火山入門 日本誕生から破局噴火まで (NHK出版新書) [Kindle]

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  • 海底地震計の第一人者の島村英紀氏は地球物理学者で火山も研究対象としている。ということで、火山について初歩的な知識をまとめた本。

    前に読んだ鎌田浩毅氏の本は2012年だがこの本は2015年で御嶽山の噴火にも言及している(なお、休火山や死火山がなくなったのは2012年の本にも書かれているので御嶽山噴火より前)。

    火山噴火は地震と違い予測可能だろうと思っていたが、火山の噴火はそれぞれ違い、前兆現象と噴火の関係が不明確で、予知できたとしてせいぜい1日前(これも無理かもしれない)という。日本にとって火山噴火は大地震と同程度に警戒すべき、突発的な災害と分かる。

    それはそれとして、日本のように活断層も火山も多い国は原子力発電などもってのほか、という主張も添えられている。

    欧州でも核廃棄物を10万年もメンテするなら、その間に地震も火山噴火もあるではないかとしている。ましてや、日本に最終処分場は置くべきではないとの考え。

    しかし、ここで展開してるゼロリスク思考は科学者らしくないと思う。まず、ここで言及されないのは放射性物質の放射能と半減期の関係。危険な放射性物質は半減期が短く、半減期が長い物質はあまり危険ではないという相反する関係がある。多くの反原発の主張はこのことに言及しない。

    1万年も放置すれば半減期数十年の放射性物質でさえほとんど崩壊し尽くしてしまう。その時火山のマグマが貯蔵施設を襲ったとして、噴出する物質がどれほど危険か。

    原発の特徴には燃料も廃棄物もその量が非常に少ないというのもある。火力発電は大量のCO2とその他の有害廃棄物を出すが、原子力発電の廃棄物はエネルギーあたりではそれらより桁違いに少ない。

    量的なことを考えても、核廃棄物処分場が突然火山になったとしても、火山の有毒ガスのリスクに比較して漏洩する核物質のリスクははるかに低いということが考えられる。

    少なくとも、再生可能エネルギーが需要を100%賄えるようになるまでのエネルギー源としては、CO2を出さない原子力は残しておきたいものだと思う。

    海底地震計は地震のメカニズムを解明したり緊急地震速報システムに使われたりしていて社会に貢献している。

    一方で、日本の原発再稼働の審議が長引いているのは、地質学者の強硬な態度による部分もあると風の噂に聞く。よほど確固たる根拠があるのではと思ったが、不合理なゼロリスク思想が抵抗しているとしたら残念なことだ。

  • 東日本大震災以降火山の活動が活発化しているように思うが、この本を読むと、いままでが静か過ぎたので、活発化で普通だということだ。地震の予知も難しいが、火山の噴火の予知はほとんど不可能だということだ。火山列島のこの日本に住む以上、覚悟をしないといけないようだ。

  •  タイトル通りの入門書。火山について一般的な知識は持っているつもりだったが、その認識が間違っていることを痛感させられた。

     例えば昔習った「活火山・休火山・死火山」という分類も現在は廃止されているという(知らなかった)。これは死火山だと考えられていた御嶽山が1979年に突然噴火したことから改められたそうだが、逆に噴火しそうな前兆を示しながら結局噴火しなかった例もある。そもそも前兆と言いながら具体的に何がどうなったら噴火するのかもわかっておらず、まだまだデータ収集を重ねている段階なのだという。

     本書で著者が何度も指摘しているのは、現在の火山学がまだとても低いレベルにあり、特殊な例を除いて「噴火予知」は不可能だという点だ。

     もちろん、火山学者が無能なわけではない。地中深くの状態を把握するのは技術的なハードルが高いし、噴火を観測するのは命の危険を伴う。短くても何十年、長ければ何万年というサイクルで起こる現象で、実験室で再現することもできない。これらの悪条件を考えれば、よくやっていると思う。

     しかし著者は、主に行政の火山対策についてはかなり批判的のようだ。観測体制はまだ不十分だし、近年導入された「噴火警戒レベル」も客観的・学問的な基準がなく経験と勘に頼っているという。2014年の御嶽山噴火の後でその最低レベル1の表現を「平常」から「活火山であることに注意」に変更したのは役人の責任逃れのためではないかと指摘する。予知できないものなのに、あたかも予知できるような名前の組織があることも問題だという。この辺りは、人の命に関わる分野の研究者として真摯な姿勢を感じた。

     さて、大地震の後はほぼ例外なく近隣の火山が噴火しているという。東日本大震災から四年あまりで御嶽山が噴火し、箱根も不穏な様子だ。もし富士山が噴火すれば想像を絶する被害が生じるだろう。しかし、人間にそれを防ぐことはできない。世界有数の火山国である日本に暮らすなら、ある程度の覚悟は常に持っている必要があるのだろう。

  • 2014年の御嶽山噴火以来、火山への関心が高まっている中、タイムリーなテーマの本。
    本書では、火山の噴火の仕方による分類、日本の主な火山の解説、火山の効用と被害など、一般向けに火山全般について語られている。
    重要なのは、火山がいつ、どのように噴火するかという噴火予知については、現段階ではほとんど無理ということ。火山一つ一つ、また、同じ火山でも過去の噴火ごとに噴火の規模やタイプが異なっていて、予知のために必要なデータも経験も十分でなく、気象や地震よりも更に予想は困難であるという。
    著者は、生物界全体や人類の存亡に関わるような巨大噴火への警鐘を鳴らすが、このような噴火については、普通の火山噴火以上に不確かで、地質学的には興味深いが、今後については何も分からないに等しく、その点が(仕方がないことではあるが)満たされなかった。

  • 過去にどこの山がどのように噴火したか,ということが延々と語られるばかりで,アカデミックな話はほとんどない。しかも,結局噴火の予知は不可能だと結論づけている。まぁそりゃそうだろうが。それなのに,どこそこの山は近いうちに必ず噴火するはず,とかいう矛盾した主張を繰り返し,無用に読み手の不安を煽る。日本中にこれだけ火山があるというのに,そこら中危険,危険では,どうしろというのか。M9以上の大地震の後には,必ず周辺で噴火が起きていると論じた後で,唯一の例外だった東北地方太平洋沖地震についても,3年も経った後の御嶽山噴火を結びつけて,例外がなくなったとしているところで,呆れ果てた。全く科学的・論理的でない本。

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著者プロフィール

1941年東京生まれ。東京大学理学部卒。同大学院修了。
理学博士。東大助手、北海道大学助教授、北大教授、CCSS(人工地震の国際学会)会長、北大海底地震観測施設長、北大浦河地震観測所長、北大えりも地殻変動観測所長、北大地震火山研究観測センター長、国立極地研究所長を経て、武蔵野学院大学特任教授。ポーランド科学アカデミー外国人会員(終身)。
自ら開発した海底地震計の観測での航海は、地球ほぼ12周分になる。趣味は1930-1950年代のカメラ、アフリカの民族仮面の収集、中古車の修理、テニスなど。

「2016年 『富士山大爆発のすべて』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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