この社会で戦う君に「知の世界地図」をあげよう 池上彰教授の東工大講義 (文春文庫) [Kindle]
- 文藝春秋 (2015年3月10日発売)
- Amazon.co.jp ・電子書籍 (126ページ)
感想・レビュー・書評
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池上彰氏の本は2、30冊くらい?読んだが、本書も他の本でも書かれたこととかなりかぶっている(まあ、重要な部分ほど繰り返されるので、自分のような乱読派にはありがたいことだが)。
しかし、本書で目新しく、読み応えがあったのが、「日本企業から韓国企業に引き抜かれ、日本企業に再度帰ったけれど受け入れられず台湾で働いている人の体験談」を読み、どう思うか、この人の考えに賛成か反対かその他の意見かで意見を出し合うやりとり。
だんだんと議論が深まっていく様子がわかりやすく描写されている。これが討論か、と納得。
よく話し合いで意見を出し合うことで、新たな視点を取り入れてよりよい結論に導くとは言うけれど、その効果が本書のやりとりでよくわかった。
自分も議論の対象となった人の体験談をまず読み、池上氏の進行で賛成か反対か考えた。そして、学生が議論を出し合っていくのを読みながら、当初の自分の考えがかなり浅かったことが実感できた。
こういう意見もあるのか、こういう視点もあるのか、と感じ、意見を出し合う前と違う意見をもった。多分、この議論を聞いていた・参加していた学生もそうだろうな。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
要約:
「株式持ち合い」とは、海外の企業から買収されないように、仲良しグループをつくり、それぞれ少しずつ株式を保有することで、乗っ取られないようにすること
経済とは最適配分を考える学問である。大まか流れとして以下の4つの経済学者を時代順に取り上げる。
一人目はアダム・スミス(1723~1790)。
アダム・スミスの有名な言葉に「見えざる手」がある。これは他人のためではなく、自分のために行動しても、「見えざる手」によ経済発展し、他人も豊かになる、というものである。したがって、自由な市場を信頼し、小さな政府を目指すように説いた。
二人目はカール・マルクス(1818~1883)
マルクス理論は共産主義の基になっている。マルクスは労働価値説を唱えた。これは商品に価値があるのは、そこに労働力が投入されているからである、というものである。労働者は「労働力商品」として扱われ、次の日も働く体力・気力を回復させるための賃金を支払ってもらうものだとされている。
3人目はジョン・メイナード・ケインズ(1883~1946)
ケインズは、景気が悪いときの行動指針として以下の2つを主に掲げた
・借金をして公共事業
・累進課税で富の分配
リーマンショックのときは世界各国がケインズの方針に従ったが、景気がよくなっても支出(借金して賄ったお金)を減らさなかったため、ユーロ危機を招いた。
4人目はミルトン・フリードマン(1912~2006)
フリードマンは新自由主義を掲げた。アダム・スミスが掲げた自由主義の現代版である。これは経済の成長は促すが格差が広がってしまう。
リーマンショックについて。
1. サブプライムローンで住宅を購入する
2. 住宅ブーム(バブル)が到来し、土地・建物の価格が上昇
3. サブプライムローンの債権(これを持っているとお金を返しもらえる)を売る
4. サブプライムローンの債権を購入した投資銀行(=証券会社)は債権を証券化し、その他の証券と一緒にポートフォリオ化して販売
5. 4のポートフォリオが世界でよく売れる
6. 住宅バブルが弾け、経済が停滞する
7. 1で住宅を購入した人がサブプライムローンを返済できなくなり、債権の価値が暴落し、4のポートフォリオの価値も一緒に下落
8. 7のポートフォリオが複雑すぎ、下落幅がわからない。
9. どこの投資銀行が大損し、潰れかけているか、どこの企業もわからない
10. どこもお金を貸したがらない
11. リーマン・ブラザーズが資金繰りが苦しくなり倒産
12. リーマン・ブラザーズのような大手でも倒産する&アメリカは一切助けない、ということから世界の金融機関がますますパニックになる
