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感想・レビュー・書評
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第1部はぶつかりオジサン、第2部は風俗で説教するオジサンが思い浮かんだ。
こんなおじさんにはなりたくない。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
初めてのドストエフスキー。
前口上としての第一部は、啓蒙vs反啓蒙の話。
人間とは、啓蒙され自然の法則に従って行動するのか、或いは自由意志に従うべきか。
周辺時期のヨーロッパでは嫌というほど議論されている議題だ。
それを踏まえて第二部では、主人公の地下室人の周囲にタイプの異なる登場人物が描かれる。
世俗欲を象徴するスーモノフ以下幼馴染。
信仰と良心の象徴たる従僕アポロン。
そして『生きた生活』の権化として描かれる娼婦のリーザ。
その三者に囲まれ、どこにも属することができず、地下人が右往左往する。
人間、少なくとも自分の中には、この三者のどれにも共感する部分があるだろうと思われ、地下人の心理がよく分かる。
本作の主題となる啓蒙、信仰心、欲望などの題材はよく議論に上るもので、それほど特殊ではない。
一方で、苛立ちに満ちた文体は異様に見えた。
何故このような作品を書くに至ったか、と考えた時に、解説にあった「病床の妻をおいて不倫」という作者自身の個人生活と、そのことから来る自己への失望や罪悪感が、本著の執筆に於ける原動力という気がする。
自らの欲望に抗えず、かと言って道徳心も捨てられない、という板挟みだ。
この後、バーリンの『反啓蒙思想』を読んだ時に、ドストエフスキーの心理についてヒントを得た気がした。
科学や啓蒙を拒否し、自らの自由意志で行動したつもりが、あるときそれが自由どころか、むしろ「自らの欲望の奴隷」であったと気付く。
人生は素晴らしい。