年収は「住むところ」で決まる ─ 雇用とイノベーションの都市経済学 [Kindle]
- プレジデント社 (2014年4月23日発売)
- Amazon.co.jp ・電子書籍 (353ページ)
感想・レビュー・書評
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高学歴が集まり、イノベーションが起きる街では高学歴だけでなく、低学歴の収入も上がるという本。様々な研究を元に、なぜこのような現象が起きるのか、都市政策はどうするべきかを解説していく。
基本的には人材のマタイ効果である。優秀な人材は優秀な人材と働きたいので、優秀な人材が多いところにやってくる。そうすると優秀な人材は互いを高め合うので、より優秀になり、金を多く稼ぐようになる。こういった人たちはサービスに金を出すため、サービス業に従事する優秀でない人たちの収入も増加するというわけだ。金を払う客は世界が対象となるが、自分を高めるのは周囲の環境。これが地域間の格差を生み出すのである。
ここまではっきりと認識してはいなかったが、前々から感じていたことではある。特に以前『一兆ドルコーチ』を読んだ時に強く思った。やはり成功するなら周囲の環境が重要である、と。なかなか物理的に離れた人と偶然交流する機会はそうそう無いので。
とはいえ現在はコロナ影響で人と人の距離が開く状況である。これでマシになるかというと、そうは思えない。物理的に離れた人との交流が活発になればいいのだが、実際は単純に交流が減るだけになる気がする。そうすると、世界的にイノベーションが減って終わるだけなのではないかと。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
2014年発売の本ということで若干情勢に変化が見られるものの、興味深い事例が多く最後まで失速せず読み切れた。
主題よりも副題の「雇用とイノベーションの都市経済学」に重きをおいた内容になっている点は個人的に嬉しい誤算。
過去データを基とした説得力のある論調で、アメリカのハイテク産業がもたらした雇用の変容と地域の集積効果について深く語られている。
テック企業が何故シリコンバレーに集うのか?発展都市に住む人々の所得が高い理由は?地域格差を埋めるためのアプローチはあるのか?
これらのテーマに少しでも惹かれるのであれば一読の価値あり。 -
https://jabba.cloud/20170521145320/ より
タイトルにある「年収」について本書ではそこまで言及されていない。単にキャッチーなタイトルを付けただけで、本書の内容を端的に言い表しているのは副題の方。その副題が「雇用とイノベーションの都市経済学」。多くの資料とデータを使って都市経済の移り変わりを説明している。それらは「誰もが知っているけど、その理由がいまいちうまく説明できないこと」だ。
例えば「シリコンバレーはIT産業のメッカのひとつであり、数多くのIT企業がそこに集積していること」これは誰もが知っている事実ではあるが、なぜ特定の地域に同種の業態の会社や人材が集まっているのか、を論理的に説明するのは難しい。
IT産業といえば最もリモートワークに適して産業であり、ソフトウェアエンジニアにいたってはネットさえ繋がればどんな田舎でも働くことが可能だ。実際にそうした働き方を実践している人もいるが、都市単位で見た時にはそれとまったく逆のことが起きている。シリコンバレーやベルリンなどのIT都市に多くのITエンジニアたちが惹きつけられ、人がさらに人を呼びその集積化がより一層高まっている。
これと逆に今までアメリカ国内にあったが国外に流出しているのは工場など。誰もが知るようにiPhoneはDesigned by Apple in Californiaであって、それを作っている工場は中国だからMade in China だ。アメリカやシリコンバレーでは工場で働いていた人の雇用は失われ、その代わりにソフトウェアエンジニアリングやデザインなどの高度人材に対する需要がずっと高まっている。
興味深いのは工場などの生産部門は比較的容易に場所の移転が可能だがイノベーションに関わる部門はほぼ移転が不可能ということ。孤立した環境では革新的なアイデアの実装が不可能であり、そのためにはその企業だけでなく都市単位でのエコシステムが重要になってくる。
都市で働く人材は同じような人材とのつながりを持ち互いの所得を高めてしまう。つまりクリエティブな人達に囲まれていると、自分自身もよりクリエティブになり、生産性が上がる。ハーバード大学は同医学部の研究者たちが発表した医学論文をすべて洗い出し、共同執筆者たちの研究室の間の距離を調べたところ、それが1キロ未満だと、質の高い論文が書かれている傾向にあることが分かった。
またある都市でイノベーション産業の新たな雇用が1つ生まれると、それ以外の業種の雇用が5つ作り出されている。科学者やソフトウェアエンジニアの雇用が増えれば、タクシー運転手、家政婦、ベビーシッター、美容師、医師、弁護士、犬の散歩人、心理療法士など地域のサービス業に対するニーズが高まるからだ、と。
こうして発展する都市はどんどん加速度を高めて発展し、衰退する所はどんどん人材が流出して衰退してしまう。統計上アメリカの都市間の格差はずっと広がっており、格差が収まる気配は一切無い。
