- Amazon.co.jp ・電子書籍 (202ページ)
感想・レビュー・書評
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愛する人を無残に傷つけ、それでいて自分はのうのうと他の女性と婚姻を上げる
それを悔いるシッダルタがヤショダラとの結婚生活を続けられるわけが無いんだよね。だとしても結婚早々に別れを切り出して、子供すら産んではいけないと詰め寄る姿は自分本位に見えてしまう部分もあるのだけど…
一方でシッダルタが住まうカピラバストウは彼の内面に関係なく危機的状況。近隣のコーサラ国から脅され、バンダカはヤショダラを狙い続ける
その状況はシッダルタに自分の非力を、国の無力を、世の無常を感じさせるものとなる。そこに現れたバラモンの教えはダメ押しと成り、シッダルタに選びようのない道を明白にさせてしまうわけだね
だから多くの人が喜ぶ自分に子供が生まれたというニュースもシッダルタは喜ばない。それどころか、障碍を意味する名前を付けてしまう。
これらの描写からは既にシッダルタにとって現世と自分を結びつける何もかもを邪険に考えているのだと見えてくるね
最早そのような状態だから、修行を重ねある程度の知見を得たバラモンですら、シッダルタと問答しても論破されてしまう。シッダルタは既に生と死の関係について深く考えすぎて、現世に留まりようのない人間に成ってしまった
だからバンダカが向けた刃さえ手掴みできるのだろうね
そんな状態の彼をして、まだ現世との繋がりがあるとすれば、それはヤショダラと彼女が産もうとしている子だけ
ただ、それでさえ、彼の出立を一週間だけ遅らせるものにしかならなかった点には哀しさを覚えてしまう
こうしてシッダルタは生まれ変わったかのように髪を剃り、馬も従者も送り返し、身一つで旅立つことになるわけだね
夜明けの光は確かにシッダルタの旅を祝福しているかのようだけれど、広大な世界にただ一人で踏み出した彼の前途は計り知れないとも感じてしまうね
物語の中心となるシッダルタがこのような調子だから、他に登場する人物達も生きる意味を求め、突き付けられる描写が目立つね
スードラの食い残しなど食べられないと言って殺された商人、自分の苦行を証明するために眼球を焼いたデーパ、獣として生きる苦行を続けるナラダッタ
そしてシッダルタが去った為に彼が持っていた全てを譲り受けたはずのバンダカの末期は正に無常
シャカ族の弱みに付け込んで念願の王位を手に入れた筈の彼はそれこそ世界の全てを手にした筈だった。だというのに即位を祝福する者は居らず、焦がれたヤショダラは自身のものとならない
コーサラ国の侵攻を考えれば、破滅はすぐそこまで迫っているようなもの
望んだ物を手に入れられるはずだったのに、全てを失おうとしている
だからこそ、そんな状況で無理矢理にでも子を残すことを求めた彼の最期の行動が印象深い
これが生に獅噛み付こうとする足掻きなのかと思えてしまう詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
本巻は第二部後半が収録されており、いわゆるシャカ族の王子だったブッダが出家するまでが描かれる、と思いきや最後はバンダカの死で終わる。バンダカはのちにブッダの「敵」となるダイバダッタの父親である事が判明し、手塚がダイバダッタを主役級に据えている事がわかる。
他方、タッタとミゲーラは完全に盗賊になってしまっている。「罪人」として彼らを描く事が追々必然性を帯びてくる事が何となく予測できる。
そしてナラダッタとその弟子デーパも登場する。デーパは未熟で頑固なサモンとして描かれており、これもまたブッダとの対比で描かれるであろう事は想像するに難くない。
第二部は第一部と異なり、完全に登場人物の布石として機能している。(もちろん第一部もそうだが、第一部はそれだけで物語性が高い。) -
嫌われ者のバンダカだが、彼の一生を読んでいたら、とても悲しくなりました
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