言ってはいけない中国の真実--橘玲の中国私論 改訂版-- [Kindle]

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  • ダイヤモンド社
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  • ユニークで分かりやすい中国人論。我々にはなかなか理解できない、難解で厄介な中国人気質や中国社会の混沌は、全てその人の多さに起因する、というのが著者の見立てだ。

    「中国で起きているさまざまな驚くべきことの背後には、「中国人という体験」を生み出すひとつの外的要因があるのではないか…。その要因とは、「ひとが多い」ということだ——それも、とんでもなく」。

    中国にはあまりに人が多いため、「中国の社会には「信用」という資源が枯渇して」おり、「郷党と宗族の人的ネットワークに頼って寄る辺ない社会を生き抜いていくライフスタイル」である幇(ホウ)と関係(グワンシ)の文化が確立したという。

    「中国では、「グワンシ」のあるひとから依頼されれば会社のルールはあっさり無視されてしまう」。彼らはグワンシのない人とも普段「おおらかにつきあう。ただ、どれほど親しく見えても、最後は裏切る(裏切られる)ことが人間関係の前提にあるのだ。中国人の行動文法では、裏切ることで得をする機会を得たときに、それを躊躇なく実行することを道徳的な悪とは考えない」のだ。なるほど、これではさすがに法治国家とは言い難いなあ。

    このような風土・気質が強く存在しているのであれば、「欧米流のデモクラシーは中国に混乱をもたらすだけだ」という中国共産党の主張にも頷けるものがある。民主化しようとした途端、それぞれが自己ないしグアンシの利益を勝手に主張してバラバラになってしまうことが目に見えているからだ。「中国は「民主主義」を実現するには広すぎるし、人口が多すぎるのだ」。

    「その広大な国土と膨大な人口、少数民族の独立運動などを考えれば、中国は共産党の封建官僚制による「近世的支配」をこれからもつづけざるを得ないだろう」。残念ながら、そういうことらしい。

  • 中国論は沢山あるが、色眼鏡が多すぎる。
    その中で橘玲のこの本は冷静客観的な書きぶりで信頼できるように思える。
    中国は外から見ると一枚岩で大きいが、内実はわかりにくいが、中の競争は激しく、脱法行為は日常なのたろう。
    それの証が鬼城という廃墟の山ではないか。

