ふたりの証拠 [Kindle]

  • 早川書房
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感想・レビュー・書評

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  • 表現手法は所謂「普通の小説」に似たものになっている。悪童日記の1人称視点での語りに惹かれて本書を読んだ場合、期待していたものとは違う作品だと感じるかもしれない。しかし、感情表現や修飾がなく簡潔に進んでいく語り口から、悪童日記の続編であると感じると同時に、作中の世界が持つ独特の重苦しさ、残酷さ、美しさをまた味わうことができる。

    ネタバレになるため詳しくは書かないが、作品の冒頭から読後まで常に”疑念”を抱かせる内容である。マーダーミステリーのような、暗い謎がいつ明かされるのかという緊張感と期待感を持ちながらも、謎のまま明かさないでくれと願いながら読んでいた。物語が進めば進むほどに、出てくるのは絶望であり、特にマイノリティーとされる人々の生きること、他人と関わることの難しさ、そして世の中の残酷さであった。それは、最後の謎が解き明かされる?時まで変わらない。

    作品のもう1つの主題は「愛」である。様々な愛の形が生まれ、失われていく過程が、真っ直ぐに、叙情的な表現なしに描かれる。本作の世界は、1つの愛が永遠に続くほど、優しいものではないのだろう。
    ただ、現代社会よりも隣人愛や家族以外への愛は多く育まれているような気がして、果たして今の社会は昔と比してどのくらい残酷なのだろうか、という気持ちにもなった。

著者プロフィール

1935年オーストリアとの国境に近い、ハンガリーの村に生まれる。1956年ハンガリー動乱の折、乳飲み子を抱いて夫と共に祖国を脱出、難民としてスイスに亡命する。スイスのヌーシャテル州(フランス語圏)に定住し、時計工場で働きながらフランス語を習得する。みずから持ち込んだ原稿がパリの大手出版社スイユで歓迎され、1986年『悪童日記』でデビュー。意外性のある独創的な傑作だと一躍脚光を浴び、40以上の言語に訳されて世界的大ベストセラーとなった。つづく『ふたりの証拠』『第三の嘘』で三部作を完結させる。作品は他に『昨日』、戯曲集『怪物』『伝染病』『どちらでもいい』など。2011年没。

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