ヒューマン なぜヒトは人間になれたのか (角川文庫) [Kindle]

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  • KADOKAWA / 角川書店 (2014年3月25日発売)
  • Amazon.co.jp ・電子書籍 (333ページ)

ヒューマン なぜヒトは人間になれたのか (角川文庫)の感想・レビュー・書評

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  •  2012年に放送されたNHKスペシャル『ヒューマン なぜ人間になれたのか』の取材記。私たち人類の持つ「心」が生まれてきた過程を、多くの遺跡や学者への取材に基づきドラマチックに再構成する。

     遺伝的に人類と最も近いと言われるチンパンジーは、遺伝子としては1%しか異ならないが、姿かたちだけでなく行動においても大きく異なっている。大半の動物が本能によって行動するのに対し、人類の行動は心によって決定する。心は本能と違い、時には不合理にも見える挙動を示す。それはどういう理由なのか。

     本書では、アフリカで発祥した人類が世界中に拡がる過程の中でどのような状況を経験し、それにどのような方法で対応(あるいは回避)してきたかを紐解きつつ、それが心の形成に与えた変化を探っている。人の心を変化させたポイントとしては「環境変化」「飛び道具」「宗教」「農耕」「貨幣」「都市」などが挙げられている。自然なようでいて意外な印象もある。

     本書を通読して感じたのは、いわゆる倫理・道徳の多くは聖人君子が考えだしたものではなく、人類が進化の過程で獲得した生存戦略だということだ。例えば食物を公平に分かち合うことが奨励されるようになったのは、そうする集団がそうでない集団より良く生き延びられたことの帰結だと言えるだろう。

     この分野はまだ研究途上であり、私が子供の頃に聞いた説明はかなり覆されているようだ。もちろんこれから先も定説が覆されることは多々あるだろう。知っているつもりの分野でも時々知識のリフレッシュが必要だ。

  • 研究の内容だけではない、研究者自身がその研究を通して、何を感じているのかを知ることは、ときに思いがけない示唆を与えてくれるようだ。これからの取材でも時間の許す限り、それぞれの研究者に丹念に聞いていこうと思った。(p.58)

    「もし、お皿に苺が山盛りになっていたとしましょう。2歳の子どもの口にお母さんが苺を入れる。喜んで子どもは食べます。すると、必ず子どもは苺を持って『お母さんにもあげる』ってやりますよ。これは人間の本性です。人間として生まれて持ったもの。いただくと、それを返す。相手に喜んで差し出す。そういう志を持って人間は生まれている。それは文化が違っても変わるところはないですね。人間は本性として人を助けるようにできているんだと私は思います」(p.72)

    私たち人類は、ずっと集団で協力することで生き伸びてきた。その基本にあるのは平等という考え方だ。現在の狩猟採集民を見ても、リーダー的な人物は存在するが、彼がほかの仲間より多くの肉をもらったり、特別に優遇されたりすることはないという。そして、この平等を壊す行為を忌み嫌い、それに対して罰を科す。それが、仲間への処罰が世界共通のルールになっている理由なのだ。(p.220-1)

    「優れた戦士は利己的ではありません。利己的な戦士なら、仲間を先に行かせて、自分は後ろに控えているでしょう。優れた戦士は、集団のために進んで危険を冒すという意味で利他的なのです。人間はランボーとマザー・テレサの組み合わせです。」(p.341)

    人類の進化のすばらしい点は、同じ人類という種全体のなかで向社会的行動、協力的行動を発達させたことです。協力を発達させた動物を見ると、その動物は急成長して成功をつかんでいます。労働を分担することをはじめたハチやアリは、ある個体があることをすれば、別の個体はほかのことをします。彼らは大きな集団を代表してやるべきことを行い、互いに信頼しています。それらの動物が進化的にもっとも成功してきたのです」(p.385)

