順列都市〔上〕 [Kindle]

  • 早川書房
3.94
  • (10)
  • (12)
  • (10)
  • (1)
  • (0)
本棚登録 : 215
感想 : 11
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・電子書籍 (268ページ)

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 計算機にコピーした人格を分散コンピューティング。計算リソースを地理的だけでなく時系列を分散しても、コピーされた意識の同一性が保たれるかの実験。肝心の塵理論のところは、議論が飛躍しているような印象を受けてスッキリしなかった。コピーされた人格がその時々の感情のスナップショットを撮るところが良い。感情も計算結果の一部に過ぎないので、写真のように記録を残すことができるのか。

  • 記憶や人格情報をスキャンして自分の「コピー」をPCにダウンロードできるようになった時代。

    冒頭で主人公ポールが目覚め、自分がコピーであることに気付き、もう二度と美しいリアルな世界に存在できないことに絶望するところから始まる。
    オリジナルの自分により、コピーのポールはデータ描写間隔時間を長く(1分に1回データ描写など)されたり、データを入れ替えられたりする実験が行われた。どんなにオリジナル側からランダムなデータにされても、コピーのポールの認識は連続性と整合性を保ち続けた。その強烈な体験から、コピーのポールは「自己完結した空間で、最低1人以上の観測者(意識)がいれば、カオスから秩序が生まれる」という、後に「塵理論」とよばれる知見を見出す。マクロ的には秩序だっていても、量子レベルで見ればランダムな現実空間の宇宙も、実は我々が観測者として1つのパターンを形成しているだけで、他の観測者がいない(別の並行世界が存在しない)とどうして断言できる?

    上巻では電脳空間で自分がスキャン直後に「コピー」として目覚めたら発狂するかもしれない、とリアルに感じさせられた。所詮コピーの自分はPC上で走査するデータでしかないので、お金がないと早く丁寧なデータ処理をしてもらえない(現実空間との自分の意識の時間ずれが大きくなる。例えば自分の意識では1秒でも、現実空間では1年経過など)

    何度読んでも理解しきれない部分が多いので、また再読したい!読み応え抜群だった!

  • 人に肉体的な死が訪れる前に記憶をデータ化しておくというのが基本の流れ。興味深いのは、「データの数や構成が人間の記憶を司るのではなく、環境に対する感情のデータ化が<個性>を維持する手立てだ」ということだ。作品のなかでは次のように書かれている。
    「ポールにアイデンティティを感じさせるのはなんだろう? それは連続性であり、整合性だ。思考が一貫したパターンで継続すること。ではその一貫性はなにに由来するのか? 人間の場合、あるいは通常の方式で走っている<コピー>の場合、脳またはコンピュータの物理的プロセスとは、すわり、ある瞬間の精神状態が、それにつづく精神状態に直接影響することだ。連続性は、単なる因果関係の問題である。時間Aに考えたことが時間Bに考えたことに影響し、それが時間Cに考えたことに影響し…」
    著者はいかにこのテーマに説得力を発揮することができるか、ということが、本書の価値を決める。
    これはイーガンの初期作品だ。展開はあちこちに飛ぶのでそこをしっかり抑えておけるかどうかが読後感に大きな開きを招くだろう。中期から後期作品に宿る大きな仕掛けはないが、<塵理論>は小粋で楽しい。加えて物語の展開もまた小気味よい。
    蛇足だが、この本を楽しみたい人は最初の半分を我慢して読むこと。後半はサスペンス的なものが加わり次第に興に乗るようになるはずだ。

  •  登場人物がコロコロ変わるし,時系列で進まないし,生化学の知識が要求される分子レベルの話が延々と続いたり,ミランコビッチや氷期・間氷期など地球科学の知識がサラリと取り入れられていたりして,難解だと思う。理系の素養がない人ほど詳細な理解が難しいのではないか。しかしその辺はそこそこに読み飛ばして行けば,それらのベースの上に後半は徐々に物語が現れて面白くなっていく感じ。評判の良いSFなので,下巻の展開に期待したい。

  •  登場人物が多いうえに生体とコピーがいるせいで頭がごちゃごちゃしすぎた。登場人物名をメモしながら読むべきだった……。
     正確な物事の流れはもはやわからないけれど、世界観はとても面白かった。永久に続く世界に自分の「コピー」を存在させ続けるという、人間いちどは夢見てしまうような世界について、SFらしく、鋭く切り込んでる。

     マリアとマリアのお母さんのやりとりが好きだったな。マリアのお母さんが三十三歳の時に「コピー」技術が完成したってことで、もう「コピーが自分として永遠に存在する」ということを喜ぶ価値観を得られなくなっている。マリアはその頃五歳だったから、「コピー」とともに育ったし、それが良いものだと信じ切っていて、母が「コピー」を拒むのは金銭的な理由だと思い込んでいる。そういう親子間の価値観の違いって今でも大いにあるだろうし、そんな二人が語り合う様子はとても読み応えがあった。

  • 第3長編▲記憶や人格などの情報がソフトウェア化された意識「コピー」となった富豪たちが支配する世界。宇宙が終わろうと永遠に存在し続けられる方法を提案する男が現れた▼2045年ポール・ダラムは自分のコピーで実験開始、50年プログラマのマリアによるオートヴァース研究とどう繋がる?「コピー」の生活様式、保守的な大富豪リーマンは超高層ビルを構築しエレベータ・シャフトで移動、日本人なら『ハイペリオン』世界の移送ゲート「どこでもドア」だが。困窮するピーは思想的に先鋭化する。今なら現代小説としても通じる内容(1994年)

  • グレッグイーガンの中で最初に読んだ本である程度理解できた。人間(人格)をコンピューターの中にコピーして、永遠の命?を維持できるとしたら?上巻は「現代編~はじまり」みたいなものか。この本を先に読んでおくと、似たテーマがが他でもあるので他の本も理解しやすいと思った。

  • 設定は壮大だが少人数の人物の思惑だけで話が進むので話は小ぢんまりしている。「塵理論」は別に未来的ハードウェアがなくても言える話で、たとえば人民寺院の信者は宇宙のどこかで今も楽しくやってるんだと言い換えられそう。宇宙論の優劣の話に絞ってもらった方が良かったかも。

全11件中 1 - 10件を表示

著者プロフィール

1961年、オーストラリア西海岸パース生まれ。SF作家。西オーストラリア大学で数学理学士号を取得。「祈りの海」でヒューゴー賞受賞。著書に、『宇宙消失』『順列都市』『万物理論』『ディアスポラ』他。「現役最高のSF作家」と評価されている。

「2016年 『TAP』 で使われていた紹介文から引用しています。」

グレッグ・イーガンの作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×