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感想・レビュー・書評
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『朱鷺の墓』(上)五木寛之(著)
染乃という金沢の廓育ちの芸者の成長物語。外面の美しさから、体の内部から美しくなり、気品があり、強い女性に成長していく。この物語は、「女に見えて男に見えんもの」が描かれる。五木寛之の作品の中では、一番好きな作品だ。
金沢を舞台にした物語。若い頃に読んだ時には、金沢に行ったことがなかった。昆明から戻ってきてからは、金沢は仕事で何度も行くことになった。ひがし茶屋街もよくおとづれた。金沢のしっとりして優雅なたたづまいが好きだ。五木寛之は「金沢は私の第二の故郷である」という。デラシネと言いながら故郷はあるようだ。そして、金沢には泉鏡花がいて、室生犀星がいた。ほのかな文化の香りがする。五木寛之の別の作品では、「嫌いよ。こんな街。もったいぶってて、気取ってて、ジメジメしていて、そのくせ百万石の伝統だのなんだのとすぐに大げさにかまえてみせる」と言ったりする。金沢から、シベリア、ロシアにつながっていく。ロシアには『モスクワ愚連隊』があり、ゴーリキーがいて、プーシキンがいる。そして、白夜の物語が広がっていく。
『朱鷺の墓』のヒロインの染乃は、ひがし茶屋街で育った。
雁木機一郎は、染乃と一緒に浅野川べりの卯辰山の山上にある天満宮の境内の鳶ケ峰に立っていた。卯辰山は、金沢城と向かい合っているところから、向山とも呼ばれていた。機一郎は、遠くの国のアムール河、浦塩、バイカル湖、シベリア大陸に想いを馳せていた。そして、染乃にいう「男には、女に見えんものが世界にはあるんだ」というと染乃は「ほんなら、女に見えて男に見えんものもあるがやろうね」という。日本は、ロシアと戦争していた。ロシアの捕虜が、6000人近く金沢に収容されるという。
染乃は、日本人の暴徒に襲われ、ロシア将校のイワーノフに助けられる。染乃とイワーノフの長い物語の始まる。染乃がイワーノフに助けられたことから、ロシア捕虜に犯されたという噂が、狭い金沢の街で流され、芸妓として暮らしていくのが難しくなる。染乃の養母は、自分がお詫びするという手紙を残して自害する。そこから、イワーノフは、染乃に対して、愛を告白する。日露戦争が終わり、イワーノフは送還されることになるが、二人は結婚式を挙げる。イワーノフは、必ず戻って、染乃に迎えるという。染乃はヤクザたちに連れ去られ、女郎として訓練され、「ほーら。ほーら」という言葉で、女の深い業に沈んでいく。そして、浦塩に売られていくのである。一方で、イワーノフは政治犯として、シベリアで流刑として、収容されていた。染乃は、流刑されている村で、イワーノフの釈放を待ち、イワーノフとナホトカにいき、中華料理店で、一緒に働く。
イワーノフも機一郎も挫折した男である。イワーノフは、ロシア皇帝を打倒しようとして捕まり、シベリアに送られて、転向する。貴族のプチブル。機一郎も、危険な思想の持ち主として牢屋に繋がれ、シベリアでスパイとなり、人を殺していた。染乃の脅威であった男を、最も簡単に殺す。
機一郎はペテログラードに向かうときに「おれにとっては世界だの歴史など民衆だのという言葉は、なんの意味ももたん」と染乃にいう。「おれには世の中など、人間だのってものが見えるようになっただけさ」。機一郎は大きく変化している。
染乃は、そんな男たちを、見つめ、ささやかな愛に満ちた生活ができればいいと思うのだった。
染乃が、過酷な運命に晒されながら、女としての自覚を持ち、美しくなっていく様がステキなのだ。
そして、下巻につながっていく。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
kindle unlimitedのあまりのラインナップのお粗末さに、40年以上前の本をしぶしぶ読む
舞台が金沢やロシアへ飛ぶという内容だったのか。なかなか面白い。