ちょっと古い版で、ざっと見たところ内容的にも一部省略されているようだが、第三版が紙の本しか出てないようなのでKindleで読むのであればこれしかない。
「返報性、一貫性、社会的証明、好意、権威、希少性」という6つの力についても「恩義、整合性、社会的な証拠、好意、権威、希少性」と訳し直されている(「返報性」の方が「恩義」よりはいいと思うが)
中心的なテーマとして、我々が「脳の負担軽減」のために半ば機械的に下している「イエス」という返答のうらに潜む心理学的なバイアスについて書かれている。カーネマンの「ファスト&スロー」がある今となってはやや古くなった観も否めないが、古典的な名著の一つではある。
・洋服屋ではセーターを先に売りたがるがこれは間違い。まず、高いスーツを売る。495ドルのスーツの後なら95ドルのセーターは高く感じない
・恩義
試供品は昔から活用されてきた効果の高い販売方法
「借りがある」という思いがあると、返報性の力は一層増す
。整合性
競馬でかけると、かけた馬が強そうに思えてくる。自分の行なった選択に対して首尾一貫すべしというプレッシャーに対抗するため、自分の決断は正しかったという態度をとる
慈善事業への勧誘の電話の歳、普通に頼むと18%が同意するが、「今日の気分はいかがですか」と最初に聞くと120人中108人が肯定的な答え(元気、問題ない)を返し、そのうち32%が勧誘に同意した。(自分がよい状態にあると認めてしまうと、恵まれない人の力にならないことが気まずく感じられる)
・社会的な証拠
われわれは他人と同じ行動をしていればそれが適切だと思い込みやすい。「自ら何かを創る人は5%で、残りの95%はそれを真似するだけなのですから、相手を言いくるめようと思ったら、何か証拠を提供するより、ほかの人の行動を説明するほうがはるかに効果的です」(カベット・ロバート)
お笑い番組に挿入されている笑い声、チップの箱に入っている紙幣(皆、高額を入れると思わせる)、「売上ナンバーワン」などの宣伝文句(具体的にどこがよいかの説明はいらない。大勢がよいと思っていることが伝わればよい)、店の中には席に余裕があっても行列を作らせる
・好意
相手に似ていることをアピールする。セールルマンはよく服装が同じ、妻の出身地が同じ、趣味が一緒、などアピールする。
・権威
肩書や服装などに従ってしまいやすい
深く考えないまま機械的に従ってしまう。権威からの情報が、ある状況下でどう行動すればいいかを決する便利な近道を教えてくれる
・希少性
これが最後の一品です、などのセールストーク
乳がんのパンフレットでは「毎月一回、たった五分チェックするだけで健康な体が得られる」というよりも、失われるものを強調したほうがよい「毎月一回、たった五分チェックしないせいで健康な体を失うかもしれません」の方が効果がある
最初から希少な場合より、どんどん手にするのが難しくなってくるときのほうが欲望を募らせる結果になりやすい。間食をいつも注意している親のほうが子供にいうことをきかせやすい。その時の気分で注意すると、子供は既に手にした自由を失うように感じ、反抗的になる。
希少性のプレッシャーを知ってもそれに抗うことは難しい。知ることは知性によるもので、希少性を前にした感情の反応に簡単に抑圧されてしまう。
ジョン・スチュアート・ミルはこの世にある、知るべきことをすべて知っていた最後の人物とみなされている。ミルが亡くなった1873年というのじゃ重要な年号。現代社会では全体的な状況を十分に考えて分析するというぜいたくはほとんどでいない。頼りになる特徴一つにしか注意を向けなくなってきている。「イエス」を引き出すプロたちはこれを操作することで我々の判断を間違った方向に導こうとする