  • 以下、目次とコメント。
    <まえがき>
    <はじめに 中国を驚くということ>
    パート1 中国人という体験
    1 人が多すぎる社会
     大富豪の御曹司からいかさまギャンブラーへ
     頬に傷のある女シュエ
     デラシネと任侠
     中国でパソコンを買うには
     アジアの人口をランキングすると
     アジアはゆたかでヨーロッパは貧しい
     DIYと人海戦術
     産業革命と勤勉革命
     中国の「西部開拓時代」
     中国と日本の統治構造
     宗族というセイフティネット
    2 幇とグワンシ
     生命より大切な友情
     よく似ているからわかりにくい
     裏切られることを前提とする社会
     社会的資源としての「信頼」の不足
     高倉健が中国で人気のある理由
     中国と日本はどちらが「特殊」か?
    3 中国共産党という秘密結社
     人民解放軍に接収された列車
     日本のお役所を観光する
     うす暗い駅の待合室で、王さんはふうとため息をついた
     秘密結社、白蓮教
     秘密結社の掟
     黒社会の誕生
     毛沢東のユートピア
     中国にはなぜヤクザ組織がないのか
     癒着する黒道と赤道
     村人を毒殺した納付の主張
    パート2 現代の錬金術
    4 経済成長を生んだゴールドラッシュ
     中国を理解する6つの視点
     「お金儲けの神様」の秘訣
     郷鎮企業の錬金術
     1990年代のゴールドラッシュ
     「女性の美しさ」まで売る地方政府
     「国進民退」は起きているのか?
     国策としての携帯電話産業
     確約携帯会社の”垂直分裂”
     最適戦略は「短期利益」と「成功者のコピー」
    5 鬼城と裏マネー
     アリ地獄のような金融制度
     爆発的な公共投資の理由
     元本保証で年利10%
      地方政府が実質的に尻拭いする理財商品
      巨大化する官製闇銀行
     錬金術の正体
     中国社会を支える裏マネー
     ”富への扉”は閉じられつつある
     中国を動かす謎の巨大銀行
     WIN-WINの関係
     フィールド・オブ・ドリームス
    6 腐敗する「腐敗に厳しい社会」
     自分の同級生には貪欲な幹部になって欲しい
     国務院総理・朱鎔基への直訴状
     「わしら農民は人間ではありません。豚や犬より下です」
     重税はたちまち元に戻ってしまった
     中国共産党は地方を管理できない?
     中国は腐敗に厳しい社会
     収賄は正義の実現
     賄賂を受け取らないのは精神障害
     二重権力と無責任
     人口ボーナスと人口オーナス
     生産年齢人口が減少するとバブルがはじける?
     2020年、人類史上最大のバブルが崩壊する
    パート3 反日と戦争責任
    7 中国のナショナリズム
     元日本代表監督が率いる中国チーム
     サッカーの”グローバルスタンダード”
     日本人を乗車拒否する理由
     「排外」と「拝外」
     「反日教育」批判は正しいか?
     ナショナリズムを認め、ウルトラナショナリズムを批判する
     中国は「知日派」を必要としている
    8 謝罪と許し
     黒人を差別したリンカーン
     「加害国」ドイツと「被害国」日本
     悪いのはすべてナチスとヒトラー
     「日本人」に戦争責任はない
     まずは読み方の統一から
    9 日本と中国の「歴史問題」
     日本人はどこから来たのか
     日本人とモンゴル人はなぜ似ているのか
     弥生人は中国南部からやってきた
     中国によって生まれた「日本」
     自虐史観と自尊史観
     万世一系と小中華思想
     中国の強国意識と弱国意識
     文明としての中国
     日本から生まれた「中国」
    パート4 民主化したいけどできない中国
    10 理想と愚民主義
     中国の歴史はなぜ同じ繰り返しなのか
     破壊と再生
     毛沢東王朝の末期的症状
     共産党は民主化を必要としている
     愚民への恐怖
    11 北京コンセンサス
     ワシントンコンセンサスの挫折
     独裁政権を援助する中国
     アフリカのインフラをまるごとつくる
     果実が落ちるのを待てばいい
     強くなるほど弱くなる
     分裂する権力
    12 中国はどこに向かうのか
     孔子と武士道
     中国はEUになるのか
    13 「超未来世界」へと向かう中国
     民主政のもとでの身分差別と、平等な社会における独裁
     海外のインターネットサービスが遮断できる理由
     中国のIT企業は規制を必要としている
     「電子決済社会化」という革命
     国家(党)に流出する膨大な個人情報
     「天網工程」に接続される6億台の監視カメラ
     「超未来世界」を生きるひとびと
    <あとがき>
    中国10大鬼城観光
    1 内モンゴル自治区・オルドス市
    2 天津市・濱海進区
    3 海南町・三亜市
    4 河南省・鄭州市
    5 安徽省・合肥市
    6 内モンゴル自治区・フフホト市
    7 内モンゴル自治区・清水河県
    8 河南省・鶴壁市
    9 浙江省・杭州市
    10 上海市・松江区

  • 中国を理解する為に非常に役に立つ本でした。
    日本とは全く異質な世界が広がっている事が分かりました。
    読み終えると、欧米人の方が、中国人より理解しやすいとも感じました。

    ↓↓↓

    ・中国の社会には 「信用 」という資源が枯渇している
    ・中国には 、人間があまりにも多い
    ・経済学的にいえば 、人権とは 「人間の価格 」が高くなること

    ・広い国土と多すぎる人口を背景に 、中国では郷党と宗族の人的ネットワ ークに頼って寄る辺ない社会を生き抜いていくライフスタイルが確立
    ・日本では 「場所 (土地 ) 」が最初にあって 、そこでひとびとが協調して生きていく方法が追求された
    ・広大な中国では移動 (流浪 )が避けられないから 、場所を基準とした社会秩序は意味がない
    ・日本の場合 、安心は組織 (共同体 )によって提供される
    ・中国では、安心は自己人の 「グワンシ 」によってもたらされる 。

    ・中国では 、歴史的 ・文化的な要因から 、社会的な資源としての 「信頼 =絆 」が常に不足
    ・そこでひとびとが頼ったのが 、宗族や秘密結社という 「想像の共同体 」

    ・中国人は 、会社をたんなる通過点と考える 。だから企業経営者は自分を学校の校長だと考え 、優秀な 〝生徒 〟を卒業させていく 。

    ・中国では各地方があたかも独立した一企業のごとく活動している 。地方政府自らが投資を促し 、銀行に融資を強要し 、株を保有する 。

    ・中国企業の行動も 、人口 (企業数 )が極端に多く競争がきわめて激しい
    ・過酷なビジネス環境では将来を安定的に予測できないから長期計画は意味がなく 、目の前にあるビジネスチャンスをいますぐ活かせるかどうかで勝負が決まる
    ・そこでの最適戦略は研究開発によってオリジナリティを追求することではなく 、成功しているビジネスモデルをそのままコピ ーし 、法やル ールを無視しても商品やサ ービスの価格を下げてライバルを駆逐すること

