異世界迷宮の最深部を目指そう 1 (オーバーラップ文庫) [Kindle]

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  • オーバーラップ
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感想・レビュー・書評

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  • この物語は塗り替えられ続ける名画に似ている。

    日々生み出され続ける傑作に向けられる称賛の裏、質を支えるには量が必要ということもあります。
    ネット発の小説は玉石混淆、揶揄も含まれ、その功罪を現在進行形で問われているわけですが、それを問うのはやめておきましょう。
    本作は最大手WEB小説投稿/閲覧サイト「小説家になろう」発の傑作のひとつです。

    閲覧数を稼ぐための最適化や方法論も多く、それらも流行の波の引き寄せを繰り返しつつ千変万化しているようですが、どちらにせよ一概に語り切れるものではないと断じます。

    また、本作についてはあまり事前知識と先入観を持って挑まない方がいいかもしれません。
    「異世界転移系ファンタジー」などのテンプレートじみたお約束に乗っかっているのも確かですが、本作については別業種からの参入といった味があるのでそちらも踏まえつつ論を進めていきます。

    WEB版未読で、WEB版第六章までの内容に該当する既刊十二巻(2019年10月現在)を読み進めていった印象としてはまず、一定の区切りごとに展開が塗り替わっていく劇的な大転換がウリです。
    幕を閉じて開くたびに、劇のジャンルが変わっていくと言い換えてもいいかもしれません。

    無論、全体を把握されている既読者の方からすると的外れな論に思われるかもしれませんが、あくまで個人の感想と思いご笑納いただきますと幸いです。

    さて、この場合だと最初の三巻が一つの区切りなのですが、この路線で続けても一定の人気は得られそうなのに、読者を振り落とすことも厭わないだろう思い切った舵の取り方に目を見張りました。
    よってか、展開自体は相当ハードです。主人公の成長スピード自体は速く、また相対的に見れば「最強」と言っても差し支えは無い段階に素早く到達するのですが、あまり安心できないシビアな印象もそれを後押ししています。

    ただし、大筋を外すことはありません。
    半ば感傷で出来上がっているこの物語にはそぐわないかもしれません。けれども超説明的なタイトルが担保してくれている通り、この作品の大目標は「異世界にある迷宮の最深部を目指す」ことに他なりません。
    モンスターが跋扈する迷宮(ダンジョン)を攻略しようと、頼れる仲間たちと共にトライ&エラーを繰り返すという大まかなイメージは外していないかと。

    小説ですが、私がこの読書体験として一番近いと思うのは浮世絵などに見られる多色刷り/重ね刷りです。
    段階を踏むたびに全体像が見えてくるんですが、その途中だけでも味があり、ここで止めて楽しむこともできる「止め時」が何度も用意されています。その辺は最初の壁である三巻でお話ししましょう。

    けれど、その先を読みたい、真に完成した「絵」を見てみたいと思わせる訴求力は非常に強いのです。
    また、緩急のメリハリは付けてくれているので気を緩めるべきでフッとゆるめても問題はありません。一方で水面下で不穏な雰囲気が並行もしているので緊張感も持続するのですが。

    なお、作中何度もやってくる大転回についてですが、明確な形で「壁」を意識させられる作中用語が存在します。
    そちらについても続刊のレビューの中で言及しようと思います。

    また、おそらく作者と作画者の連携が最も取れているだろう作品のひとつでしょう。
    徹底的に情景と心情が一致した詩的な描写と疾走感あふれる構文に合わせて、欲しいタイミングで挿画がやってきます。壮麗で時に謎かけすら行ってくる「演出」を意識することはたやすいかと。

    特に表紙からわかるように、個性豊かなヒロインたちが立ち替わり現れつつも主人公はけして外せない存在感を放っています。ヒロインという華のエスコ―ト役として彼は非常に優秀だったりします。
    ヒロインこそ多めなんですが、だからこそのバランス感覚が好きな人にはたまらないかもしれません。

    ジャンル:ファンタジーならではか、幻想的に文体の装飾も行いつつ、説明すべきところは意外と丁寧ですし、流れに乗ってしまえば意外と読みやすい文章です。
    その時々の未開示情報は気になるんですが、その時点で気にしなくても話の大枠を掴むことはけして難しくはありません。傍点の打ち方も親切ですし、注目していけば迷うことはないかと。さしずめガイドラインならぬガイドポイント。

    と、全体の概論というよりも前置きが長くなりました。
    よって、ここで打ち切り、続いてはここ一巻の内容に触れつつ、本作の特色に触れていくことにします。

    主人公は現代日本の一般的と思しき、ゲーム好きの男子高校生「相川渦波(アイカワ・カナミ)」。
    彼が唐突にモンスター跋扈する謎のダンジョンの中で目覚めたところから一巻はスタートします。

    着の身着のまま、出会った冒険者にいきなり裏切られて生死の境をさまよったところを、謎の美少女「ラスティアラ」に助けられるところまでで約50ページ。
    左藤圭右先生が手がけるコミカライズ版一話もここまでを押さえていますが、どちらにしても本作のシビアな世界観をいきなり体験させてくれます。

