被害者面して厳罰を求めたという元夫とその親族に対しては強い怒りを覚える。

     このルポを読んで感じるのは、彼女は単に無責任で奔放な人というわけではなく、むしろ自分の能力に見合わない責任感を持っていたということだ。そういう人は周囲に助けを求めることができない。その先にあるのは自滅だが、彼女の場合は子供たちが犠牲になってしまったのだ。

     あまりにも痛ましい事件ではあるが、この母親が特殊な人物とは思えない。短絡的に彼女を責めて罰するだけでなく、誰がどうすれば救うことができたのかきちんと検討しなければ、同じような事件はまた起こるのではないだろうか。

  • 二人の幼児がマンションの一室で餓死した"大阪二児置き去り死事件"のルポルタージュ。

    途中で何とかならなかったのかと何度も思いながら読み終わった。
    目の前の現場で一杯で細かな所まで手が届かない公共福祉、
    現状を知らず手を貸さない方が良いと判断する父母や元夫、
    自分を良い母親として盛って見せていたため周囲に助けを求められない母親。
    現実を直視できなくなった母親は家に子供を残し、食料を置いて、家を空けるようになる。
    無縁社会、シングルマザー世帯の貧困、育児放棄、親から連鎖するDVなど、
    現代社会の様々な問題が実感できる一冊でした。
    先日のベビーシッターの死体遺棄事件とも通じるものが多々あると思います。

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