    「多分想像するということが人間の特徴のひとつです。いまここではなくて、この先どうなるのか、あるいはかつてずっとはるか昔はどうだったのか、あるいはいまだとしても地球の裏側で何が起こっているのか。そういうことに人間は思いを馳せることができる。それは一言でいうと想像するということで、それが人間を人間たらしめている心の働きだと思うようになりました。」
    未来を考えることは、希望と絶望を生む。
    未来を考えることは人間の希望に違いない。しかし、未来があるからこそ人間は絶望する。
    未来を考える力を手に入れたときから、私たちの祖先は希望と絶望が交錯する世界を歩み始めたのだ。
    レオ(チンパンジー)の穏やかな表情をみると、少し羨ましく思ったりもする。そんな達観した世界に生きたいとも思う。
    でも、それはもはや望めないことだ。そもそもレオが達観したように見えること自体、誤解でもある。レオは別の世界に生きていて、違う課題を背負っている。
    達観は、希望と絶望の交錯の果てにしかない。
    私たちの祖先は遠い過去に、達観なき世界に別れを告げていた。(p.406)

    そもそも類人猿の社会は、優劣がはっきりした階級社会で、平等ではない。人類の遠い祖先もおそらく不平等の社会をつくっていたはずだ。つまり平等主義に基づく社会は、人類が誕生し、その進化の過程で築きあげたものなのだ。
    そこまでして、不平等を排し、平等社会を築いた理由は明確だ。
    そのほうが進化上、有利だったのだ。(p.477)

    都市で暮らす私たちが見失いがちで、彼ら(カメルーンのドンゴ村の人々)が持っているもの。それは「足るを知る」という心だろうか。
    熱帯の狩猟採集の暮らしでは、基本的に「その日暮らし」をせざるを得ない。必然的に「足るを知る」という精神で望まなくてはならない環境なのだ。そこでは、市川博士が簡潔に教えてくれたように、長持ちしない食料ではなく、人間関係を溜めておくというリスク回避のメカニズムが働く。(p.505)

    平等の楔から抜け出した時、安定から発展へと舵が切られた。
    コインが初めて「無限の欲望」と「個人」を生んだ。これこそが、長年の人類の平等社会を変えたという。(p.510)

    私自身、ここ数年の国際的な温室効果ガスの削減交渉の遅々として進まぬ様子を少し悲嘆に暮れながらみていた。しかし、ヒューマンの取材を通して、たとえ遅々として進まなくとも、それでも、各国の代表者が、なんとか折り合いをつけられないかと前に向かって苦心惨憺しているその姿こそが人類そのものであり、貴いものであり、きっと変わっていくのだと思えるようになった。さまざまな知恵を出して、共感能力を進化させ、新しく協力の形をつくっていくことは可能なのだと思う。(p.555-6)

    「私は人間を知れば知るほど、人間が愛おしくなります。決して人間は捨てたものではないと思うんです。ついこの前までは、いままでよりももっと戦争も深刻だったし、人の命は軽かった。いろんな問題があっても、それでもそれを解決してきている。いまの時代は難問山積だというけど、何万年もの人類の歴史を考えれば、いまほど空前絶後のよい時代はないと思うんです。いまは昔から考えれば、恵まれた時代だと。もっとそのことに感謝して前向きに考えなければだめだと思うんです。昔は、いまよりももっと過酷でも、それでもよりよく生きていこうと努力する人たちがいて、いまがある。だから、必ずいろんな問題は解決していけると思うんです」(p.557-8)

    私がなにを思ってきたか それがいまの私をつくっている
    あなたがなにを考えてきたか それがいまのあなたそのもの
    世界はみんなのこころで決まる 世界はみんなのこころで変わる
    (谷川俊太郎「こころの色」より一部抜粋)(p.559)

  • NHKスペシャルの本。人類の誕生から拡散の過程において、心がどう進化してどういう役割を果たかにフォーカスを当てた。心は見えないので、それをどう映像表現するかに苦心している。謎が多くいろいろな視点が取れる。テレビ番組の取材を元にしているのでストーリーもわかりやすい。ただし、予備知識がもうすこし無い人を想定して、人類の系統樹や地理的な説明など、基本的な図が多いと、より多くの人に薦められる。終章で種明かしがあるが第四章が意外だった。
    『銃・病原菌・鉄』『Born to run』もそうだが、人類史は、とても興味深いテーマだ。

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