    ただし、翻訳機能あり、恐慌状態に陥らないように抑制してくれる固有スキルあり。無宿人でもモンスターからのドロップアイテムを換金することで稼げる。
    などと、その手の話の前提は充実しています。なければ即ゲームオーバーになりかねませんから。テンポも損なうので、ゲームを連想させられるタイプの小説では必須と言えるでしょう。

    渦波自身、料理もできるなど多才に分類される主人公であり、頭も相当にいいです。
    本作は基本的には彼の一人称視点から構成されるのですが、ひとつの取っ掛かりからこの世界における常識を探っていき、また推論を打ち立てて立証することで世界の謎をひとつひとつ解き明かしていきます。

    よって、何も知らない読者に視点を提供する上でこの上なしと言えます。
    逆に言えば、ここまでスペックを上げてお膳立てもしておかなければ、ただ一人世界に放り出された孤児が生き延びるのは難しい、そう言い換えることもできるわけですが。

    淀みなく自身の立ち位置を定めていくのであまり気にしませんでしたが、改めて身元請負人のいない「異世界転移」序盤進行の難しさを思い知った気がします。

    ちなみにステータス表記も完備されており、各種能力値や保有スキルが主人公の目から把握可能という形式になっています。
    自他の限界を見極めることで交渉や探索に優位に立つことはもちろん、情報集めのセオリーを踏まえて最適解を踏まえた行動を取ってくれるので、使う人が使えばここまで動けるんだなと感心すること然りだったり。

    詳細の説明は省きますが、空間情報の重要性を(再)認識したいなら読んでおいて損はない作品のひとつかもしれません。
    耐久より避けることを前提、探索中のMP回復手段は無し、掘り出し物を探す楽しみありと、「ゲーム」を思わせると言ってもRPGだけでなく相当に複合的なあるあるネタも盛り込んでいるので、そちら側からの没入も結構利きます。

    また、ステータス等で特徴的なのはHP/MP以外は小数点まで表記される点でしょうか。
    伸び率自体は結構いいんですが、魔力以外は最初一桁を目にすることが多いのでぱっと見のインフレ抑止の観点から考えてもいいアイデアかもしれません。成長とインフレの関係は永遠の課題かもしれませんが、そちらにも次第に向き合っていきます。

    なお、主人公は「帰還」のために全力を尽くし、慎重にダンジョン踏破のための実績を積み上げつつもタイムアタックじみた挑戦を繰り返していくのですが、その動機もまた強固です。  

    そのすべては元の世界に取り残されたであろう妹・陽滝のために。
    その軸にブレが全く生じないのが頼もしいと思ったりもします。序盤から見守っていた読者に安心感を与えてくれるかもしれません、少なくとも私はそうでした。

    反面、先に挙げたように。けして拭いきれない焦燥感が本編の進行の影で走る、そんな感覚を味わえるわけですが。
    「妹のため」とは利他的ではあるけれど、超個人的な動機であることに代わりはないのでその辺の危うさが最初から最後まで主人公に付きまとうのも実は怖いところ。

    そのため、主人公・渦波は善良で良識はあるけれど、誠実であることができません。
    男装(?)の美少女である初めての仲間「ディア」相手に「ジークフリート・ヴィジター」という偽名を通したことを皮切りに、まっすぐでひたむきな彼女相手が純粋な好意を向けてくれているのに、内心の打算を打ち消すことができずに歯噛みします。

    その帰結については、結局は知り得た人たちだけの特権なので私に語る機会はないのですが。少なくとも一巻のレビューであるこの紙面上では。
    けれど、まだこの時点ではこの畳み掛けるような展開も普通に思えるかもしれません。ライトノベルの平均なんて幻想に乗っかったとしても、おそらくは。

    期してか期せずか悲劇の英雄の名を名乗ることになり、また本来の名前もけして平穏を示唆したとは到底言えない主人公・相川渦波。
    あとがきと実際の進行を見て表層だけは理解できましたが、ここからもさらなる苦難の連続になることでしょうね。

    では。一応最後に私なりの言葉で〆させていただきますが、この物語は誠実です。
    この物語は「お約束」、「英雄譚」なにより「様式美」への敬意に満ち溢れています。それはこの物語が初めて世に出たプラットホームにも乗っかるようであり、同時にそれらへの反逆と破格と言える展開にも通じるようですから。

    あるべき理想と真摯に向き合ってくれるからこそ、それらに唾を吐きかけるよりなお辛い経験となるかもしれません。けれど、それらは美しい。その前では苦難も、絶望も取るに足らないと言い切れてしまうのだから不思議なものです。

  • 本気でめちゃくちゃ面白い
    普通に泣けるし、伏線もすごい
    世界で1番好きなラノベ

  • 気付いたら異世界の迷宮に居た.
    しかも他人に対して助けを求めたら囮に使われた.
    なんなんだよふざけんなよ.

    という混乱した少年が
    混乱したまま生きていく.
    迷宮の最深部に達すればなんでも願いが叶うらしい.
    もしかしたら最深部まで行ったら日本に帰れるかも?

    そんな感じで最深部を目指します.

    酒場に出てくる冒険者はマトモな部類なんだけど
    迷宮内で出会う奴らは軒並み屑なのは何故なのか.
    やっぱり浅いところで燻ってる奴らは
    ストレス溜まってるというか
    周囲に迷惑をかけなければ生きていけないんでしょうか.

    彼は最深部まで行けるのか.
    そして混乱は治るのか.

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