太陽は動かない [Kindle]

著者 :
  • 幻冬舎
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感想 : 10
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感想・レビュー・書評

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  • 最近、本作のようなスパイ活劇を多く読んでいる。これらの作品は、物語の性質上、現実離れした話が多い。本作も例に漏れない。
    ともすれば、リアリティの欠如を感じることもあるが、そこはフィクションと割り切って読んでいる。現実世界におけるスパイの生活など、そもそも知る由もなく、したがって求めるリアリティも結局自身の想像の域を出ないからである。むしろ思い切って現実から離れたほうが、物語としての没入感は得られるだろう。
    スパイ活劇を読む場合、楽しさは、敵と味方が目まぐるしく入れ替わり、登場人物に対して疑心暗鬼になりながら読むところにあると思っている。味方と思っていた人物に裏切られる意外さ、そして逆もまた然り。このオセロゲームを楽しんでいるかのような感じが、読んでいて面白い。本作のような物語のエンターテイメント性の根源は、ここにあると思う。

    さて、本作では太陽光発電を巡る利権と覇権でのせめぎ合いが物語の軸となる。対立軸もスケールは大きく、国際的、すなわち日本と中国という対立軸になっている。対立するのが中国ということで、当然のごとく米国も隠然と係わりを持ってくる。
    吉川英梨の『十三階の女』シリーズを読んだときと同じく、スパイ活動をする人物がメインキャラクターなので、会話に無駄がない。必要なこと以外は話さない。時には、必要なことさえ、手探りでの情報開示になる。そして、時と場合によってはあえて嘘でミスリードして見せることさえある。
    会話による駆け引きの妙も読みどころだが、それ以上に楽しいのは、やはり主人公たちが危機にさらされ、間一髪のところで命を拾うところだろう。命がけのアクションシーンは、読み手にも力が入る。絶えず話が動き、テキストだけで表現されていた人物が、読み手の中で血の通った命がけのスタントマンのように生命感を帯びる。すると、感情の次元で物語と同化できるような気がする。

    もう一つ読みどころがある。吉田修一という作家ならではだと思うが、冷徹なスパイ活劇を読んでいるにもかかわらず、この物語には「情」があふれている。スパイ物を読んでいたはずだが、時に情にほだされる。このバランスがすばらしい。常に情に流されていては、スパイなど務まろうはずもないけれども、時折見せる「情」が「スパイといえども一人の人間なのだ」と思わせる。
    特に、最後に明かされる主人公たる鷹野の出自や生い立ちを知るにつけ、スパイとしての鷹野のキャラクター造形に対する納得感は高まろうというものである。このようなエピソードにも筆を費やしている分、やや長い物語とはなっているが、単にアクションばかりを繰り広げるスパイ活劇とは一線を画す重層的な物語となっている。

    敵味方が様々に入り乱れ、入れ替わり、騙し合う物語だが、伏線もしっかりしている。物語が破綻するようなことはない。
    読み終えたとき、活劇に没入したがゆえの軽い疲労感を快く感じるとともに、満足感を得ることができた。一言にまとめれば「面白かった」ということになるが、この面白みの多様さを具現化している物語こそ本作ではないだろうか。心躍る読書体験ができるスパイ小説である。

  • AN通信がどうやってエージェントを管理できるのかが曖昧。胸に爆弾て、日本の非政府組織がどんな技術でやってんのかとか、エージェントはどうやって集めて教育訓練してるのかは説明できないから触れてないです。主人公の境遇だけは明らかにされますが。
    映画化しやすいご都合主義で、他国のライバルだけど助けてくれるスパイとかいて、結末は大団円です、安心してください。
    本は分厚いわりにそこまで内容は濃くないですので、時間に余裕のある人むけ

  • めちゃ面白かった。

  • 文字だと痛々しい描写がより強まるなあ

  • 吉田修一らしくない内容、この手のスパイものは他の作者の方がリアリティがあり、面白い作品はあると思う。
    登場人物の心理描写はさすがです。
    吉田修一じゃなければ、面白くないかも。

  • 2020年からの年越し。多分前にも読んでるのを感じながら読んだ。

    吉田修一ならではの登場人物の描き分けが、産業スパイという設定でテンポ良く進む。海外旅行が出来ない今、色んな場所が出てくるのが一段と楽しかった。

    次は、まだ読んでないはずの3作目のウォーターゲームを読む。映像化されたらしいので、いつか配信されたら見てみたい。

  • 2012年刊行。エネルギー開発をめぐる産業スパイもの。
    産業スパイ組織「AN通信」の鷹野は、ある射殺事件の背後関係を探っていた。目的は機密情報をいち早く入手し高値で売り飛ばすこと。

    中国、政治家、学者などを巻き込んで繰り広げられる命がけの攻防戦。
    面白かった。

  • 2016/10/19 幻冬舎ミステリーフェアで¥832を¥474でDL購入。

  • 産業スパイとして生きる鷹野。
    エネルギー開発をめぐる策謀から、日本の未来を救うことができるのか。
    世界、いや、宇宙規模のハードボイルドな物語でした。

    文字から迫ってくる
    アジアの喧騒、アクションシーン、
    映画を観ているような高揚感が止まらなかった〜。

    冷淡な世界を生きながらも、
    人間くさい、愛すべきスパイ達に魅了された一冊。

  • 読むの2回目だけど、面白かった。
    今現在は、太陽光発電の発電効率低すぎる!

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著者プロフィール

1968年長崎県生まれ。法政大学経営学部卒業。1997年『最後の息子』で「文學界新人賞」を受賞し、デビュー。2002年『パーク・ライフ』で「芥川賞」を受賞。07年『悪人』で「毎日出版文化賞」、10年『横道世之介』で「柴田錬三郎」、19年『国宝』で「芸術選奨文部科学大臣賞」「中央公論文芸賞」を受賞する。その他著書に、『パレード』『悪人』『さよなら渓谷』『路』『怒り』『森は知っている』『太陽は動かない』『湖の女たち』等がある。

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