- Amazon.co.jp ・電子書籍 (228ページ)
感想・レビュー・書評
-
ほぼ興味本位で買ってみたが面白かった。新書なので内容はさして多いわけではないが、従来のイメージ(または偏見、固定観念)が否定されることが多かった。著者によればこの分野の研究や手法が本当に意義あるものになったのは比較的最近のことなので、仕方ないのだろう。
犯罪者を病人とみなし、単に厳しく処罰するだけでなく科学的な治療も行うという考え方は理解していたが、具体的にどのような治療が行われ、どの程度の効果を上げているかはなかなか知る機会がなかった。それ以上に、かつて意味あるものと考えられていた診断法や治療法が現在は否定されていることも少なくないという点については、ややショックを受けた。
刑務所や病院で実際の犯罪者と数多く接してきた現場の人間として、著者が強く推進しているのはエビデンスを重視した手法の採用だ。これは医療分野におけるEBM(エビデンスに基づく治療)と同じ思想で、効果の有無を科学的に(つまり担当者の個人的な勘や経験に頼らず)立証された手法を用いるというもので、言われてみれば当たり前なのだが、つい最近まで当たり前ではなかったようだ。
例えばロールシャッハテスト(インクの染みを見て何に見えるか答えさせて診断)やバウムテスト(木の絵を描かせて診断)などは意味がないことがすでに実証されているという。箱庭療法も日本独特でエビデンスのない奇妙な理論だそうで、日本の心理学がガラパゴス化しているとも指摘する。
無根拠な「刑事の勘」で犯人を決め付けて冤罪を生んだエピソードなどはよくわかるが、医者がやっていた治療法まで実は意味がなかったと言われると少なからず衝撃を受ける。本書によれば犯罪心理学は1980年代以降に大きく進歩しているそうなので、それ以前の知見はいったん忘れたほうがいいかもしれない。
また、犯罪に対して本書冒頭にある様々な「神話」が今も根強く信じられていることは、事件が起こるたびに語られるコメントを見れば明らかだ。こういう状況を改善していくことは彼ら専門家の仕事であると同時に、ネットで気軽にコメントできるようになった時代においては我々一般人の責任でもあると思う。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
筆者の主観で犯罪者の心理を分析したり、プロファイリングなどで一気に犯人像をとらえる、といった刑事ドラマの延長のようなものではなく、統計学的な視点を取り入れることで犯罪を科学的に考察し、そして対策を考えるとても真面目な本。
構成は大きく下記のようになっている
犯罪者の生い立ちや分類
犯罪心理学の理論と検証
犯罪者が持っている因子(犯罪につながりやすい要素)の特定
犯罪者の治療(主に認知行動療法)
本書を読んで気づいたのは下記のような点。
犯罪の要因を過度に単純化しないこと
ある犯罪事件が起こった場合「~(社会・親)が悪い」といった過度の単純化をおこなわないこと。そうした思考は単に誤っているだけでなく、差別や偏見や逆に犯罪を助長する可能性がある。
統計学的な視点
いままでも心理学者が精神分析などで犯罪者の思考を分析したりしたものはあれど、過去の膨大なデータベースや学術論文から統計学的手法を用いて犯罪や犯罪者を分析したものは少なかっただろう。本書ではなるべく統計学的根拠を用いて、犯罪者の分析をおこなっており、非常に説得力がある
厳罰から治療へ
ここが一番目新しいかも。犯罪を減らす方法の1つとして、犯罪者の厳罰ではなく治療にフォーカスを当てている。ともすれば感情論に走りがちな犯罪に対して、どうすれば犯罪をへらせるかという点で最も真摯に考えている。 -
犯罪心理学というとプロファイリングのような話かと思ったが、そうではなかった。処罰は再犯リスクを抑制せず、再犯を防ぐための「犯罪者の治療」が重要であるという趣旨。公衆衛生や疫学、医療に通じる内容だと感じ興味深かった。
-
