あの戦争と日本人 [Kindle]

著者 :
  • 文藝春秋
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感想・レビュー・書評

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  • 著者の本を読むのは初めてだったけど、読みやすかった。共著の多い保阪正康よりは牽強附会な面は少なく感じた。

  • 幕末から戦争と日本人との関係を取り上げる。日露戦争当時の軍部と政府は正確に自分の国の力を把握していたから、開戦と同時に終戦工作を開始していた。日露戦争に勝ってしまった日本人は自分達の国の力を過信し、それが戦前昭和の軍部と政府の行動を律してしまったのだろう。

  •  『日本のいちばん長い日』などの著書で知られ、昭和史の大御所とでも言うべき半藤一利が、幕末から太平洋戦争まで日本が経験した「戦争」とそれが日本社会に及ぼした影響、そして日本人の行動パターンについて語ったもの。口述筆記なので文体は話し言葉になっており、スラスラ読むことができた。

    第一章 幕末史と日本人
    第二章 日露戦争と日本人
    第三章 日露戦争後と日本人
    第四章 統帥権と日本人
    第五章 八紘一宇と日本人
    第六章 鬼畜米英と日本人
    第七章 戦艦大和と日本人
    第八章 特攻隊と日本人
    第九章 原子爆弾と日本人
    第十章 八月十五日と日本人
    第十一章 昭和天皇と日本人
    新聞と日本人──長い「あとがき」として

     目次を見ると分かるように、必ずしも「戦争」ごとに語られているわけではなく、むしろ戦争にまつわる特徴を捉えてテーマを組んでいる。特に昭和に入ってからは、戦争を物語る上でのキーワードが列挙されている。そのため内容は自由に時代を前後しているが、特にわかりにくいわけではない。

     後半、太平洋戦争を語る中で大きな柱となっているのは、幕末や明治に比べて昭和の政治家や軍人は小物だという主張だ。著者は昭和五年生まれで、幕末や明治と太平洋戦争では本人の経験や記憶という点で立場が異なるので多少差し引いてみる必要があるが、客観的な史実を並べるだけでもそれは明確に示されており、否定しがたいと感じる。

     幕末から明治にかけての日本の指導者は、ともすれば欧米列強によって植民地化されるかもしれないという切実な危機感と、日本の国力が相手よりはるかに劣っていることの自覚があった。だから外交も戦争も極めて現実的な判断をしていた。ところが彼らの努力の甲斐あって“大日本帝国”となった後、昭和の指導者は政治家も軍人も己をわきまえなくなり、夜郎自大な国になってしまったというものだ。要は、「三代目が店を潰す」のと同じだったのだろう。

     しかし本書でも時折触れられているように、それは決して昔の話ではなさそうだ。つまりまさに現在の日本もそうなりつつあると思われる。戦後の焼け野原から必死で国を立て直した世代は去り、ジャパン・アズ・ナンバーワンの記憶しか持たない世代が国を導き始めたら、再びおかしな方向に進んでしまうのではないか。まさかこの時代にそんな、と笑い飛ばせると思っていたことが、決して笑い事ではないのだ。

  • 日中、日韓関係がこじれているニュースを聞くたび、本当のところはどうなんだろう?と悩んでいました。
    そんなとき本書に出会いました。
    他にも読んだ本はありますが、日本の視点から、おそらく正しい歴史を語ってくれている名著に出会いました。
    教科書では決して学べないことが、学べました。

  • 明治〜昭和の歴史を通じて学べるのは
    「自制と謙虚さの違い」が結果を分けた、
    だと思う。

    日露戦争まではあれほど冷静で俯瞰的に物事をみれ、外交上の勝利を手に入れた。

    しかし、一転して第二次世界対戦では、勝算が見込めるかろくに考えずに精神論主義に走り、多くの犠牲者をだす結果となった。

    これは、歴史に限らず個人としても学べることが大いにあると思う。

  • Asian Reading アジアの活読 余酔いの宵翌日
    『あの戦争と日本人』半藤一利 文藝春秋
    アジアの活読Award本に決定。昭和の敗戦の萌芽は、山懸有朋の参謀本部条例(明治10年1877)にある。(帝国憲法は明治22年)
    と喝破。そのほか、いろいろな事実を1次資料をもとに書かれています。徳富蘇峰が近世日本国民史で明治を明らかにし、大宅壮一が
    炎は流れるで昭和を描こうとしたけれど、半藤が明らかにした昭和の歴史もそれらに負けていない。読むべし。

