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- / ISBN・EAN: 4988111248640
感想・レビュー・書評
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ストーリーは財閥の御曹司デュポンがレスリング金メダリストを殺害した実在の事件を映画化した内容。
監督はベネット・ミラー。演出が上手いですね。
映画はキツネ狩りをする往時の英国貴族たちのセピア色の画像から始まる。
キツネを名声と喩えれば、さしあたりキツネ狩りをする貴族は御曹司のデュポン。キツネを追う猟犬はレスリング金メダリスト兄弟(デイヴとマーク)といったところか。冒頭のモノクロ映像と映画タイトルは人物たちの関係性と物語を象徴している。巧い。
ストーリーは重苦しい。が、それを引き立てているのがショットの明度で人物の心理描写をする演出。明暗のグラデーションによって心象を映していく。だから説明調の言葉や台詞が一切ない。必要最低限な演出によって映画が重苦しいサスペンスに仕上がっている。
役者陣の演技も申し分ない。
付け鼻でデュポンを演じたスティーヴ・カレル。傲岸と支配欲と孤独が入り混じった姿を演じ切っている。痛々しさが伝わってきて胸が騒ぐ。
そんなデュポンとひととき心を通わせたレスリング金メダリストのマーク。チャニング・テイタムの不満を抱えつつ何かに飢えている演技が見せる。
特に試合に負けた後、ホテルの部屋で独り暴れるシーン。悔しさと不甲斐なさ。自分に苛立つ。鏡を頭突きで叩き割るカットは苛立ちを超えて狂気すら感じる。
貧窮と兄・デイヴに依存するマークも生の充足感の欠落を抱えている。欠落ゆえに御曹司と繋がる。でも支配欲と名声しか欲しないお金持ちに限界を感じたマークはアスリートゆえにデュポンと袂を分たねばならなかった。
そんな二人の心中におそらく関心も興味もないマークの兄・デイヴ。演じたのはマーク・ラファロ。最初見たときだと誰だろう?と気付かないほど鍛え抜かれた身体に驚いた。レスリングの腕は弟より格段に上。コミュニケーション能力が高く指導者としての資質もある。独立独歩でアスリート人生を歩んできた自信と充足感に満ちている。
デイヴがデュポンのレスリングチームに加入してから徐々に三人の関係が狂い出す。
なぜ財閥御曹司はレスリング金メダリスト・デイヴを殺害したのか。見る人によって様々な解釈ができると思う。
マークが自分のもとを離れたのは、兄デイヴのせいだとデュポンは考えたのではないか。デュポンが作らせた自画自賛ドキュメンタリーのなかで自身がこう語る。「コーチとは父であり、人生の師であり、アスリートに多大な影響を与える」。
だが、友人で自分のものだと思っていたマークが立ち去った。誰かの父になれず、誰の人生の師にもなれず、アスリートに多大な影響を与えられなかった。ドキュメンタリーのなかでしゃべる自分をみて客観的に悟った。理想の自分と現実を。どうしてこうなった?誰が悪い?、と。
デュポンは自己愛の強い人だったのかもしれない。
自己愛の強い人は攻撃欲が強い。
どういうことか。「自分はすごい人間だ。もっとできる」。そんな自己愛な万能感を抱いている。けど、現実の自分はあまりに惨め。でも自己愛が強いがために理想と現実のギャップに苦しむ。その事実を認めたくない。だから自分以外の何かが、誰かが悪い。他責的な考えをし他人を攻撃する。
万能感と現実のギャップが大きければ大きいほど他人への不満は募り、攻撃的になる。 母親の愛情を知らずに育ったデュポンが承認欲求と自己愛を肥大化させて自己を守ってきたことは想像がつく。
自画自賛ドキュメンタリーを見た後、部下を呼ぶデュポン。感情の起伏が全く見えない横顔が怖くて仕方がなかった。デイヴの家まで車を走らせ、惨劇に至る。
一体どこまでが事実に基づいていて、どこまでが脚色なんだろうか。どっちにしろ重苦しい内容で、観終えてどっと疲れた。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
他の誰かではなく、
自分自身で必要とされたかった互いの孤独だが、
そこにあるのは思いやりではなく、
独占欲や支配欲や、
互いに互いを重ねるだけで、
結局自分のことしか見つめていなかったのだろう。
兄は2人に対して、
悪意あることをしたのか?
