切り裂きジャックの告白 刑事犬養隼人 「刑事犬養隼人」シリーズ (角川文庫) [Kindle]

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  • 本作は中山七里の<犬養隼人シリーズ>というシリーズ物の一作である。本シリーズの第一作目であるらしい。これを手にしたのは、Amazonでタイムセールの対象となっていたため、いずれ読もうとは思っていたが急遽購入した。こんなことが、とある一冊の本との出会いとなることもある。

    本作では、臓器移植という重いテーマが通奏低音となる。物語が始まるや否や、すべての内臓が抉り取られた死体が発見される。川を挟んで警察署の目の前にある公園で、とても素人技とは思えない鮮やかな手さばきで、被害者のあらゆる内臓はきれいに抜き取られていた。
    この段階ではまだ臓器移植というテーマは完全に後景化されており、一見して猟奇殺人事件としか思われない。読者の多くも、そのイメージに誘われるだろう。
    だが平成の切り裂きジャックを自称した犯人は、マスコミや警視庁を手玉に取り、二人目そして三人目に手をかける。同時に臓器移植や脳死問題が、捜査過程が描かれる中で前景に表出してくる。捜査が進むにつれ、少しずつ犯人像は明らかになってゆくが、あと少しのところで同じドナーから臓器提供を受けた患者がジャックの手にかかる。残された患者はあと一人。絶対にジャックから守らねばならないという使命感と同時に、何としても最後の患者に接触するであろうジャックを確保しなければならない警視庁の刑事たちの焦燥は読みどころだろう。

    ミステリー小説としては、警察と自ら「切り裂きジャック」を名乗る犯人との息も詰まるような攻防が楽しめる。同時に、臓器移植手術という制度、ひいては「脳死」という概念に対して我が国が抱える問題点が浮き彫りにされる。著者の問題意識は、物語の中に散りばめられている。諸外国と同様、日本も法治国家を標榜しているが、それを支える法自体が利権が優先し、拙速な議論で作られているために、十分機能しないばかりか余計な軋轢をも呼んでしまうことがよくわかる。
    幸運にも臓器移植を受けられた患者が継続的に受ける苦痛も余すところなく描かれている。
    「脳死」という、いわば完全に「死」に至っていない段階についても、著者は筆を割いている。脳死患者から臓器を摘出する際に、患者には麻酔がかけられる。概念的には死んでいるはずの患者に、麻酔をかけなければならない矛盾。臓器移植にまつわるこうした矛盾を、著者は曖昧にしない。
    ゆえに、読者は一流のミステリーを楽しみながら、臓器移植や脳死といった制度の是非について思いを巡らすことになるだろう。現在に至るまで、日本の政治家が常に利権を優先し、自分とその周辺にのみ利益誘導を図った結果、さまざまな制度設計の欠陥が浮き彫りになる様を、この物語は臓器移植という側面から浮き彫りにする。

    物語の雰囲気は「社会派」というと大げさに聞こえてしまう気もする。だが、日本社会に巣食う病巣を明らかにするという意味では、社会派ミステリーに数えられるのではないだろうか。
    本シリーズには、映画にもなった『ドクター・デスの遺産』もその名を連ねる。それぞれに扱うテーマは異なるものの、社会問題となるようなテーマを扱う医療ミステリーという位置づけになるようである。個人的には嗜好のベクトルが一致する。中山七里氏の手になる極上のミステリー小説でもあり、このシリーズは引き続き読んでみたいと思う。

  • 犬養刑事シリーズの第1作。
    他シリーズでお馴染みの古手川刑事や光崎教授なども登場し、中山七里ワールドが展開されるのが楽しい。犬養を育てた(?)毒島は残念ながら出てこない。
    本作は臓器移植の問題を取り上げており、その賛否論も興味深いが、早くiPS細胞による移植が実用化されないかな~と思いながら読んでいた。

  • 臓器をすべてくり抜かれた若い女性の死体が発見されテレビ局にジャックと名乗る犯人から犯行声明文が送りつけられる。
    1888年に起きた切り裂きジャック事件の模倣かと思いきや、事件の様相は思わぬ方向へ…。
    さらに終盤に事件が解決するかと思っていたら、どんでん返しもあって面白かった。
    犬養刑事のシリーズは初めて読んだけれど、他の作品も読んでみたいです。