リーマンショックを受けて、各国は赤字国債を発行し、その資金で公共事業を行うなど財政支出を拡大させた。その結果世界恐慌は免れたが、大きな財政赤字を抱えたギリシャによりユーロ危機につながった。
1944年、ブレトンウッズ体制という国際通貨体制が制定された。これは国際通貨としてドルを用いることを決めたものである。このとき、金とドルの交換レートを固定する金本位制度が採用された。そして、世界各国の通貨は固定相場制でドルと交換された。しかし、アメリカが東西冷戦の軍事費用で多くのドルを世界にばら撒き、すべての国が一度に金と交換してほしいと言われても交換できない状況になった。このことに気がついたイギリスをフランスは両国が保有しているドルを金に交換するように求めた。これに困ったアメリカはドルと金は交換しないと明らかにした(ニクソンショック)。これにより、ドルの価値は下がった。このことから固定相場制の限界を各国が理解し、変動相場制になった。 -
現代史の分かりやすいレビューと、最後はある種の哲学。考え、混沌としつつ、進み続けることが大事
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読みやすいので、スラスラ読める。
こんな講義をしてもらえる東工大羨ましい。単位は厳しいらしいが(笑) -
Amazon オーディブルにて。
社会人のための現代史の方が良かったのでこちらも購入してみましたが、更に古い本だったようで、内容が重複してるし直近のことは触れられないしで両方読むことなかったかなと。
説明はわかりやすく、ひとつひとつの章は楽しめました。 -
学校の教科書を読んでいるような感じですが、とても軽快に読むことができました。リーマンショックなど事件が起こった当時は理解できていたことも再認識できました。
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説明がわかりよい。
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安定の池上彰。
全15回の講義を書籍にまとめたもの。
以下は各講義のサブタイトル。
実は原爆を開発していた日本
世界地図から見える領土の本音
憲法を改正すべきか
紙切れをお金に変える力とは
悪い会社、優れた経営者の見分け方
経済学は人を幸せに出来るか
リーマンショックとはなんだったのか
君は年金に入るべきか
視聴者が変える21世紀のテレビ
オウム真理教に理系大学生がはまったわけ
アラブの春は本当に来たのか
大統領選でわかる合衆国の成り立ち
なぜ反日運動が起きるのか
金王朝独裁三代目はどこへ行く
特に、後半に位置する、中国と北朝鮮に対する解説は、個人的には非常にためになった。
中国では、建国から毛沢東が死ぬまでの間に、共産党に逆らったことで120万人もの人が殺され、その政策によって、飢餓が引き起こされて4300万人~4600万人が餓死していたなんて。今でも、共産党による人民の惨殺の暗い過去を隠ぺいするため、教育では自国の過失について一切触れない情報操作と怒りの矛先を外部に向かわせる情報操作。。。 思想の乱れがいかに人民に天災のごとく降りかかるかを考える良い章だったなとおもうし、今もそれを継続している事にある意味驚きも感じる。異常と思えるほどの情報規制はこういう過去の暗い歴史をあかされ、自身への責任追及を逃れるためと思われても仕方あるまい。(常に反対ばかりの日本の共産党も、もし政権なんてとってしまったら、思想的な圧力や、無策による不況とか、何をするかわからんという点では、危機意識を持った方がいいのかもしれない。)
北朝鮮の章では、独裁国家の異常性について、王制を自ら廃止したブータンを引き合いに対比的に表現していた。まさに、今日は、日本を超えてミサイルを太平洋に落とし、国内ではJアラートに対して悲喜こもごもなコメントが出ている。
この二国は、ロシア(ソ連)、レーニン主義に踊らされたといっても良いのかもしれないし、この二国の周りでうごめいた日本をはじめ、イギリス、ドイツ、アメリカなどの帝国主義的な思想の被害者といってもいいのかもしれない。。。
他国の人に、心を閉ざすのではなく、それぞれの国が、どれだけ心を開いて接することができるようになるのか?「知」は、「開く」ための道具なんだろうなと、皆が知を高めることで、乗り越えていかなければいけないのだろうなと思った。