顔を忘れるフツーの人、
瞬時に覚える一流の人
「読顔術」で心を見抜く
著者 山口真美(中央大学文学部教授)
中央公論新書
2015年1月10日発行
自分は人の顔を覚えるのが苦手と思っている人は多い。私もその一人で、かなり重傷。でも、短時間会っただけなのに、どこかで再会した時にすぐに分かる人もいる。過去、仕事柄多くの人を取材してきたが、その人がテレビに出ていても全く気づかないこともあれば、あっ!とすぐに思い出す人もいる。
大きな会社の経営者など、下々の人たちの顔をよく覚えている人が多い。自社の社員だけでなく、外部の人に対してもそうである。私にすると、それだけで尊敬に値する。人の顔の認知について人一倍優れた能力を保持する人を「スーパーレコクナイザー」と呼ぶそうだ。
この本を読むと、スーパーレコクナイザーとまではいかなくても、人の顔を覚える特効薬となるようなものが書かれているのではないかと期待したが、あまり見つからなかった。
人が顔を認識する基本は、目・鼻・口の位置。大切なのは、その形ではなくて、その位置。位置があってさえすれば、目・鼻・口の形をしていなくても顔として認識することができる。コンセントなどが人の顔のように見える「シミュラクラ現象」がそれである。
新生児にもこの能力があり、親など身近な人の顔を見て「基準となる顔」ができあがっていく。生後8ヶ月までは横顔は顔と認識しないらしい。
こうして、人は年月とともにいろいろな顔を見て自分自身の「基準となる顔」を作り上げていくのだが、お年寄りが「今どきの若い人はみんな同じ顔をしているので区別がつきにくい」と言ったり、あるいは若者が逆のことを言ったりするのは、自分がよく見ている顔によって「基準となる顔」を作っているためだと思われる。昔、外国人がみんな同じに見えると言う日本人が多かったのもそれかもしれない(外国人の顔に関する情報が少なかった)。
この本の一番の山場は、人の顔の覚え方の違い、を解説しているところ。会ったこともない人の、いろんな表情の写真を見せると、全部別人に見えたという実験結果を紹介。しかし、クリントン大統領などのおなじみの人の写真だと、年齢や表情が違っていてもみんなクリントン大統領と分かる。
知り合いと、そうでない人とでは、人の顔の覚え方が違うらしい。知らない人の顔を覚える場合、その特徴を探すらしい。すなわち、目、鼻、口の形などの特徴で覚えようとする。また、髪や服装など。だから、表情が変わると別人に見える。それに対し、知り合いの顔は、目、鼻、口の位置を覚えるらしい。さらに、顔全体でも覚える。だから、表情が変わっても、あるいは昔の写真が出てきても本人と分かる。
会ったことがない人の顔を覚えなければいけない場合がある。例えば、守衛。新しい職場についたとき、そこに出入りしている社員の顔を事前に必死で覚えるのであろう。これは上記の法則からいうとかなりしんどい。
逃亡犯を探す専門の捜査員には、それなりのテクニックがあるようだ。一人の人物につき、できるだけ多くの写真を手に入れる。犯人の人となりをしっかり頭に描いて、その性格や成り立ちから、身近にいる人物として想像して、対峙するのである。見知らぬ犯人の顔写真を見ながら必死にその犯人像や性格を思い描いて覚えるらしい。
言うまでもなく、それぞれの人には性格、人間性、社会的背景がある。そうしたストーリー性とともに覚えないと、なかなか記憶には残らないのであろう。短時間しか会ってないのに妙に覚えている人というのは、そういうところにひっかかりがあるのかもしれない。
この本によれば、短時間に大勢の顔を覚えなければいけない場合は、目、鼻、口の位置を覚えろ、としている。
そして、出来ればその人の背景を勝手に作り上げてでもいいから併せて覚えろということかもしれない。
その他、
「かわいい」を情勢に対するほめ言葉として使っているのは世界中で日本人だけらしく、外国では大人の女性に使うと否定的に扱われる。なぜ日本だけそうなのか?という理由。
「見返り美人」が存在しない理由。
日本ではみんな人気のアイドルグループが存在するが、アメリカではそのグループの誰かが魅力的だからアイドルグループとなる、その違い。
などについても解説されている。