ピクサー流 創造するちから [Kindle]

  • ダイヤモンド社
4.54
  • (24)
  • (13)
  • (1)
  • (1)
  • (0)
本棚登録 : 243
感想 : 13
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・電子書籍 (427ページ)

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • こういう会社を生み出せるのが、アメリカの底力を感じる点だ。日本ではなぜこれを真似できないのだろうか。
    ピクサーの長編映画は、第1作の「トイ・ストーリー」から観ているから、かれこれ30年という年月が経つのか。
    当時、全編フルCGのアニメーション映画ということで話題になっていたのを思い出す。
    本編を映画館で鑑賞しながら「今後、映画制作ってどうなっていくのだろう」なんて漠然と思っていたものだった。
    本書はピクサーCEOのエド・キャットムル氏が記したものであるが、てっきりピクサー社の歴史に関する書籍かと思っていた。
    その期待が裏切られる訳であるが、本書内で語られる氏の考えは、本当に深い。
    2014年という10年以上前に書かれた著作でありながら、そんなことを考えていたのかと感動してしまう。
    もちろん、記したのが2014年であって、第1作「トイ・ストーリー」を制作していた時よりも以前からの考え方・価値観だと思うと、余計に重みが増してくる。
    要は内容の7〜8割が組織論・人材開発論に関することだったのだ。
    それも普通の会社の組織論ではない。
    クリエイティブを生み出すための組織論についてここまで語っている点で、他と完全に一線を画している。
    映画が商業利用されるようになって、ゆうに百数十年が経過している。
    世界中で何本の映画が製作され、上映されたのだろうか。
    数えきれない数の映画が生まれ、その中で技術は日々進歩を繰り返し、発展をしてきたはずである。
    それなのになぜ、今現在でも「最高に面白い映画」を継続的に作るのは難しいのか。
    普通の製品であれば、技術が向上していくのに合わせて品質も向上していく。
    当然顧客の満足度も上がっていくはずだ。
    しかし映画については、この21世紀の現代ですら「駄作」と言われる作品が悲しいかな生み出されてしまう。
    逆に「過去のすべての映画を超えた」という作品が毎回出てきてもよさそうなのに、これがなかなか生まれない。
    これには「映画は工業製品でなく、芸術であるから当たり前じゃないか」という意見が出てきそうだ。
    確かにその通りで、芸術的な側面は間違いなくある。
    しかしながら、ビジネスである以上、投資した製作費以上の収益を生まなければ、会社として継続することは適わないのである。
    儲けなければ、企業は倒産してしまう訳なので、必ず利益を出さなければいけないという呪縛につきまとわれるのだ。
    それでは利益さえ出せればよいかというと、そういうことでは決してない。
    映画としての品質も当然に追い求めなければいけない。
    これをどうやって実現させるのか。
    継続的に高品質の作品を生み出していくためにはどうすればいいのか。
    当たり前であるが、結局は働く社員がものすごく重要だということである。
    日本企業でも「人材ではなくて人財」と述べる経営者がいたり、昨今では「人的資本経営」なんて言葉も使われている。
    要はピクサーに関しては、創業時から一貫して、社員が働きたくなる人事制度や、人材育成の仕組み、職場環境の改善に取り組んできた。
    それもこれも、すべては高品質な映画を制作をするためのものだ。
    出来上がったラッシュについて、よりよくするための意見を誰でも言えるという環境。
    もし「監督が絶対」という文化が根付いていたら、下っ端が意見を言うなんてあり得ない。
    今でこそ「心理的安全性」という言葉が一般的になったが、すごいのは、これを徹底していることである。
    本書の中で例があったが、作品を制作する設計図とも言える「シナリオ作成」にもここまでこだわるのかと、関心してしまった。
    ピクサーは常に資金難で、身売り先が決まらずに、結果スティーブ・ジョブズ氏が買収した訳であったが、そのエピソードも胸が熱くなる。
    買収資金だけでなく、ピクサーの運転資金すらも出して、会社を財務面で支え続けたのはジョブズ氏であった。
    なぜ彼はピクサーを手放さなかったのか?
    そして、なぜ彼は映画制作のクリエイティブには一切口出ししなかったのか?
    スティーブ・ジョブズというと、カリスマ経営者でわがままで、自分の思い通りにいくまで相手を引っ搔き回すイメージだが、本書を読んでいると、そういう一面がほとんど出てこない。
    印象的だったのは、ピクサーの映画がヒットし、本社ビルを建てる時の話である。
    結局スティーブ・ジョブズ氏がこだわりの設計をしたとのことで、何よりも「クリエイターの交流」を大事に設計したらしい。
    トイレの位置や数までこだわって、働く様々な人がコラボレーションしやすいことを考えたとのこと。