  • ・4/22 読了.なるほどね、かなり冷静で客観的な分析だと思う.でも確かに今の日本があるのも敗戦があったからなんだよね.なるようにしかならないんだろうな.八紘一宇っていうのは石原莞爾の最終戦争論読んだ時も感じたけど、よく知らない海外の人達にはきっとイスラムで世界統一を目指す今のISISのような考え方のように聞こえるんだろうと思う.日本人だからなんとか想像ができるんであって、どう見ても危険思想に見えちゃうだろうなぁ、全然違うんだと思うけど.

  • なぜ支那事変とよび戦争と呼ばなかったのか、など知らないことが多く解説されている。
    口述筆記なので読みやすく、引き込まれていく。

  • 日露戦争の時の状況、政治家・軍人たちの考え、動きと昭和の日中戦争・対米戦争の頃の政治家・軍人たちとの対比は非常に興味深い。

    日露戦争が非常に外交的に練られて、最小限の戦闘、戦果、最大限の外交努力、講話によって完結されたものであったのに対して、昭和の戦争は。

    「日本のいちばん長い日」についての言及が少し冗長というか、そこまで突っ込まなくてもという印象なのと、昭和の戦争については作者が生きてきた時代であるのに対して、明治時代については、歴史上の出来事であるという分を差し引いても、昭和の戦争が落とし所のなかった、外交との連携を欠いたものであったと、振り返るにはよい一冊ではないかと思う

  • 幕末から敗戦までの日本人が歩んだ道を論じた歴史読本。

    その間の日本人は幕末をピークに退化し続けた。幕末から明治にかけて天皇、政治家、軍人たち国家のトップは一丸となって日本を守り、発展を志した。愛する国を近代国家にすることが彼らの生きがいであり、プライドだった。そして、近代国家へ仲間入りする。

    やがて、日本人は近代国家の日本しか知らない世代へと移る。その世代にとって、日本は戦争をすれば必勝する先進国であり、滅びることなんてありえない。そして、日本は原子爆弾を落とされ敗戦を迎える。

    どこで日本人はこうなったのか。幕末、命がけで外国から日本を守り抜いた志士たちの精神はどこへ行ってしまったのか。著者はそのキーポイントを日露戦争と考える。日露戦争は日本もロシアも勝利していない戦争だった。それなのに日本は戦勝国として振る舞った。というか、振る舞わなければ世論が納得しなかったのだ。勝てなかった戦争を勝ったことにしてしまった歪んだ思想は、その後の日本人に大きな悪影響を与えた。

    敗戦から戦後昭和の時代を経て、平成の現代日本。日本人は戦中の国に対する無責任精神から脱することができたんだろうか。それが明らかになるのは、戦争のような日本人全体が体験する大国難が起きた時だろう。

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著者プロフィール

半藤 一利(はんどう・かずとし):1930年生まれ。作家。東京大学文学部卒業後、文藝春秋社入社。「文藝春秋」「週刊文春」の編集長を経て専務取締役。同社を退社後、昭和史を中心とした歴史関係、夏目漱石関連の著書を多数出版。主な著書に『昭和史』(平凡社 毎日出版文化賞特別賞受賞)、『漱石先生ぞな、もし』(文春文庫新田次郎文学賞受賞)、『聖断』(PHP文庫)、『決定版 日本のいちばん長い日』(文春文庫)、『幕末史』(新潮文庫)、『それからの海舟』(ちくま文庫)等がある。2015年、菊池寛賞受賞。2021年没。

「2024年 『安吾さんの太平洋戦争』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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