- Amazon.co.jp ・電子書籍 (268ページ)
感想・レビュー・書評
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人に肉体的な死が訪れる前に記憶をデータ化しておくというのが基本の流れ。興味深いのは、「データの数や構成が人間の記憶を司るのではなく、環境に対する感情のデータ化が<個性>を維持する手立てだ」ということだ。作品のなかでは次のように書かれている。
「ポールにアイデンティティを感じさせるのはなんだろう? それは連続性であり、整合性だ。思考が一貫したパターンで継続すること。ではその一貫性はなにに由来するのか? 人間の場合、あるいは通常の方式で走っている<コピー>の場合、脳またはコンピュータの物理的プロセスとは、すわり、ある瞬間の精神状態が、それにつづく精神状態に直接影響することだ。連続性は、単なる因果関係の問題である。時間Aに考えたことが時間Bに考えたことに影響し、それが時間Cに考えたことに影響し…」
著者はいかにこのテーマに説得力を発揮することができるか、ということが、本書の価値を決める。
これはイーガンの初期作品だ。展開はあちこちに飛ぶのでそこをしっかり抑えておけるかどうかが読後感に大きな開きを招くだろう。中期から後期作品に宿る大きな仕掛けはないが、<塵理論>は小粋で楽しい。加えて物語の展開もまた小気味よい。
蛇足だが、この本を楽しみたい人は最初の半分を我慢して読むこと。後半はサスペンス的なものが加わり次第に興に乗るようになるはずだ。 -
登場人物が多いうえに生体とコピーがいるせいで頭がごちゃごちゃしすぎた。登場人物名をメモしながら読むべきだった……。
正確な物事の流れはもはやわからないけれど、世界観はとても面白かった。永久に続く世界に自分の「コピー」を存在させ続けるという、人間いちどは夢見てしまうような世界について、SFらしく、鋭く切り込んでる。
マリアとマリアのお母さんのやりとりが好きだったな。マリアのお母さんが三十三歳の時に「コピー」技術が完成したってことで、もう「コピーが自分として永遠に存在する」ということを喜ぶ価値観を得られなくなっている。マリアはその頃五歳だったから、「コピー」とともに育ったし、それが良いものだと信じ切っていて、母が「コピー」を拒むのは金銭的な理由だと思い込んでいる。そういう親子間の価値観の違いって今でも大いにあるだろうし、そんな二人が語り合う様子はとても読み応えがあった。 -
第3長編▲記憶や人格などの情報がソフトウェア化された意識「コピー」となった富豪たちが支配する世界。宇宙が終わろうと永遠に存在し続けられる方法を提案する男が現れた▼2045年ポール・ダラムは自分のコピーで実験開始、50年プログラマのマリアによるオートヴァース研究とどう繋がる?「コピー」の生活様式、保守的な大富豪リーマンは超高層ビルを構築しエレベータ・シャフトで移動、日本人なら『ハイペリオン』世界の移送ゲート「どこでもドア」だが。困窮するピーは思想的に先鋭化する。今なら現代小説としても通じる内容(1994年)
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設定は壮大だが少人数の人物の思惑だけで話が進むので話は小ぢんまりしている。「塵理論」は別に未来的ハードウェアがなくても言える話で、たとえば人民寺院の信者は宇宙のどこかで今も楽しくやってるんだと言い換えられそう。宇宙論の優劣の話に絞ってもらった方が良かったかも。