いや、一切していないことが、
悲劇の始まりだったのか? -
大富豪のデュポンのレスリングチーム”フォックスキャッチャー”にスカウトされた、84年のオリンピック金メダリストのマーク・シュルツ。徐々に関係性を深めていく二人だが、デュポンがマークの兄で優秀な指導者であるデイヴのスカウトに固執しはじめ、三人の関係性は変わっていく。
マークが主人公かと思いながら観ていましたが、途中で「これはデュポンの話でもあるんだな」となりました。
印象的なシーンは、マークが国際大会で優勝した時の打ち上げの席でのデュポンのスピーチ。
無表情なシーンが多くて、目的がいまひとつ見えてこなかったデュポンなのですが、そのスピーチだけであっという間に、彼の人間性がつかめたような気がします。
映画の中で彼の幼少期や、家族関係については匂わす程度にしか触れられていないのですが、その場面だけで、彼が何を思いマークをスカウトしたのか、そして何を目的としているのか、ということが伝わってきます。セリフ回しの良さやデュポンを演じるスティーヴ・カレルさんの演技の巧さを感じました。
そしてデイヴ加入後、デュポンとシュルツの関係性やそれぞれの心情も大きく変化していきます。それぞれのコンプレックスや承認に対する欲求を、くっきりと浮き彫りにしていく感じが観ていてぞくぞくしてきます。
そして、映画のラスト。実際にあった事件を基にしたということで、事件の動機や、その後のシュルツの心情については触れられていないのですが、そうしたものもなんとなく想像させられます。それも、事件に至るまでの登場人物たちの感情の描き方が巧かったからだと思います。
派手さはないものの、丁寧に作られた秀作だったと思います。 -
なかなかよかった。
寡作な監督だが発表する映画はどれもがっしりとした
内容を持った良作ぞろい。
カポーティ、マネーボール、そしてフォックスキャッチャー。
どれも史実を元にした映画。
だがドキュメンタリックな内容であっても
取って出しのような乱暴な映像ではなく
丁寧にお色直しをした見ごたえのあるものだ。
ちょっと距離感のある映像と
ドキュメントのような言葉少ないがしっかりと
場面が理解できる脚本と。
見事な出来栄えにうなる。
デュポン役のスティーブカレル。
コメディアンだと思っていたがなんとも不気味な男を演じた。
無骨で不器用な弟をチャニングテイタム。
マークラファロもいい味だ。
おすすめ、、、地味だけどね。 -
始まってすぐに息苦しさを感じた
終始、胸の内にくすぶる憤懣が出口を求めるように
漂っていてとても息苦しい
金メダルリストになったはずなのに生活は惨めで
明るい未来を描くことも出来なかった
試合を迎えるほどに負ける訳にはいかないと
卑屈になり目の前だけしか
見えていなかった
自分を認めようとしない母親への反発と
それでも褒めて欲しい、認めて欲しいと
願う心を捨てきれないでいた
何もかも順調に行っているはずだった
自らの力で栄光を手に入れるはずだった…
切札として兄を手に入れたことによって
歯車が狂い始める
兄弟の絆、家族の絆
金も地位も名誉もあるはずの自分が
手に入れた事のない温もりや安らぎ
それが欲しかった
それを手にすれば渇きに苛まれた胸中も
満ち足りるはずだった…
悲しくて苦しい感情の渦巻く作品でした。 -
チャニングテイタム演じるマークが大富豪に振り回されていくのが見ていて辛かった。大富豪が何考えてるかわからない感じで怖かったけど調べたら統合失調症を患っていたらしい。全体的に静かなのに惹き込まれる不思議な映画でした。
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いいカレルだった。
正直、派手な描写、派手な演技はないが、微細に繊細に伝わり来るものがあった。 -
兄に勝る弟などいないのだよ!ってことで。負い目を感じるもの同士の絶頂からの転落。優しくされると傷つくぜ〜。パトロンのサイコっぷりが最高に怖かったですね。
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映画に通底した不気味な雰囲気が良かった。