登場人物の誰も彼もが魅力的で、ストーリーもとにかく巧み。登場人物達はそれぞれでひとつずつ物語を創る事ができそうな魅力と背景を匂わしている。世間体を保つための生き方を選びながらも飄々と自由を謳歌する千尋の弱さ、賢く器用で簡単に人をやり込められる正午の人間的な未熟さ、強気で何不自由無く自信に満ち溢れている省子の不安定さ。。。ひとりひとりの生き様が丁寧に設定されているように思う。そして登場人物達の繊細な心情が交差しながら動かされるストーリーもただただ巧みで、例えば、凛一のほんとうの幸せを思いながら氷川との距離を縮められるよう苦心してくれた千尋に、恩返しとばかりに父の京都への往訪話しを打ち明けつつ、境遇をまっすぐ受けとめられるまでに成熟した凛一の変化はとてもいじらしかった。共依存ともとれるほど強いつながりを築く凛一と千尋だが、凛一が千尋の発する言葉に至っては全く信頼していない点も、千尋が語る精神を表現するようでおもしろい。そして、冒頭で単なる熱苦しいスポーツマンのような印象だった氷川は、読み進めるほどに清潔感のある野性味というような矛盾した姿を想像させ、なかなかに格好良い色気を想像させる。(始終単なる熱苦しいスポーツマンである内藤は氷川の良い噛ませ犬だ。) 凛くんもこれは惚れるよね。