多数決を疑う 社会的選択理論とは何か (岩波新書) [Kindle]

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感想・レビュー・書評

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  • 1.この本を一言で表すと?
    単純な多数決の問題点や、多数決以外のさまざまな決め方の特徴をわかりやすく紹介した本。

    2.よかった点を3~5つ
    ・ボルダルール、ペア敗者基準(p14)
    →ボルダルールがペア敗者基準を満たすと言う点で性能が良いというのは驚きだ。

    ・総合的な評価としてボルダルールは良い(p58)
    →表に各ルールの優劣をまとめている。これはとてもわかりやすい。

    ・陪審定理(p67)
    →人数が多ければ多いほど、正しい確率が100%に限りなく近づいていくと言う事は面白い。ただ、現実的にはどの人数が最適なのかと言う議論は別にあると思う。

    ・小平市の小林正則市長が「投票率が50%に満たない場合は開票しない」と言う成立条件を求め、それを含む修正案が議会で可決されてしまったのだ。小林市長の主張をまとめると、投票率が50%に満たない住民投票の結果は、小平市民の意思として認められないと言うことだ。なお小林市長が当選した小平市長選の投票率は約37%であった。
    (p149)
    →なぜこの矛盾を市長にぶつけなかったのだろうか?

    ・現行の改憲条項は弱い(p133)
    → 64%多数決ルールを考えると、この指摘はもっともだと思う。今まで私はこのような視点はなかったので面白いと感じた。


    2.参考にならなかった所(つっこみ所)
    ・コンドルセ・ヤングの最尤法の数学的な説明があってもよかったのでは?

    3.実践してみようとおもうこと


    5.全体の感想・その他
    ・多数決は本当に国民の意思を適切に反映しているのか?という問いかけは斬新に感じた。
    ・「多数決で決めたから民主的」「選挙で勝ったから民意」とする強引な姿勢がむしろ民主主義を壊すと思う。
    ・ボルダルールは、内容はもっと広く国民に知られて良いと思う。
    ・社会的選択方法についてこのような理論的な体系が出来上がっているとは知らなかった。

  • 多数決は正当、平等な”良い”意見集約の方法なのだろうと思いこんでいた。
    本書では、様々な投票方式の説明、その評価観点を提示され、多数決が万能だという印象を持っていたのが恥ずかしくなった。
    投票方式を調整することで、自分が押したい選択肢を有利にすることもできる、一読しただけで内容を理解できたとは到底思えないが、まずは一つものの見方が増えたことに感謝。

  • 多数決という今の社会では”当たり前”で”正統”なものと思われているものが、意思決定プロセスとして多数決たりえない状況が起こりえることを分かりやすく書かれた良い著作。ボルダルールやコンドルセルールなど様々な集約理論のレビューを通して、決め方とは何かを考えさせてくれる。読み終わってみると、集団の意思決定プロセスを以下に良いものにするかも大事なのだが、人民主権の完全に対等な社会契約下において、いかに熟議的理性(deliberation)を行使し一般意志を構築できるか-それこそが多数決を疑うことを可能にする必須条件のような気がした。

  • 単純な多数決が問題を抱えているというのは、わりとわかりやすいことではあるのだが、ではどういう選択方法が望ましいのか、という難問について、社会的選択理論の立場から解説してくれる一冊。解説は平易にして、決して安易に流れているわけではない手ごたえを感じる。そして、たとえ話やエピソードなど脇道へのそれ方もセンスを感じさせ、ルソーなどの思想的な根拠にも目くばせが利いていて、入門編としていうことなし、と感じる。

  • 多数決には、以前から納得行かない部分を感じていて、読んで見ました。
    多数決の様な社会的な選択の方法は、他にもいくつかあり、数学的に研究されている事が分かりました。

  • 普段何気なく採用している多数決であるが、いろいろと問題があることがわかる。ただし、最後の日本の選挙結果に対する見解は、いささか我田引水という印象を受ける。

  • イギリスのEU離脱を決めた国民投票の後に知人が勧めていたので気になっていた。米大統領戦がトランプの勝利に終わったのをきっかけにいよいよ選挙というものがよくわからなくなり読んでみる。

    筆者は多数決への疑いから始めて、さまざまな集約ルールやメカニズムについて考察し、それらをどこで、どのように使っていけばよいかを問う。
    さらに筆者は憲法改正の国民投票の充足要件の妥当性や、そもそも行政の裁量で投票という形で国民が意思表示をする機会を与えられない点についても問題を指摘する。
    多数決方式の選挙の問題点をまなび、ボルダルールはじめとする代替手段についてそれを実際に国政選挙に使っている国があることを初めて知った。「多数決よりも公平な選挙方法がありえる」なんてこと考えたこともなかった。
    筆者は特に言及しないが、沖縄の基地問題は「多数決による意思決定」を用いてはいけないと思った。

  • 多数決が不完全なものであると同時に、改善案が数多あり各々特徴があることが論じられている。社会的選択理論という学問は、社会科学の中では一風変わった様相だが、その考察及び示唆は極めて社会科学の価値を示すものである。
    内容はそこそこ難しいが、筆者の独特な、しかしテンポある文体が読み手を飽きさせず、社会的選択理論の魅力をとくと表現したものとなっており内容に比べて読みやすいと思う。
    選挙を前にしてこの本を一読してみて良かったと思う。

  • 集団での意思決定としては、多数決が当たり前だと思っていましたが、それを覆すような内容でした。多数決以外の決定方法について、また完璧なものは理論上でしか存在しないということも述べられています。現在の政治上での決定の問題点など、あまり気にかけていなかった部分があります。それ故か一部の人間の意志で進められてきている現状について、知っておく必要があると思いました。多数決も含めて、意思決定の手段は、あくまでツールであり、それをどのように使うのかが重要であるということだと思います。

  • 「自分のことを自分で決めさせろという希求は、自分のことは自分で決められるはずだとういう期待に基づいている。この期待はそれが自分に可能だという、希望の発露の一種である。
    こうした意思を「自分」でなく、「自分たち」に適用したとき、それは民主制を求める思考の基盤となる。」
    社会選択理論のごく基礎的なところを紹介。多数決の欠点から始まり、代替案としてのボルダルールやコンドルセ・ヤングの最尤法を検討。さらにルソーの一般意志やアローの不可能性定理、メカニズムデザインなど、民主制にかかる基礎的概念から民主制を実現する技術論までを考察する。
    民主主義に多少なりとも関心があるなら当然知っているよね、という最低限のものでとくに目新しさはない。しかし、最低限であるからこそ、その価値があるとも言える。本書を読んでから日本の政治・選挙を振り返れば、政治家も有権者もいかに最低限すら理解できていないかがよくわかる。せめて最低限くらいは理解すること、民主主義の恩恵を享受する者の責務だと思う。

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著者プロフィール

慶應義塾大学教授

「2017年 『大人のための社会科 未来を語るために』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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