住む場所と職場を変えることがどれほど人生に影響するか、に関して私も身をもって実感している。日本→シンガポール→ベルリンへと家族と共に移住を繰り返し、周りの影響を受けて生活が激変し続けている。住む場所や住む国は惰性で決めてしまいがちだが、それはもろに生活に直撃する。
シンガポールから次の移住先を探す際に資料をよく読んで都市ごとの統計を比較した。その時は本書を読む前だったのでベルリンがIT都市として抜き出てきていることと、IT投資額がやけに高いな、と思っただけだった。
ただこうして本書を読んだ後、ITエンジニアとしてのキャリアを考えた際に住むところ選びはとてもとても重要だっだのだな、と思った。
人間は傲慢なので自分の給料が上がった時に「給料が上がった理由?そりゃあ俺様が仕事をがんばったからに決まってるだろ」と思いたい。しかし実際には都市単位で考えて「あなたのがんばりよりも都市の機能として、あんたの住んでいる都市全体の給料が上がる仕組みがあって、そこにたまたま乗ってただけなんですよ」となっている可能性が高い。
「広がってしまった都市と地方の経済格差を埋めなければならない」という、地域格差是正論がある。しかしなぜ地域格差是正しなければならないのか、という疑問に対して誰もが納得できる答えを持っている人は居ない。本書ではただ淡々と事実をもとにその格差の原因を突き止めている。地域格差は歴然とあってそれは今後さらに広がり続ける。
個人的には国境をまたいで様々な国への移住を繰り返すスタイルが好きだが、そんなことを誰かに強要しようなんて思う訳がないし、生まれ故郷を離れずにずっとそこで暮らし続ける人生を否定することもない。どこに住むかはその人次第だが、その「住むとこ」選びにとても参考になる1冊となった。 -
The new geography of the jobs
イノベーションを生むためには適切なエコシステムに身を置く必要があるので、産業が地理的に集積し、それ故に地域ごとの格差が生まれる。
本書では特許取得件数や、労働者に占める大卒者以上の割合などが、イノベーションの度合いの指標となっていた。
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地理的に集積して直接交流することがイノベーションを生むのが真だとして、コロナ禍の今、Slack、LINE や ZOOM、Meet を通じた交流は、その代替になれるのだろうか? -
アメリカの賃金格差は社会階層よりも地理的要因によって決まっている。
同じ人物の年収でもその都市にどれだけ高技能の働き手がいるかによって大きく変わる。
社会的乗数効果:教育・所得が同程度の人でも住む地域の教育・所得の水準によって大きな差が生じる。
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年収の格差がどのように生まれていくのか理解できた。
また、町が栄えたり錆びていく過程も知ることができた
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言っている事は画期的だけど、同じ主張の繰り返しでつまんなかった。
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意外と8年前に出版された本でした。
基本的に国土が広く、大都市を多く有するアメリカの事情を説明した本になりますが、それでもとても面白く読めました。
話の内容としては、以下のようなイメージです。
・今でいうGAFAのようなイノベーションを起こした企業で働く人が街に増えると、その企業に全く関係のない、その地域で働く人(美容師、マッサージ師、歯医者、大工、教師など)の年収も大きく上昇するうえ、雇用も生む
・20世紀は製造業の時代であり、中流層の所得増に大きく貢献した。当時は工場で安定した高賃金の職に就くことを目指していた。21世紀はイノベーションと知識を生み出すことが重視されるようになった
給料は学歴よりも住所で決まる、という裏付けが興味深いです。 -
都市施策のために、基礎的な考えとして良い本でした。
イノベーションの生まれやすい環境は、研究者が◯m以内に居る事、というエビデンスを長年探してたのですがこの本でやっと見つけることが出来ました。
タイトルは大衆誌の見出しみたいで不本意ですが、都市計画、都市運営者として必読とおすすめしたい。 -
ニューヨークの最低賃金は3000円です、というツイートを目にした。でも、ニューヨークではたぶん生活費が3倍なんだろうなと思う。いや、だから東京の生きやすい、とは思わない。ただ、こうした現象を説明するために、この本は役に立つなと思ったのだ。
先進国で製造業は復活しない。生産性の向上により、製造業はどんどん雇用者を必要としなくなっているから。現代において乗数効果があるのはイノベーション産業のほうだ。高い給料をもらう人たちは、レストランでも、美容院でも、ヨガ教室でも、カネを落とす。さらにこうした企業は寄り集まる。人材は似たようなところで融通されるし、企業を飛び出して起業する人もいる。こうした結果、地方都市の大卒者より、サンフランシスコの高卒者のほうが年収が高いということが起こる。まぁ、結局生活にかかるカネもサンフランシスコのほうがダンチだということにはなるのだが。こうやって説明すると「知ってた」という人も多いだろうが、解説がしっかりしているということはよいことだ。