- Amazon.co.jp ・電子書籍 (477ページ)
感想・レビュー・書評
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2012年に放送されたNHKスペシャル『ヒューマン なぜ人間になれたのか』の取材記。私たち人類の持つ「心」が生まれてきた過程を、多くの遺跡や学者への取材に基づきドラマチックに再構成する。
遺伝的に人類と最も近いと言われるチンパンジーは、遺伝子としては1%しか異ならないが、姿かたちだけでなく行動においても大きく異なっている。大半の動物が本能によって行動するのに対し、人類の行動は心によって決定する。心は本能と違い、時には不合理にも見える挙動を示す。それはどういう理由なのか。
本書では、アフリカで発祥した人類が世界中に拡がる過程の中でどのような状況を経験し、それにどのような方法で対応(あるいは回避)してきたかを紐解きつつ、それが心の形成に与えた変化を探っている。人の心を変化させたポイントとしては「環境変化」「飛び道具」「宗教」「農耕」「貨幣」「都市」などが挙げられている。自然なようでいて意外な印象もある。
本書を通読して感じたのは、いわゆる倫理・道徳の多くは聖人君子が考えだしたものではなく、人類が進化の過程で獲得した生存戦略だということだ。例えば食物を公平に分かち合うことが奨励されるようになったのは、そうする集団がそうでない集団より良く生き延びられたことの帰結だと言えるだろう。
この分野はまだ研究途上であり、私が子供の頃に聞いた説明はかなり覆されているようだ。もちろんこれから先も定説が覆されることは多々あるだろう。知っているつもりの分野でも時々知識のリフレッシュが必要だ。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
平成24年に出た本であり、3年前くらいに買って積んであったのを退職後に読んだ。
1、分かち合う心 2、飛び道具というパンドラの箱 3、未来を願う心 4、都市が生んだ欲望の行方
各章が深いメッセージを持つ良書だった。NHKのテレビ番組取材班による編集であるが、番組を含めて続編を期待したい。
飛び道具の発明により、狩りの対象になる動物だけでなく、同じ人間同士が殺し合うことにも罪悪感が薄れたというところは腑に落ちた。 -
読み応えがあり、NHKスペシャルらしい壮大さだった。
「人間とは何か」を考古学・人類学・脳科学・遺伝学・心理学・哲学・経済学・地球環境・行動経済学など、
全世界の専門家へのインタビュー、現在の狩猟採集民への取材など、
広範囲にわたった内容一つひとつが興味深かった。
人間は心を動機にする生き物である。
最終の谷川俊太郎の詩の一説が心に響く。
私がなにを思ってきたか
それがいまの私をつくっている
あなたがなにを考えてきたか
それがいまのあなたそのもの
世界はみんなのこころで決まる
世界はみんなのこころで変わる
(谷川俊太郎「 こころの色」より) -
NHKスペシャルの本。人類の誕生から拡散の過程において、心がどう進化してどういう役割を果たかにフォーカスを当てた。心は見えないので、それをどう映像表現するかに苦心している。謎が多くいろいろな視点が取れる。テレビ番組の取材を元にしているのでストーリーもわかりやすい。ただし、予備知識がもうすこし無い人を想定して、人類の系統樹や地理的な説明など、基本的な図が多いと、より多くの人に薦められる。終章で種明かしがあるが第四章が意外だった。
『銃・病原菌・鉄』『Born to run』もそうだが、人類史は、とても興味深いテーマだ。