  • 確たる取材や証拠に基づいていない筆者個人の体験と感想による主張である。しかし、はたから見ればよく分からない意思決定をしているようにみえる、中国の動向をうまく説明できている。
    読みながらソ連末期のエピソードを思い出した。米国高官がソ連軍士官向けの講演で「米国のようにソ連も予算を公開してくれたら分析する手間が省けてうれしい」とジョークを飛ばしたところ、ソ連側から「自分たちにもわからないから」と返された話である。
    外部からみれば全く不合理で恐怖すら感じる組織において、実は内部の人たちもその矛盾を認識し不合理に思いつつ、かといってそれを変えることは自らの体制の崩壊を意味するため、なんとかバランスをとっているのかもしれない。

  • 長いって前書きに書いてあったけど、本当に長かった。
    色々と大事なことが書いてあったけど、
    ①国、特に中国のように人口の多い国について考える際に丁寧さを失うといい事ないよ。
    ②侵略戦争を仕掛けた国に生まれた身として、仕掛けられた国に生まれた人にどう関わっていくか
    と言う2点については良い発想を得られた気がする。
    ①はカルチャーの違いや、異常に人口が多いために、日本では考えられない色々な制限や、現象が起こっている事を想像する必要がある事
    ②は個人と国を分けて考える必要がある事

  • 引用だらけではあるが、たしかにフラットに中国を見ているし、私もかなりこの意見に近い。
    反日の問題について少々。
    私は右巻きではあるが、中国も韓国も結構好きである笑
    こういうことを言える人がもっと増えれば建設的な議論が隣国とできると思う。
    色々なのをみていると双方感情的になっていってもうしっちゃかめっちゃかという印象。
    案外日本政府が一番冷静なのかもしれない、と思う。

  • 【学んだこと】
    ・関係 グワンシ
    ・結社
    ・中国と日本の人々は互いに似ている、同じような考えをしていると誤認識している。実際にはかなり異なる考え方をしている。
    ・中国の問題は、制度的に管理可能な限界を大きく超えて人口が多すぎることにある。

  • 筆者が「中国旅ノート」と呼んでいる通り、旅の下調べとして中国の歴史や近代政治を掘り下げた本。

    人口が多く国土が広い、という特徴を持つ中国を統治するためには、官僚による中央集権的な組織と、ローカルな「地元の大物」の二重の統治構造が不可欠。しかし「地元大物」組織が私腹を肥やしていく中で、一般大衆は疲弊し統治が破たんする。悲劇的な規模の人口減少を伴う政治混乱により新しい政権が誕生する。

    共産党統治においても、元来、北京の意向を地方レベルではあまり尊重していない。経済運営のみならず、軍隊や外交についても地方政府は北京のいうことを聞いていないケースもある。共産党が独裁体制をつづけるためには、地方政府の暴走や汚職腐敗を撲滅しないと民衆が叛旗をひるがえることになってしまう。そこで共産党がとりうるのは、中央政府にたてつく民主化運動は抑圧しつつ、地方政治レベルでは民主化をすすめることであるとしている。

    中国人コミュニティは、人間関係の基礎が「自己人」と「外人」に二分割されており、いわば身内である自己人コミュニティの相手に対しては誠意をつくす一方で、関係(グワンシ)の外側の人間とは、裏切られることが当たりまえ、という前提でつきあっていくという。

    そのほかにも面白いメモが沢山あるが、後半は冗長だった。

  • 何かの拍子に買って積読してあったんだけど、読み始めは、ん? 鬼城? という感じだったが、中国を知るという点では、非常に面白かった。

    これは、必読だ。

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著者プロフィール

2002年、金融小説『マネーロンダリング』(幻冬舎文庫)でデビュー。著書に『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』(幻冬舎)、『日本の国家破産に備える資産防衛マニュアル』『橘玲の中国私論』(以上ダイヤモンド社)『「言ってはいけない? --残酷すぎる真実』(新潮新書)などがある。メルマガ『世の中の仕組みと人生のデザイン』配信など精力的に活動の場を広げている。

「2023年 『シンプルで合理的な人生設計』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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