  • 何だか難しそうな気がしていたが、意外とすんなり読めた。刑事2人のキャラが良い。内容も興味深い。臓器移植の問題が多いことを知った。

  • 脳死、臓器移植がテーマの警察×医療ミステリ。
    現在映画公開されている「ドクター・デスの遺産」と同じ<刑事犬養隼人シリーズ一作目>ということで、図書館で借りて読んでみた。


    脳死や臓器移植について、賛成派、反対派などかなり切り込んだ意見描写もあり、しっかりとした社会派ミステリとなっている。

    最終的に捕まえることができた犯人の動機が、あ、そっちなのね、という感じはあったものの、ウルっときてしまったラストまで飽きることなく読ませてくれた。

    なかでも個人的に興味をもって読めたのが、主人公の犬養隼人刑事とバディを組む若手刑事の「古手川」刑事くん。

    まだまだ若手なのに刑事としての視野っていうのかな、考え方、行動がけっこう納得できて、このキャラクターをもっと読んでみたいと思った。

    ちょっと調べたところ古手川くんは埼玉県警捜査一課配属で、かなり多くの作品に登場するそうな。

    初登場は「カエル男」。
    本書で本人の口から語られるかなりグロテスクな経験で深い傷を心に負ったというのは、きっとこの初登場のときですね。

    「カエル男」はたしか小栗旬ちゃん主演で映画になり、今もアマプラで見られるんじゃなかったかな。

    そちらの評判はあまり芳しそうではないので私は未聴ですが、フレッシュ(に違いない)古手川くん会いたさに、次はさっそくその“初登場”作品を読んでみようと思っています。


    ◆参考◆
    中山七里ワールド、たくさんあるシリーズの登場人物とリンクしている作品
    https://ak0507.com/nakayamashichiri/nakayamashichiri-character-link/


    ====データベース=======
    東京都内の公園で臓器をすべてくり抜かれた若い女性の死体が発見された。
    やがてテレビ局に“ジャック”と名乗る犯人から声明文が送りつけられる。
    その直後、今度は川越で会社帰りのOLが同じ手口で殺害された。
    被害者2人に接点は見当たらない。
    怨恨か、無差別殺人か。
    捜査一課のエース犬養刑事が捜査を進めると、被害者の共通点としてある人物の名前が浮上した―。
    ジャックと警察の息もつかせぬ熾烈な攻防がはじまる!

  • 最初に捕まった犯人も意外な人物だったが,さらにどんでん返し。犯行の動機が歪んだ関係性によるものという気もするが,面白かった。

  • 2回目の読了。この作者の作品は読んだ限りどれも好み。特に本作は二転三転があって面白い。

  • 最後にえいやってひっくり返された。
    絶対、外科医が犯人だと思ったのに!!笑

    臓器移植の倫理観が問われる作品。もちろん、ミステリーとして娯楽小説には変わらないんだけど、本当に考えさせられた。
    まだあたたかい家族が手術室から戻ってきた時には冷たくなって帰ってくる的な描写はぐさっとくるものがある。

    麻酔科医が麻酔薬を間違えて臓器障害が起こるかもしれないから、殺人を犯すってのは、わーおってかんじ

  • 2023.03.19
    気持ち的には⭐︎もうひとつつけたい。
    どんどん読み進めたくなったので。

  • 久々に小説読んだけど最後まであっという間に読み終えた!面白かった
    全く犯人が分からず、世界観に引き込まれすぎてラストらへんのシーンでは心臓バクバクしてた笑
    臓器移植についてちゃんと考えたことなかったがもし自分がその立場になったらとか色々考えさせられた。

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著者プロフィール

1961年岐阜県生まれ。『さよならドビュッシー』で第8回「このミステリーがすごい!」大賞を受賞し、2010年にデビュー。2011年刊行の『贖罪の奏鳴曲(ルビ:ソナタ)』が各誌紙で話題になる。本作は『贖罪の奏鳴曲(ソナタ)』『追憶の夜想曲(ノクターン)』『恩讐の鎮魂曲(レクイエム)』『悪徳の輪舞曲(ロンド)』から続く「御子柴弁護士」シリーズの第5作目。本シリーズは「悪魔の弁護人・御子柴礼司~贖罪の奏鳴曲~(ソナタ)」としてドラマ化。他著に『銀齢探偵社 静おばあちゃんと要介護探偵2』『能面検事の奮迅』『鑑定人 氏家京太郎』『人面島』『棘の家』『ヒポクラテスの悔恨』『嗤う淑女二人』『作家刑事毒島の嘲笑』『護られなかった者たちへ』など多数ある。


「2023年 『復讐の協奏曲』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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