断片的な情報からの思いこみ、ベテランの勘などに頼って犯罪を単純化してしまうと、その後の防犯対策も失敗してしまうのでエビデンスに基づく捜査や犯人の治療が大事だということがいろいろ書いてあって参考になった。
-
再犯防止のため犯罪者に行うべき心理療法を通して、物事の単純化における危険性・エビデンスの重要性・思い込みの暴走性を説いている。犯罪者の心理だけてなく、犯罪者を見るマスコミや我々の心理的バイアスに気づかされた。
-
飲酒運転事故が減ったのは、厳罰化の影響もあるかもしれないが、それよりも飲酒量の減少や事故が多い若年ドライバーの減少の影響が大きいとは言えないだろうか
こういう視点を変えた物の見方するにはどうしたらいいのでしょう。仮設思考でも取り上げられていたように、幅広く考える方法として、反対側から見る、両極端に振って考える、ゼロベースで考える、の三つですかね。何事も実践、頭に置きながら考えてみたいと思います。 -
まさに目から鱗。
勘違いしていたことが多々あり、認識を改めさせられた。
というか、もっと早く読めばよかった。
不謹慎だが昔から殺人事件に興味があった。
私が高校生の頃にいわゆる「酒鬼薔薇事件」があり、その辺りからメディアに”犯罪心理学者”を名乗る方が出てきたような気がする。
よくも悪くも”ワイドショー”は”ショー”であることを痛感した。
本当に、もっと早く読めばよかった。 -
犯罪について体系的に構造的に整理されて、出版年時点で、わかってること、わかってないことを概観できた。
日本国においては雑な拷問と雑な裁判で雑に犯罪者にされる事例があったり、マスメディアで雑な報道が氾濫する現今で、このような研究があり、実地で実践されているのは、新鮮な驚きがあった。
6章「犯罪者治療の実際」は、他の章が統計や制度や先行研究などを淡々と整理し紹介していたのとは色彩が異なり、著者の実地の経験知が披露されている。その分、他の章とは異なり、どうしても見解のサンプル数が少なく、どこまでリーチできる手法なのかは読んでいて何ともわからなかった。
5章にチョロっと言及されてる「動機づけ面接法」は特に興味を惹かれた。
いわく、「反抗的で更生意欲のない犯罪者こそが、手厚い治療の対象であるのだが、実際に彼らを治療に乗せることなどできるのだろうか。昔から馬を水場に連れてくることはできても、無理やり水を飲ませることはできないと言うではないか。 そうした問題に対処すべく、心理学では、意欲の乏しい者に対して、その意欲を高めるための治療技法も開発されており、それには十分な効果があることが数多くの研究で実証されている。それは動機づけ面接法と呼ばれるテクニックである」。とても興味はある。が、にわかかじりは事故りそうなので、知識として持っとくに留めたい。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%8B%95%E6%A9%9F%E3%81%A5%E3%81%91%E9%9D%A2%E6%8E%A5 -
・貧困は犯罪を助長する。
・虐待を受けた子供は犯罪率が高い。
・性犯罪の再犯率は高い。
犯罪について一般的にいだかれがちなイメージだが、筆者はファクトで否定する。
犯罪心理学
現場の経験と勘で運用されてきた分野で、統計的、科学的知見による分析は面白く、学問の経済学とも重なる。
経営者と犯罪者は似ている。
-
犯罪抑止についての考え方が今まで自分がなんとなく思っていたものとは違い、興味深かった。
厳罰には効果がなく、『治療』することが大切だということ。
一般的な感覚とはかけ離れた、犯罪者の『認知の歪み』にアプローチしていかなければならないこと。
そして、未だに『刑事の勘』や『経験』などの曖昧な判断基準が蔓延っているらしい。
日本ほど治安の良い国はないと聞くが、そんな国でも犯罪は必ず起こり、たくさんの被害者、そして不幸な加害者が発生する。
本書の最後にも述べられていたことだが、『エビデンス』に基づいた対策を浸透させていかなければならないと思った。