水の柩 (講談社文庫) [Kindle]

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  • いじめられ続け、自殺を決意した同級生の少女(敦子)、唯一の友人を事故で死なせてしまった悲惨な過去を秘めた祖母(いく)。心に深い傷を負った2人の女性を救うため、心優しい旅館の息子(逸夫)が一肌脱いだ、そして自らも大きく成長した、というお話。

    本作、読んでいてどうもしっくり来ず、消化不良のうちに読み終わってしまった。自分にとっての疑問点・納得し難い点を幾つか挙げてみたい。

    逸夫は、敦子から、夜中にこっそりタイムカプセルを掘り返すのに手を貸して欲しい、と依頼されるのだが、何でこんな意味不明な冒険に手を貸すことにしたのかな? 平穏な日常に飽いたため?、それとも敦子に好奇心やそれ以上の感情を抱いたため? 結局、ラストまで恋愛感情は描かれなかったが…。

    敦子が小6の時にタイムカプセルに入れたメッセージは、いじめっ子達に向けられた恨み辛みだった。それを、偽りの良い思い出に差し替えて「あたし、自分でつくった思い出の中で、生きてくことにしたの」って何? タイムカプセルは20年間誰の目にも触れることなく封印されるのだから、慌てて差し替える意味はないんだけど(逸夫がこんな理由に納得するなんて!)。結局、敦子の本心は「あの人たちに殺されるのが厭だった」、すなわち、自殺前に自殺といじめの因果関係を絶ちきっておきたかったということなのだが、これとてかなり変。加害者には同級生を死に追いやった重荷を背負って一生苦しめ、というのがごく普通の感情のように思うのだが。

    逸夫は、敦子から本心を何も告げられなかったにも関わらず、タイムカプセルを徹夜で掘り出した後不安が募り、敦子の家を訪ねて妹(史)から "ガム" という単語を聞き出して敦子がダムから身を投げるつもりだと悟った、というだけでも凄い推理力なのに、その足でダムに急行して危機一髪敦子を救出してしまうってさすがに出来すぎだろう。

    文化祭の出し物(お化け屋敷)で使った人形三体に(逸夫、敦子、いく)それぞれの服を着せてをダム湖に投げ捨てることで、心の傷を捨てさせるっていうアイデア、心理カウンセラーならともかく人生経験の浅い中学生が思いつくことじゃないよな。

    吹っ切れた後の敦子のいじめっ子達への対処(学校側に問題化させないように、いじめはなかったと言い張る対応)にも納得し難かった。ここは信賞必罰で行きましょうよ!


    物語の舞台をマイナーな温泉街とその上流にあるダムとし、ダムの底にはいくがかつて暮らした寒村が今も沈んでいる、という設定自体はなかなか秀逸だった。

  • 古い旅館の息子である中学生の逸夫は何事においても普通の人でそれをもどかしく思っていた。小学生の頃に街に引っ越してきた日に逸夫の家の旅館に1泊だけした敦子の家は父親不在で貧しく,そのせいか学校で密かにいじめを受けている。逸夫の祖母は元々裕福な家のお嬢さんでそれが嫌で家を飛び出して,今の旅館に仲居として勤め,旅館の主人であった逸夫の祖父と結婚したということになっていた。ある日逸夫は,祖母と父が話しているのを立ち聞きしてしまい,祖母が長年隠していた秘密を知ってしまう。どうも孫に知られたことに気付いているようで以来祖母はすっかり気力が抜けたようになってしまった。敦子の方は中学生になっても相変わらずいじめが続いていて,遂には自殺を考えるようになる。

    こういういじめが出てくる話はどうにも嫌だ。いじめは激しく卑劣な行為であり何の言い訳も成り立たない犯罪行為である。なかなか実態や証拠が掴めず,正式に裁かれないことも多いのだろうが,せめて天罰くらいは当たって欲しい。
    加害者が卑劣な人間であるだけに,いじめからどう救うかというのは極めて難しい問題であり,フィクションである小説としても安易な解決策を提示するわけにも行かないのだろうが,結局,被害者はSOSのメッセージを発信しないといけないということなのだろう。それに誰が気がついてくれるかはわからないが,発信しなければ誰にも届かない。気付いた人が直接助けることはできなくても,状況を理解してくれている人がいるということは,支えにはなるかも知れない。
    作中に登場する志野川というのは架空の設定なのだろうけど,ループ橋の正面にダムがある風景というと,秩父の滝沢ダムが思い浮かぶ。堤高132メートルの巨大なダムなので,飛び降りるとしたらとんでもないことになると思ったが,ダム湖側なのか。いずれにしてもダムで飛び込んだり物を投げ入れたりするのは色んな意味でやめて欲しいな。
    逸夫の祖母が話した,ミノムシは本当は蓑の中にいる黒い芋虫なのに人は蓑を観てミノムシだと思う。人も同じことだ,というのが印象的だった。

著者プロフィール

1975年生まれ。2004年『背の眼』で「ホラーサスペンス大賞特別賞」を受賞し、作家デビュー。同年刊行の『向日葵の咲かない夏』が100万部超えのベストセラーとなる。07年『シャドウ』で「本格ミステリー大賞」、09年『カラスの親指』で「日本推理作家協会賞」、10年『龍神の雨』で「大藪春彦賞」、同年『光媒の花』で「山本周五郎賞」を受賞する。11年『月と蟹』が、史上初の5連続候補を経ての「直木賞」を受賞した。その他著書に、『鬼の跫音』『球体の蛇』『スタフ』『サーモン・キャッチャー the Novel』『満月の泥枕』『風神の手』『N』『カエルの小指』『いけない』『きこえる』等がある。

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