    Apple社では、自身のデザインのこだわりを製品にも押し付け、「こうしろ」と命令することも少なくなかったそうだ。
    つまり、チームワークと対極にあるようなトップダウンでの仕事の仕方に慣れているはずであるにも関わらず、ピクサーの中ではチームでの仕事を何よりも大切にしていた。
    今でもジョブズ氏が設計したその本社ビルは「スティーブ・ジョブズ・ビルディング」と命名されて存在しているらしい。
    ジョブズ氏は、人と人が交わって真剣に意見交換することこそが、クリエイティブな発想を生み出すと真剣に考えていたようだ。
    もちろんそんなの当然だと、口で言う経営者もいるだろう。
    しかしオフィスビルまで自分でデザインし、本気でそういう環境作りに取り組もうとする経営者が果たして日本にいるだろうか。
    クリエイティブな人たちというのは、管理をすればするほど、良いものを生み出せないものだ。
    しかし、野放図に好きなことをやらせても、これもまた良いものを生み出せない。
    どうやって彼らに刺激的な環境を与え、極力管理をしていないように感じさせながら、予算や納期に間に合うように最高の作品を制作させるのか。
    つまり、最高の作品を生み出すのは、一人の天才の力でも、努力と根性でもない。
    そのクリエイティブチームの中に、どういう仕組みを入れていくのか。
    そしてどうやってその仕組みを運用していくのか、ということなのだ。
    ピクサーの超有名な監督としてジョン・ラセター氏がいるが、結局彼一人がピクサーのすべての作品を生み出していた訳ではない。
    ラセター氏が作品に対して意見を言うこともあったと思うが、これだけのヒット作を次々と生み出せたのは、次世代のクリエイターをきちんと育成できていたからだ。
    作品作りのクリエイティブな環境を整えるだけではなく、教育システムまでも整えているところがアメリカらしい点か。
    ディズニーですら栄華を誇っては低迷し、次世代のクリエイターの育成には苦労をしていた。
    他の映画スタジオだって、有名プロデューサーをヘッドハントしたところで、次のヒット作を必ず生み出せるのかは、結局分からない。
    これだけピクサーというスタジオから、継続的にヒット作を生み出せるというのは、本当にすごいことなのだと思うのだ。
    クリエイティブな環境と、働く人の思考が、すでに「文化」として完全に根付いたということか。
    こう見てみると、日本のエンタメ企業で、ピクサーのようなハイクオリティのヒット作を出し続けられる会社が果たして存在するのだろうかと思ってしまう。
    これからの未来社会では、日常はリアルとバーチャルが境目なく融合し、その世界観の中ではほとんどのことが「エンタメ化」していくのだろうと思う。
    今でも「企業の工場見学」なども、昔ながらの汚くて危ない工場を見て回るものなんてほとんどない。
    工場見学なのにショーを見るかのようにエンタメ化されて、訪れる人たちを楽しませる。
    その企業のファンになってもらって、回りまわって製品を購入してもらう。
    よく言われていることであるが、今はモノ消費ではなく、コト消費になっている。
    さらに言うと、未来はヒト消費になり、ドコ消費にもなっている。
    製品の品質が高いから顧客が購入する訳ではなく、その裏側にあるストーリーに共感したり、自分がどう感じるかという体験を重視してお金を払うということだ。
    そして、誰から買うかが重要であり、そのためには場所の移動すら厭わない。
    そんな状態がこれからの消費活動である訳だが、これが益々リアルバーチャル融合でもっと訳分からなくなっていく。
    どう考えても、あらゆる消費活動がエンタメ化していくことは必須である。
    病院で病気を治療するのもエンタメ化していくかもしれない。
    学校での授業こそ、エンタメ化が必要なはずだ。
    会社での仕事も、つまらないことを我慢して働くことはなくなるだろう。
    会社に行くことがエンタメで、楽しむために仕事をするようになっていくはずだ。
    そんなことを考えていると、どう考えてもピクサーは先進的な企業と言える。
    数十年前からそんなことを当たり前に実践している会社というのは、メチャクチャ強い。
    もし今でも劣悪な環境で働くのが当たり前で、我慢することで良い作品を生み出せると勘違いしている人がいたとしたら、今すぐ改めるべきだ。
    やはり我々はもっともっと学ばなければいけないのだと思う。
    本当に良い書籍に出会えた。
    特に今は人事部門に身を置くから、感じ入る部分も多いのだが、今後役立てていきたい。
    ちなみにピクサーに関しては、次の書籍もお薦めである。
    ローレンス・レビー著「PIXAR~世界一のアニメーション企業の今まで語られなかったお金の話」(https://www.amazon.co.jp/dp/4866511133
    ロバート・アイガー著「ディズニーCEOが実践する10の原則」(https://www.amazon.co.jp/dp/415209933X
    創造的組織をどう作り上げるか、文化としてどう根付かせるか。本気で参考にしたいと思う。
    (2024/4/4木)

  • ピクサーの創設者、エドウィンキャットムル氏の経営術

    クリエイティブとビジネスの両立、いいアイデアを生み出す環境作り、日本のある企業から学んだ経営方針など、興味深いことがたくさん載っていた!

  • なんで今まで読んでいなかったんだろう。

    ビジネス書というより、感動的なノンフィクションの物語だった。
    何かを学びたいという姿勢で読むのは違う気がする。

    途中読むのがめんどくさい箇所もあるが、そこは飛ばして読んでしまっていいと思う。
    ただ、本当に素晴らしいエピソードが多く、特にスティーブ・ジョブズの持つ愛や誠実さのところは何度も読み返した。
    涙せずには読めなかった。

    ピクサーの作る映画についての印象も大幅に変わった。
    素晴らしい才能と努力によって作り上げられたものだということがわかった。

    とりあえず、本書に出てきた作品は全部観る
    そして、これからも新しい作品を観ようと思う。

  • スティーブジョブズを一番近くで見ていた一人のよる、スティーブジョブズについての回想の章は泣けてくる。何の保証も実績もないピクサーの将来を信じた先見の明。クリエイティブに生きるとはこういうことかと。情熱と品質というキーワードを覚えておきたい。

  • ディズニーに吸収されたPixar。しかし実は今のディズニーアニメのヒット作はこのPixerが担っている。某TV局でもジョン・ラセターを追っかけてPixarの秘密ってのを番組にしていたけれど、それと重なるところが多い。
    Pixerがなにゆえここまで良質なアニメーションを生産できているのか、創造性豊かな組織はどうやったらできるのか…。Pixarの経験を元に、ビジネス書と言ってもいいが、とてもわかりやすく書かれている。
    また、Pixarを買ったあのスティーブ・ジョブズにつてもかなりのページ数に渡り触れられている。一般的には畏怖されているスティーブ・ジョブズについてのイメージとはまた違った成長し、円熟して行くジョブスの姿も描かれているのがいい。
    2014年最後をしめくくるにふさわしい良書であった。

  • 読了に時間がかかったが、とても濃厚で学び多い。
    “アイデアより人が大事。早いうちに失敗せよ。新しく産まれるものを守る”… それにしても、皆の例え話が秀逸。ストーリーテラー揃いのピクサーならではか。 終章のエドが語る多面的なジョブズ像がまた良い。

Ed Catmullの作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×